順番が回ってくる

慎重に沢まで降りると、


「お前、臭いぞ。洗ってやるから服を脱げ」


と言った。


「!?」


ビクン! とリーネが体を竦ませる。いよいよ自分の体を、と思ったのかもしれないが、悪い、俺はそっちの趣味はないんだ。正直、こっちの連中で、子供をって奴も、そのほとんどが、


『たまには別のも味わってみたい』


って感じので、<真性>の奴と思しきのは実は見たことないんだよな。つまり、我慢しようと思えば我慢できる程度のがほとんどなんだろう。なのに、『たまには別のも味わってみたい』程度の気持ちで子供に手を出しているってのは、どっちにしても<クソ>だとしか俺は思わないけどな。


で、そんな<クソ>の仲間にはなりたくねえから、


「俺は子供に手を出す気はねえ。ションベン臭いんだよ。ごちゃごちゃ言わずに脱げ」


と命じた。


「…はい……」


するとリーネは観念して着ているものを脱ぎ始める。できれば沢で体も洗ってもらいたいものだが、この時期の沢の水は雪解け水が多く混じっているからか、さすがに冷たい。そこまで無理はさせられない。ましてや病み上がりなんだから。


そんなこともあり、俺は、リーネがのろのろと服を脱いでる間に落ち葉と枯草を集めて山の斜面に盛り上げて、


「ほら、服が乾くまでそこに入ってろ。そうすりゃ寒くないだろ」


と促した。天気も良くて日が当たる場所なら裸のままでも大丈夫そうにも思うものの、寒さとは別の意味で、体を覆えるものがある方がいいだろ。


「あ、はい……」


着ていたものを脱いですっぽんぽんになったリーネが、<落ち葉と枯草の山>に潜り込む。


それを横目で確認しつつ、俺はリーネの脱いだものから火打石や小さなナイフやなんかよく分からない小石を出して、川原の大きな石の上に並べて、衣服の方は沢に突っ込んでざぶざぶと洗い始めた。洗剤はないから水洗いだけだ。


が、手を突っ込んで洗い物をするには、さすがにまだ厳しい水の冷たさだ。それでも俺は我慢して洗う。大人でもきついそれを、ここの連中は、子供にやらせる。それがここでの『当たり前』だと言えばその通りなんだろうが、正直、俺は納得がいかない。


前世の記憶があるからと言われればその通りなんだとしてもなあ、もしかすると前世の俺は、娘にやらせてたかもしれないんだ。


『大人になるためには必要なことだ!』


とか言ってな。だが、少なくとも、今の俺は、<アントニオ・アーク>としては、そんな気分にはなれないんだよ。


大人でも辛い役目を子供に押し付けて楽したいって気になれないんだ。


子供のうちにやらなくたって、どうせ大人になったら順番が回ってくるんだ。だったら、大人が、


『こうやるんだぞ』


って手本を見せるだけでいいんじゃないか? と今の俺は思う。


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