パーティ【ガチ恋無用】、出港

「では、【ガチ恋無用】で登録させていただきます」

「さて、そうと決まれば船に急ごう。受付嬢さん、ホルストはどこへ向かいました?」


 勇者たちは、東へ向かったらしい。洞窟に強い魔物の気配があるとかで。


「じゃあ、ボクたちは南に向かおう」

「承知しました。南へ行くなら、海賊にお気をつけください」


 物騒なワードが出てきた。


「海賊ですか?」


 最近、南の海域で海賊行為が多発しているという。セレブが誘拐されたり、貨物船が襲われたりするらしい。「死者は出ていないが、時間の問題かも」との見解だ。


「素人海賊ばかりですので、あまり気になさる必要はないと思いますが」

「ありがとうございます。用心しますね」

「なんでしたら、【船の護衛】が依頼書にありますが?」


 おあつらえ向きの依頼じゃないか。迷わず受諾する。


「じゃあ、行こうか。キュアノ」


 ボクはキュアノの手を引いて、港へ向かう。


 港の宿屋で軽く昼食を済ませた。二人で海藻のサラダとパンのセット、魚介のボンゴレである。


「すごい、ここ。缶詰だよ! 缶詰がある」


 ここは切り身に、ツナ缶を使っていた。缶詰なのに、脂が乗って美味しい。ちっともパサついていなかった。


「次の目的地に、あては、あるの?」


 ボンゴレを頬張りながら、キュアノが尋ねてくる。


「南にある、【ヨートゥンヴァイン】だよ」


 キュアノが、空を見上げた。


巨人のブドウヨートゥンヴァイン、ワインの名産地」


 ヨートゥンヴァインという国は、ここから南西に二日ほど進んだ先にある。船に便乗する貨物船もすべて、ヨートゥンヴァイン行きだ。海賊対策なのか、護衛艦を二隻連れている。


「この缶も、ヨートゥンヴァイン産のを使っていると書いてある」


 すごいな。技術が発達しているんだ。


「そこに知っている人がいるから、会おうかなって」

「どんな人?」

「ワイン農園をやってる貴族だよ」


 ちょっとワケありの人だから、会いづらい人なんだけれど。


「王様には、会いに行かなくていい?」


「そうだよね」


 ここまで来ていて、王様に会わない訳にも。


……って。そうでもないのか、今は。


 ボクは、首を横に振った。


「いいよ。ボクは勇者パーティから追い出されたし、会う理由がないからね。それに……」


 街から遠くにある城を見つめながら、ボクはため息をついた。


「それに?」

「あの城のお姫様がさ、ボクを好きじゃないみたいなんだよね」


 キュアノが、ボンゴレを巻く手を止める。


「サヴは、人から嫌われるようなタイプに見えない」

「どうしようもないことだってあるよ。おそらく、ホルストを独占していると思われているんだろうね」


 エイダ姫様は、ホルストに好意を持っていた。

 王様は、危険な任務についている勇者との交際なんて許していない。

 しかし、段々と思いが募るばかりだと話していた。その情熱は、自分も旅に同行するとか言い出すほど。止めるのが大変だったっけ。


「多分、そのお姫様は嫉妬している。サヴがかわいいから」

「やめてよ。ボクはホルストに好意なんて持っていないから」

「でも、かわいいのは事実」


 なんだか、一気に食欲が失せたよ……。


 食事を済ませ、次の土地へ行く準備をした。


 必要なものを揃えて、港に戻る。


「もうすぐ出発だって!」

「走る」


 船員さんにチケットを渡す。

 駆け足で、ボクらは船に乗り込んだ。


 ボクたちを乗せた船が、出港する。


「船って初めて?」

「漁船には、何度か。冒険用に使うこともある」


 距離を考えたら、陸路でも構わない。しかし、砂漠や岩山を抜けなければならず、海路を使う人が増えた。


 とはいえ、ずっと水平線ばかりなので、つまらないだろう。


「ちょっと、探検しようか」


 船の内部には、バーがある。

 そこで、船員と冒険者がカードで遊んでいた。


「お嬢ちゃんも、やるかい?」

「遠慮しておきます」


 人をお嬢ちゃん呼ばわりする人には、関わりたくないからね。


 カウンターに座って、マスターに軽食と飲み物を頼んだ。


「オレンジジュースをください」

「スクリュードライバーになさいますか?」


 マスターは気を利かせてくれたんだろうけれど、ボクは首を振る。


「ノンアルで」

「かしこまりました」


 ガラの悪い店だとバカにされるんだけれど、ここは雰囲気がよさそうだ。


「そちらの紳士は?」

「ウイスキーをストレートで」


 キュアノのことだよね。相変わらず、キュアノは男装している。

 ボクが中性的な服装をしているから、余計にキュアノの服装は目立つ。どうしてもっと、女性らしい服装とか着ないのだろう。


「お酒が飲めないなんて、意外」

「父がアレだから、飲まないようにしているんだ」


 酔うと泣くんだよと教えると、キュアノは察してくれた。


「今まで、キュアノは男性と交際したことはないの?」


 強いお酒をグッとあおり、キュアノは首を振る。

 グラスを返し、今度は弱めのカクテルに切り替えた。


「キュアノは、口説かれたこととか、ないの?」


「去年、口説いてきたドワーフと飲み比べをして、勝ったことがある」


 うええ、ボクは飲めないからムリだね。


「寝ようか。明日のお昼には到着するそうだよ」


「そう。じゃあ、同じベッドで寝ましょう」


 ええええ!

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