第35話 介入
「グルアッ!!」
「ぐうっ!」
ゴブリンソルジャーによる攻撃を、忠雄は何とか武器の柄を使うことでなんとか防ぐ。
幸隆と同じ大郷学園に通う伊藤・志摩・忠雄の3人組パーティーは、突然現れたゴブリンソルジャーによって最悪の状況に陥っていた。
不意打ちを受け、伊藤が早々に重傷を負うことになってしまったからだ。
この12層に来れているのだから、彼らも10層のエリアボスであるゴブリンソルジャーを倒すことができる。
しかし、それは3人が連携することによって可能なことで、単騎で討伐できるレベルではない。
そのため、忠雄が今できることは、ゴブリンソルジャーの意識を自分に向けて、攻撃を防御し続けることで志摩が伊藤の怪我を回復させる時間を稼ぐ事だけだ。
「志摩! まだか!?」
何度も迫り来る攻撃を、忠雄はなんとか防ぐことに成功しているが、そうできるのも時間の問題だ。
ゴブリンソルジャーとのパワー差があるため、攻撃を防ぐ度に武器を持つ忠雄の手が痺れ始めているからだ。
そのことが分かっているため、忠雄は焦った様子で伊藤を回復させている志摩へと問いかける。
「だ、駄目だ! もう少しかかる!」
「何っ!?」
体内の魔力を全身に纏うようにことでできる身体強化、それを使用することによって、ゴブリンソルジャーの攻撃を防いでいるのだが、身体強化はかなりの集中力を必要とする。
それを戦闘中に使用するため、かなりの速度で魔力が消費されて行き、魔力が残り少なくなって来た。
このままではゴブリンソルジャーを抑え込めない。
そのため、志摩からの返事を聞いた忠雄は戸惑いの声を上げた。
「ガアァーー!!」
「っ!!」
戸惑った忠雄の僅かな隙を突くかのように、ゴブリンソルジャーは一気に距離を詰めて来た。
そして、忠雄の腹へと目掛けて、右拳による強力な攻撃を振るってきた。
ゴブリンソルジャーの動きに対して僅かに反応の遅れた忠雄は、武器の柄による防御へと必死に移る。
“バキッ!!”
「っっっ!!」
防御がギリギリ間に合ったことで大ダメージを受けることを回避できたが、忠雄にとっては更に状況が悪化した。
ゴブリンソルジャーの攻撃を受け止めたことで、武器が壊れてしまったためだ。
「グルアッ!!」
「いっ!?」
武器を壊したことで、ゴブリンソルジャーは左拳による追撃を放ってきた。
その攻撃を、忠雄は必死の形相で横へと飛び退くことで躱すことに成功した。
「グフッ!」
「っ!? や、やば……」
攻撃を躱されたというのに、ゴブリンソルジャーは笑みを浮かべる。
その笑みの理由を、忠雄はすぐに理解した。
攻撃を躱すことたけに必死になっていたため、伊藤と志摩から離れてしまった。
それを見逃さず、ゴブリンソルジャーは忠雄を無視して志摩たちの方へと駆け出した。
「グルアッ!!」
「っっっ!?」
「志摩っ!!」
負傷した伊藤の回復に集中していたため、志摩は迫り来るゴブリンソルジャーに対して無防備の状態でゴブリンソルジャーの接近を見ていることしかできない。
忠雄は仲間である2人を守るために破壊されて残った武器で何ができる訳もないということは分かりつつも、ゴブリンソルジャーを追いかける。
位置的に忠雄の助けは間に合わない。
この状態では、伊藤と共に自分もゴブリンソルジャーを受けることになる状況に、志摩は必死に頭の中で助かる方法を見つけ出そうとする。
しかし、その全てが不可能と分かり、志摩は訪れるであろう痛みに恐怖しながら目を瞑るしかなかった。
「そこまでだ!」
「ガッ!!」
「「っっっ!?」」
絶体絶命の状況の志摩たち、何者かの声と共に突如疾風が巻き起こる。
その声と共に、志摩と伊藤に迫っていたゴブリンソルジャーが吹っ飛んだ。
飛んで行ったゴブリンソルジャーに驚きつつも、忠雄と志摩はひとまず自分たちが助かったことに安堵した。
◆◆◆◆◆
「あそこだっ!」
「ほ、本当だ……」
時間は少し遡り、前を走る与一が声を上げる。
結構な距離を猛スピードで走っているというのに平然としている与一に対し、幸隆は少し息切れしつつ返答した。
まだ遠いが、3人が魔物と戦っているようだ。
とは言っても、戦っているのは防戦一方なのが1人。
1人は倒れており、もう1人はその治療をしているようだ。
「……っていうか、何でゴブリンソルジャーが!?」
近付くにつれて、戦っている魔物の姿がはっきりと見えてくる。
その魔物の姿に、幸隆は驚きの声を上げる。
10層以外では出現しない浅い階層だというのに、ゴブリンソルジャーが存在しているからだ。
「あ、あれは……」
幸隆以上に息切れをしながらも、亜美も必死に付いてきた。
そして、何が起きているのかを理解し、ゴブリンソルジャーと戦っている者たちの顔を見て声を上げた。
「知り合いか?」
「と、隣のクラスの……」
「あぁ、そういえば……」
3人が魔物と戦闘している。
それを見て反応した亜美に、幸隆が問いかける。
すると、亜美は息切れで言い切ることができないまでも、幸隆に伝わるように短く返答をした。
その返答を聞いて、幸隆もようやく3人の事を思いだした。
見たことある顔だと思ったが、どうやら隣のクラスの3人だ。
『同じ学園の1年か? どうやら個人で勝てるレベルではないようだな……』
幸隆と亜美の会話を聞いていた与一は、心の中で納得する。
遠くから見ている状況だが、長巻を使用して戦っている少年は防御をする事で精一杯。
しかも、魔力の消費からすると、全力で戦っているというのにそのような状況だということだ。
とても単独でゴブリンソルジャーに勝てるとは思えない。
「まずいな……」
仲間を守るように戦っているが、その少年の武器がゴブリンソルジャーに武器を破壊された。
それを見て、与一は小さく声を漏らす。
あの少年では、武器が無い状況では防御すらままならなくなる。
案の定、ゴブリンソルジャーの攻撃を避けるために、必要以上の距離をあけてしまった。
あれでは、他の2人が狙われてしまう。
「俺がやる! 2人は彼らの保護を!」
「「了解!!」」
与一の思った通り、ゴブリンソルジャーは戦っていない2人に標的を変えたようだ。
通常、ダンジョン内で他の戦闘に加わる場合は声掛けをするのがマナーとなっているが、そんな事を言っている状況ではない。
そのことが分かっているため、与一は幸隆と亜美に短い指示を出して、更に移動速度を加速した。
「そこまでだ!」
加速した移動速度を落とすことなく、与一はそのまま飛び蹴りを放ち、ゴブリンソルジャーを吹っ飛ばした。
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