「好きだから追放する」と、同性の勇者から言われました。ボクは全力で逃げます!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 男の娘ニンジャ、惚れられて追放!?

惚れられて、追放!?

「今、なんていったの? ホルスト」


 ボクは、パーティノリーダー、ホルスト・ローエンシュタインに再度問いかける。


「サヴ、お前をパーティから追い出すと言ったんだ」


 真剣な面持ちで、ホルストが告げた。


 ボクは、頭が真っ白になる。


「どうして、ボクが追放されなきゃいけないんだ?」

「好きだから」


 はっ?


「ゴメンよくわかんなかった。もう一回言ってくれるか?」

「好きだからだ。オレは、お前が魔物に傷けられるのを見たくない」


 ボク、友人からそんな目で見られていたのか。


 変だなーとは、思っていた。髪の毛がボブまで伸びて散髪に行こうと思ったら、「そのままにしろ」とか言ってくるし。

 髪留めまで買ってきたときは、どうしてしまったのだろうかと。髪が長いと、戦闘の邪魔になるんだけど?


「だって、敵はオークとかいるんだぞ。かわいいお前がオークの慰みものにされる姿なんて」

「最近のオークは、そんなマイナスイメージを払拭しようと必死らしいよ」


 この間対峙したオークロードなんて、魔法剣士なのに素手で勝負を挑んできた。「魔法なんてファーストフードだ」って言いながらさ。漢だったなぁ。


「でもボクちゃんと勝ったよ」


 ボクは後衛職だが、「ニンジャ」だ。装甲が紙ってだけで、腕っぷしが弱いわけじゃない。


「そのオークロードと戦って、お前は頬を殴られただろ!? あれで、オレはお前の追放を決めた! オレは、サヴが傷つく姿を見たくない!」


 オーク族程度に辛勝している程度の力しかないヘボニンジャじゃ、追放も仕方ないか。


「オークロードがお前に負けて手を差し伸べてきたとき、明らかに目がハートになっていたぞ! オレは確信した。お前は魔物すら魅了するのだと!」


 それってメリットになるんじゃ? パーティから外される理由になるの?


「お前が自分のルックスを武器に、女装して悪徳貴族邸へ偵察に行ったときなんて、生きた心地がしなかったぞ」

「まあ、ニンジャだし。仕事柄、仕方ないよ」

「捕まったら、どんな目に遭わされるのかと思ってな!」


 なんでコイツは興奮しているんだろ? 心配しているような目じゃない。


「それに、オレは剣士で前衛だろ? 後衛で治癒アイテムを振りまいてくれているお前のかわいい姿を見ることができなくて、ヤキモキしていたのに気づかなかったのか?」


 気づきたくなかったよ。


「だからサヴ……いや、サミュエル・ヴォン・ブランケンハイム。オレは、お前を我が家にかくまう。お前は安全な場所にいろ。全てが終わったら、オレが迎えに行く」

「えー」


 冒険したいよ、ボクは。


 広い世界が見たくて、ボクは旅をしている。魔王討伐も目的だけど、この広大な世界で自分が何をできるのか知りたい。


「金を心配しているのか? 安心しろサヴ。お前一人を食わせる程には備えてある」


 魔王の軍勢を多数討伐したお礼として、ホルストは貴族の称号を得たもんね。


「お前は当分、オレが建てた屋敷に住んでもらう」

「じゃあ、その範囲内なら動いてもいい?」

「危険だぞ?」


 構うもんか。


「キミのお屋敷の場所って、ここじゃん」


 ここは、ボクたちの故郷だ。どうして急に、帰省しようと言い出したのかと思えば。


 設置してあるギルドだって、初心者の冒険者向きである。モンスターが無限湧きするダンジョンとかあるけれど、村人でも討伐できるほどに弱い。

 腕試しに初級冒険者がよく立ち寄るため、世間からは通称「始まりの村」と呼ばれている。

 いうほど、危なくはないはずだ。


「強いボディガードも雇った。女性だが、エルフだから相当の腕を持つ。どうしてこんなヤツが、エルフの森から出ずにいたのかと思ったくらいだ」


 エルフ王国の、近衛兵の一人だったらしい。ホルストが信頼するくらいだから、その人は強いんだろう。


「着いたぞ。遠慮するなよ。自分の家だと思ってくつろげばいい」


 確かに、お屋敷はギルドメンバーをみんな住まわせることができるくらいに広い。まあ、仲間だってこれくらいのおうちは建てられるんだけれど。ぜいたくさえしなければ。


「その前に、仲間に一言伝えておかないと」


 ホルストは、渋い顔をした。


「あまり推奨はしないぞ」

「どうして?」

「仲間に、裏切り者がいるかもしれん」


 まさか!


「でも、一人はボクが追放したよね?」

「ああ。その補填も行ったが、どうもアイツは信用ならん」


 この国の王女さまの、一応お兄さまだよね。血が半分つながっているけれど、妾の子だ。王位継承権はない。本人も、身分を隠している。


「王族の血を引いているにしては、ガサツだし」

「見た目や態度で判断しちゃいけないよ。そのせいで、前の魔道士が敵と繋がっていたって見破れなかったでしょ?」


 痛いところを突かれたという顔を、ホルストがした。


「オレは昔から、人を見る目がない。お前を手放すのは悪手だと、本当はわかっているつもりなのに」

「ボクを失うほうが、怖いと」

「ああ。戦略的にも、友情的にも……恋愛的にも」


 最後は余計だよね?


「屋敷に入れ。仲間には、オレから伝えておくさ。きっと、わかってくれるだろう」


 ホルストが屋敷のドアに手をかける。


「誰かいないか? この屋敷の主であるホルスト・ローエンシュタインが、今帰ったぞ」


 屋敷じゅうに聞こえるように、ホルストが大声で叫ぶ。


 玄関を開けると、ショートカットの少女がボクの前に立っていた。


「よく帰ってきた」


 冷気のような声が、少女の口から発せられる。吐息からだけでも、強い魔力が漏れ出している。しかし、イヤな気はしなかった。


「私は、キュアノ・エイデス。あなたを守るために、エルフの里から派遣された」


 耳が長い。エルフだ。背がボクより高く、胸はシャツがはちきれそうだ。女性のエルフである。

 でも、執事服を着ていた。どうしてだろう?

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