第6話 説明③
「……でも、どうやって呪いを解けば……」
冬休みの暇つぶしになれば御の字と思って買った安物のゲームだが、まだ始める前の説明の段階だというのに成功だったと言って良いだろう。
呪いを解きさえすれば、昔のように戦えるようになる。
そのことが分かったのだから。
そう分かった幸隆が、次に考えるのは呪いの解き方だ。
「まぁ、解呪の能力がある人間に頼むしかないな」
「解呪士か……」
科学的には証明されていないテレパシーやサイコキネシスなどの超能力や、火や水を生み出すような能力など、ダンジョンができたことで探索者には様々な能力が使えるようになった。
その中には、呪いをかける能力者もいるし、それを解く能力者もいる。
そういった者たちは、呪術士や解呪士といった呼び方をされている。
「見つけられるかな……」
いきなり解呪士と言っても、全く心当たりがない。
呪術士や解呪士はそう多くないため、ネットなどで調べて見つけられるか分からない。
呪いを解けば、もしかしたら今の高校を辞めなくても済むかもしれない。
それなのに、早く見つけられなければ結局辞めなくてはならなくなる。
解呪士をどうやって見つけ出すか、幸隆は手を顎に当てて悩み始めた。
「……おい。お~い!」
「……ハッ! すんません!」
自分がいることを忘れるほど考え事をしていた幸隆に、松山は少しずつ声を大きくして話しかける。
結構大きめの声量になった所で、幸隆はようやく今はゲームの説明中だということを思いだし、無視するような形になってしまった松山へと頭を下げた。
「呪いを解きたい気持ちは分かるが、君の呪いは現実世界の鑑定が通用しないほど強めにかけられている。解呪士に頼むにしても、生半可は解呪士じゃ解けないかもしれないぞ」
「……えっ?」
解呪士さえ見つかればなんとかなる。
そう思っていただけに、幸隆は松山の言葉に固まる。
しかし、言われてみれば確かにそうだ。
事故に遭ってから何度も鑑定を受けたにもかかわらず、呪われた状態ということが分からなかった。
つまりは、鑑定に映らないように隠蔽されているか、鑑定できないほどに強力な呪いなのだろう。
それほどの呪いとなると、相当能力が高くないと解呪することなんてできない可能性がある。
「……もしかして、相当な金額が必要なんじゃ……」
「そりゃそうだな」
「です…よね……」
それでも、もしも能力の高い解呪士を見つけ出せればと考えたが、幸隆はそこであることを思いだした。
解呪士からすれば、それで飯を食っているのだから、解呪するにしても当然無料でというわけがない。
しかも、強力な呪いを解くとなれば、それ相応に値段も高くなるはず。
事故で両親を亡くしたため、幸隆には保険金が下りている。
だが、それはこれからの学費のために取っておきたい。
ただでさえその保険金も生活費で少しずつ削られているため、幸隆はそれを抑えるために叔父の店でバイトをしているのだ。
解呪士の捜索に加えて資金集めもしなければならないことに、幸隆は「やっぱり無理か……」と心の中で思った。
探索者として生きていくのなら、今の高校に残るべきだ。
解呪できればそれも可能かもしれないが、それをするのに時間も資金も足りない。
自分が弱くなった原因が分かったことは嬉しいが、結局退学は免れることはできなさそうだ。
「まぁ、解呪は現実だけじゃなく、このゲーム内でもできるけどな……」
「……えっ? ゲ、ゲーム内で解呪できるんですか!?」
松山の言葉に、幸隆はまたも固まる。
しかし、フリーズはすぐに解け、慌てたように松山へと問いかけた。
「そりゃそうだろ。魔物にも呪いに似た能力を使用する個体がいるんだから、解呪方法を用意しておかないと」
「ま、まあそれはそうですけど……」
魔物の中には知能の高い者もいて、麻痺や石化などの呪いを使用してくる場合がある。
現実と繋がっているとは言っても、ここはゲームの中。
ゲームなのだから、解呪方法を用意していないなんてありえない。
先程の質問に対し、松山からはごもっともな答えが返ってい来た。
「じゃ、じゃあ、すぐにでも解呪を……」
「言っておくけど、ゲーム内でも解呪は高額だからな。町中のクエストとかやって、金貯めないと無理だぞ」
「……え~、そんな……」
ゲーム内でも解呪ができるのなら、わざわざ探す手間が省ける分だけ都合がいい。
ならば、早速ゲームを開始して解呪をしに行きたい。
慌てる幸隆に、松山は冷水を浴びせるような言葉をかける。
開始早々に大量の資金を自由に使用できるゲームなんて、幸隆はこれまで見たことも聞いたことも無い。
結局、資金がなくては解呪できないと知り、幸隆はガックリと肩を落とした。
「落ち込むなって。さっきも言っただろ? ゲームないと現実では時間の進み方が違うって……」
「あっ! そうだっ!」
落ち込んだと思ったら、すぐに元気を取り戻す。
事故に遭ってから今まで、これほど幸隆の感情が上下したことはないだろう。
現実の1日が、このゲーム内では20日になっている。
つまり、ゲーム内で資金を集めて解呪してもらう方が、現実世界で解呪してもらうよりも時間が短縮できるということだ。
「ほれ!」
「……?」
元気を取り戻した幸隆に、松山はカードのような物を寄越してきた。
何かと思って表裏を見てみるが、何も書かれていないため、幸隆は首を傾げるしかなかった。
「町中で使える身分証だ。それに魔力を流せば……って、使えないんだった。血を一滴垂らせば文字が浮かんでくる」
「なるほど……」
解呪の話をしていたら説明が終わらない。
幸隆としてもすぐにでもゲームを始めたいだろうし、松山は説明を再開した。
それがこの身分証だ。
本来なら体内に流れる魔力を使用するのだが、幸隆は呪いで魔力が使用できなくなっている。
そのため、魔力の代わりに血を使うことにした松山は、幸隆に小さい針も渡した。
「ゲーム内の町にはギルドってのがあって、そこで色々なクエストが受けられる。そこでその身分証が必要となる」
「ギルド……」
漫画やラノベでよく聞く単語に、幸隆は思わず反応してしまう。
しかし、松山の説明を止めるとゲーム開始が遅くなると思い、余計なことは言わないように抑えた。
「それと、ゲーム開始時に転移した場所は、お前の拠点となる場所で、そこでそのカードを使ってログアウトができるようになっている」
「ログアウト……」
解呪のことで頭がいっぱいになっていたため、重要なことを聞くのを忘れてた。
ログアウトできるかどうかということだ。
ただその疑問も、松山がした説明であっさりと解決した。
「あと、ギルドは銀行の役割も担っていて、手に入れた資金を預けておけば、そのカードで買い物できるようになっていて、ギルドに預けた預金から即時引き落としされる。いわゆるデビットカードだな」
「なるほど……」
ギルドに預けておけば、現金を持ち歩かなくていいというのは楽でいい。
色々機能が詰まっていて、幸隆はなかなか優秀なカードだと感心した。
「とりあえず……説明は終了だな。何か質問はあるか?」
「あの……」
何度か脱線したが、ようやく一通り説明し終えた。
あとはここから転移して、ゲームを開始するだけだ。
その前に、松山は何か疑問点はないか幸隆に尋ねる。
それに反応するように小さく手を上げ、幸隆は松山へ質問をした。
「なんか、カードの文字が緑色で見づらいんすけど……」
「あぁ、それ……」
言われた通り、幸隆は受け取った針で指を刺して身分証に血を垂らした。
色々な機能が付いているカードだというのに、浮かんだ文字が全て緑色になっていて読みづらい。
「君呪われてるじゃん? 持ち主が状態以上なのを示すためにその色になっているんだ」
「……そ、そうですか……」
そのことを尋ねると、松山はすぐにその理由を説明してくれた。
呪われている。
今まで分からなかった原因が知れたのは良いことだし、理解もした。
しかし、冷静になって改めて言われると、何だか複雑な気分になる。
そのため、幸隆は表情を若干強張らせながら頷いた。
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