【エッセイ】綺麗だった父の文字が乱れてきた話

幻中六花

第1話 自慢だった父の文字

 物心ついたころから、父の文字はとても綺麗だった。

 小学校の持ち物に名前を書いてくれるのも父の役目で、その文字はまるでフォントのように四角く整った形をしていた。

 

 母の字が汚かったかというとそうではなく、我が家は祖父の代からみんな字が綺麗で、父方の祖父も、母方の祖母も、血は繋がっていないけれど字は綺麗だった。

 私の両親も、私の従姉妹も、綺麗だった。


 私はというと、綺麗にもくせ字にも書くことができ、周りの友達の間で丸文字が流行ると丸文字で書き、先生に怒られては戻したりしていた。



 父は昔から多趣味だ。


 ここ数年にいたってはもういい年なのだが、本気の模型を材料から自分で考えて切って組み立てたり、写真を撮影したり、油絵を描いたり、さまざまなことに手を出している。

 製図も趣味のひとつであり、私の実家の設計まで素人ながら全力でやっていた。


 設計ミスらしい設計ミスは、玄関から外に出た際に屋根から落ちる雨水が滝のように流れていることくらいだろうか。

 そこは、家を建ててすぐに修復したようだ。


 父は、文字を書くことも趣味のひとつだったのだろう。

 昔、文字を書く通信講座を受けていた。


 なにやら四角いマス目にひらがなや漢字を書いていくもので、私もやらせてもらったことがある。

 あれは何だったのだろう。

 美文字とは程遠い、ポップ書きに生かせそうな文字だった。


 その甲斐あってかどうかわからないが、父の文字は普段からカクカクしていて読みやすい文字だった。

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