第45話 『実家』
本日3話同時掲載しています。最新話からこられた方は43話からお読み下さい。
41話に出てきたコアモンスターの設定を少し変更しました。
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愛車で先輩を家まで送り届け、その足で正仁の家に向かうも、生憎と留守であった。
おかしい……。少なくともおじさんは居ると思ったのだが、全く人の気配が無い。こそっと魔力感知もしてみたのだが、本当に留守のようだ。
正仁に電話してみるも、どうやら電源が入っていないようだ。昨日までは一応メッセージの返信もあったのだが。まあ、何を聞いても「大丈夫だ」の一点張りだったんだが……。
これはお義兄さんに相談した方がいいかもしれない。
警察官をしている姉の旦那さんには、高校時代から正仁の家のことで度々世話になっていた。
今も見回りがてら家に顔を出したりしてくれているようなので、何か知っているかもしれない。
実家はアパートから車で1時間ほどの田舎町にある。電車だとローカル線に乗り換えたりなんだりで下手したら2時間くらいかかることもあるのだが、なんだかんだで実家から通学できなくもない距離だ。実際学区の被る先輩や、わりと近所に住んでいる正仁も実家暮らしだし。
俺が一人暮らしを始めたのは、同居していた姉夫婦の子供たちが、俺の大学進学と同時に中学に上がったためだ。
それまでは双子ということもあり姉弟で同じ部屋を使っていたのだが、さすがに中学に上がるのに男女で同じ部屋なのはいかがなものかという問題が出た。が、かと言って部屋数に余裕もない。
増築か、思い切って新築するのはどうかという話もあったのだが、俺も大学を卒業すればどちらにしろ家を出ることになるだろうし、一人暮らしに慣れておくのもいいだろうということで、少し早い一人立ちをすることになったのだ。まあ、まだ学生だし家賃とかは援助してもらってるけど。
「あらあら、佑真。もう夏休みだったかしら?」
「大学休校んなっちゃって、早めに夏休み入ったんだよね」
「まあまあ」
困ったわぁ~とおっとり言う母に出迎えられて家に入る。
平日の昼間なので、久々に帰宅した家には母しか居なかった。中学も夏休みに入っているはずだが、甥っ子と姪っ子は遊びに出ているようだ。
「あ、昼と夜は外で食べる予定だから」
「ご飯はね~、大丈夫なんだけど……」
急に来たので食事の用意が出来ないのを困っているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
昼食と夕食がいらないのは本当だ。まあ、外で食べるんじゃなく、『箱庭』の中で食べる予定なんだが。
先輩の話を聞いて自分でも色々考えた結果、残っているドラゴン肉は全部俺が食べることに決めた。振舞おうと思っていた家族には申し訳ないが、ステーキ用のドラゴンは俺が頑張って狩ってくるので待っていてほしい。
これからせっせと肉を消費しなければならないので、折角実家に居るのに同じ食卓を囲むことができない。なので、本来なら暫く滞在しようと思っていたのだが、明日か明後日には帰る予定でいた。
……ホントは一泊のつもりだったんだが、正仁と会えなかったからな。お義兄さんに話を聞いて、明日もう一度訪ねてみる予定だ。
「あのね、佑真のお部屋が今ちょっとアレなの~」
そう言う母に引っ張られて、俺の部屋……というか、引っ越しの際に置いて行った家具やなにかを突っ込んである納戸に向かった。
「うわ、凄いことになってんじゃん」
「ごめんね~。他に置き場所がなくって」
納戸を覗くと、そこは床からベットの上まで荷物が山積みになっていた。
段ボール箱の他、トイレットペーパーやティッシュペーパー、スーパーの袋に入ったシャンプーやトリートメント等の消耗品類が、一家庭で消費するには多すぎる量積まれている。
蓋の開いている段ボールをいくつか覗き込めば、缶詰やレトルト食品、野菜ジュースのパックなんかが箱一杯に詰まっていた。あ、段ボール箱の奥に米袋が山積みになってる。
聞けば、この部屋以外も同様の状態になっているらしい。そういや廊下の隅にも段ボール箱が積まれてたな。
「え?何の備蓄?」
「何のってわけじゃないの~。ただね、ちょっと……」
不安で……。と、小さく零した母の様子に驚いて、俺の半分ほどの面積しかない小さな背を宥めるように擦った。
世界が変質しはじめて以降、異変を感知していない人達にも訳もない不安が広がっている。母が感じているのも同質のものだろう。
「まあ、その、なんだ、大丈夫だから。俺も今回はすぐ戻る予定でいるけど、また一週間くらいしたら帰ってくるから」
「あらあら、心配させてごめんなさいね。大丈夫よ~」
調子を取り戻した母にほっと息をつく。
『箱庭』という安全圏があることを教えて安心させたいが、世界に起きている異変も一緒に説明しないといけないし、余計に不安を煽るだけになるかもしれない。
説明するならばしっかりと時間を取って、家族全員で今後のことについて話し合わなくてはならないが、地図を公表するまではあまり時間に余裕がない。
先輩とも話し合った結果、お互いの家族に『箱庭』のことなんかを説明するのは、地図の公表が済んでからにすると決めてあった。
まあ、手伝いを頼むかもしれない甥っ子と、甥っ子に着いてくるだろう姪っ子に関してはその限りではないんだが……。
「とりあえずシャワー浴びたいから着替えと、あとブランケットの救出かな」
「まあまあ、寝る場所はどうしましょうね~」
「リビングのソファで寝るからいいよ」
一応ベットもあるので部屋扱いしているが、窓が一つしかなくて風通しが悪い上エアコンも無いので、帰って来た時にはいつもリビングに布団を敷いて寝ている。
まあ、ブランケットは無くても寝れるし、とりあえず着替えかな。部屋の奥に衣装箪笥があるので、そこまでの道を拓かねば。
今日はこれから買い物に行って『箱庭』に置く備品を買い揃えたり、マーケットボードで売りに出す商品も物色したいし、さっさと服を救出してシャワーを浴びてこよう。
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