第32話 次へ
「ボス戦だが、言ったように俺は手を出さない。もちろん、もしもの時は介入するから、安心して挑んでくれ」
階段を降り、9層から10層にたどり着く。
そして、すぐにボスが存在していると思われる部屋の、扉の前へと辿り着いた。
その扉を開く前に、倉岡家当主の与一は幸隆と亜美に自分は手を出さないことを説明をする。
しかし、一応指導のためにダンジョンに入っているため、危険と判断した場合は助けに入ることは約束した。
「「はい!」」
幸隆はゲーム内で、亜美はパーティーで10層のボスとなるゴブリンソルジャーを倒したことがあるため、大きなミスでもしない限り大怪我を負うことはないだろうと考えている。
しかし、幸隆はゲームと現実世界の差に関して、亜美はいつもの仲間と一緒じゃない状態で戦うことに関して不安がある。
そのため、少しだけ緊張した様子で与一の問いに返事をした。
「まあ、今回は2人だが、10層くらいはソロで突破できないと有名ギルドに入ることはできないぞ」
「そうですね……」
探索者の中にはソロで活動する者もいれば、多くの仲間と共に活動している者たちがいる。
ダンジョンは、下層に進めば進むほど強力な魔物が存在していて、その魔物から採れる魔石程魔力が内包されており、国が高値で買い取ってくれる。
それならば、大人数で組んで下層の魔物を倒し、儲けを分け合えば安定的に結構な収入を得られると考える者たちが現れ、その者たちはギルド(組合)を作ることで多くの探索者を集めるようになった。
いくつものギルドができ、その中でも得に稼ぎが高いギルドに入ることができれば、探索者として高収入を得られることになる。
そのため、学園に通う生徒は有名なギルドに入ることを目標に頑張るもの。
その最低ラインと言われているのが、10層をソロでクリアすることのため、幸隆は与一の言葉に頷いた。
「じゃあ、行こう」
「「はい」」
与一が合図と共に扉を開ける。
それを受け、幸隆と亜美は10層の部屋へと入って行った。
「グルル……」
「「っ!!」」
周囲を警戒しつつ10層の部屋の中を進んで行くと、小さな呻き声のような物が聞こえてきた。
それに反応した幸隆と亜美は、足を止めて持っていた武器を握り直した。
「行くよ」
「あぁ」
刀を使った接近戦が得意な幸隆、遠距離から魔術による攻撃・援護が亜美の役割。
ここまでに来るまでに、その連携はある程度出来上がっていた。
そのため、亜美はこれまで通り、戦いの開始の合図というかのように、敵に攻撃を仕掛けた。
「ハッ!!」
亜美の武器は薙刀。
それを構えた状態のまま、体内の魔力を刀身に集め、その先から魔術を放つ。
『なかなか……』
幸隆と亜美から少し離れ、2人の戦いを眺めていることにした与一は、亜美の魔術発動速度を見て、心の中で感心したように呟いた。
魔術戦闘を主体としている1年の学園生なら、野球ボールサイズの火球がスムーズに魔力を集めて使用出来るレベルなのだが、亜美が放ったのはソフトボール大の火球。
そのことから、亜美の魔術師として優秀さが分かるというものだからだ。
「ギッ!!」
亜美の放った火球を、ゴブリンソルジャーはその場から跳び退くことで回避する。
「ッ!?」
火球による先制攻撃を躱したゴブリンソルジャーだったが、すぐ目を見開くことになった。
なぜなら、
「シッ!!」
ゴブリンソルジャーが亜美の火球を躱すことを見越し、幸隆は先回りをしていたからだ。
思った通りに動いたゴブリンソルジャーとの距離を一気に詰めた幸隆は、手に持つ刀を上段から振り下ろした。
「ギッ!!」
「チッ!!」
振り下ろした刀が、ゴブリンソルジャーの胸から腹を斬り裂いたが、その傷は浅い。
与一の口ぶりでは、まだまだ先の階層に進むつもりでいることは明白。
ならば、早々にこの先制攻撃でゴブリンソルジャーを倒したいと考えていたため、幸隆はこの結果に思わず舌打をした。
「ギャウ!!」
「っと!!」
傷を負ったゴブリンソルジャーは、怒りの表情で幸隆へと拳を振るってきた。
その右ストレートを、幸隆は首を横に倒すことで躱す。
「ガアッ!!」
「くっ!!」
攻撃を躱されてもお構いなしと言うかのように、ゴブリンソルジャーは幸隆との距離をさらに詰めてくる。
そして、コンパクトにパンチを連打してきた。
どちらかと言うと接近戦が得意な幸隆だが、ここまで近付くと振り回すことができず刀の方が不利になる。
そのため、幸隆はゴブリンソルジャーの攻撃を刀で防ぎながら後退した。
「ガウッ!!」
「こいつ!」
攻撃を防ぎ、距離を取ろうとした幸隆だったが、そうはさせまいとゴブリンソルジャーが追いすがってくる。
最初の一撃で、距離を取られれば幸隆の攻撃を防げるか分からないと判断したのだろうか。
しかも、亜美のことも気にしているのか、視界に入るように動いている。
ゴブリンの上位種だからと言って、所詮はゴブリン。
だというのに、生意気にも正しい判断を選択してきたため、幸隆は若干苛立ちの声を上げた。
「……まぁ、それもここまでだ」
距離が近すぎて、幸隆は刀による攻撃が封じられた状態になった。
しかし、ゴブリンソルジャーの攻撃は予想の範囲内のため、幸隆は慌てない。
刀で防ぐか躱すことにより、ゴブリンソルジャーの攻撃は幸隆には当たらない。
そして、幸隆は勝利を確信した。
“ドンッ!!”
「ギッ!!」
ゴブリンソルジャーに向かって火球が飛んでくる。
背後からの攻撃に、ゴブリンソルジャーは反応できない。
そのため、ゴブリンソルジャーは躱すことができず、背中に火球が直撃した。
「フゥ~、成功、成功」
火球を放ったのは亜美だ。
ゴブリンソルジャーも、亜美が視界に入るように動いていたようだが、幸隆に距離を取らせないようにするには、どうしても僅かに目を離すタイミングができる。
亜美はそのタイミングを見逃さず火球を放ち、ゴブリンソルジャーの死角から当てるように飛ばした火球を操縦したのだ。
飛ばした火球を操縦するなんて、かなりの集中が必要となる。
そのため、攻撃が成功したことに、亜美は嬉しそうに息を吐いた。
「フンッ!!」
火球をくらったゴブリンソルジャーは、怒りで亜美を睨みつける。
しかし、それは完全に失敗だ。
一瞬とは言え、そんな事をしていることで幸隆に隙を与えたのだから。
その隙を逃す訳もなく、幸隆はゴブリンソルジャーの胴へ向けて薙ぎ払いを放った。
「ギャッ!!」
幸隆の攻撃を受け、ゴブリンソルジャーは短い悲鳴を上げた。
上半身と下半身が真っ二つに斬り分かれ、ゴブリンソルジャーは前のめりに地面に倒れ、すぐに動かなくなった。
「……よし、じゃあ次へ行こう」
「「あ、はい」」
2人の連携もあってか、特に怪我を負うことなくあっという間に倒せた。
これくらいの相手なら、この結果は当たり前と思っているのか、与一は何も言うことなくさっさと次の層へと向かうことを促してきた。
あまりにもあっさりとした与一の反応に戸惑いの声を上げつつ、幸隆と亜美は与一の後を追いかけていった。
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