大変な戦力

リーネは本当に利口な子だ。俺の指示したことは一回では理解できてなかったとしても、二度目でちゃんと理解してくれた。子供でこれができるならもう十分だ。


大人だって、一回じゃ理解できない奴はいくらでもいる。それは現実だ。たまに一回だけで完璧に理解する奴もいるが、そんなのはむしろ少数派だから、実は<普通>じゃない。そっちに基準を置くと、そうじゃない奴の方が多いからイライラする羽目になる。


『一回で理解してくれた方が手間が省けて楽だ』


というのは正直なところではあるものの、それは、ちょっと見方を変えると、


『一部の特殊な例の方に基準を置いて自分が楽をしたい』


という<甘え>でしかないってのが、今なら分かる。


俺自身、今世の父親の言ったことが一回じゃ理解できなくて、何度も何度も怒鳴られたよ。その度に、


『いつか殺してやる……!』


と殺意を滾らせてた。幸い、それを実行する前にこうして離れることができたものの、そうじゃなきゃ、殺しはしなくてもあいつが年老いて衰えたら、自分がやられたことをやり返してた気はするな。


結局、そういうことなんだよ。


あいつは、『丁寧に何度も説明する手間』を惜しんで楽をしたかっただけだ。でもそれは我が子の反発心を育てるだけで、実際には大して効果がなかった。『なにくそ!』とか思って努力する方向に活かせる奴なんて実は少数派だ。普通はただムカついてるだけで大して伸びたりはしない。


競技とかじゃそういう形で、


『伸びない奴はふるい落とす』


という意味もあるかもしれないが、逆に落伍者を出しちゃそれが社会のリスクにもなる一般人の場合は、極力、使えるようにしなきゃいけないんだよ。前世の俺は、それもわきまえてなかった。


リーネも、しっかりと社会を支える一人になってもらわなきゃいけない。それを考えれば『ふるいに掛ける』じゃなくて、『丁寧に育てる』必要があるんだと実感する。


だから俺は、前世の失敗を繰り返さないように努力するんだ。


『お前なんか生まなきゃよかった』


は、自分の子供が思ったように育たなかった時に親がつい口にしてしまうことかもしれないが、俺は、嫌なら放っておけばよかったのにリーネと一緒に行動することを選んだ。それは、まぎれもなく<俺自身の選択>だ。俺が自分でそれを選択したんだ。リーネが押し掛けてきたわけじゃない。


なら、自分の選択に責任を負うのが<大人>ってもんだろう?


で、そのリーネは、桶いっぱいに果実や木の実を収穫してくれた。


うん、大変な<戦力>じゃないか。


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