第109話 浴衣とビキニと

 優子ったらマジだよ。

 優子が負けず嫌いなのは、子供の頃からよ~く知ってるんだよ。

 って言うか、優子に限らず柚月も負けず嫌いだからさ、子供の頃は、すぐにこの2人が泣き出して困ったんだよ。


 幼稚園の頃、駄菓子屋さんで、ガリガリ君買ったら、私だけ当たりが出ちゃってさ、そしたら、柚月と優子が2人でズルいって、泣き始めちゃって、駄菓子屋のおばさん困らせちゃったんだから。


 あのさぁ、ホテルのゲームコーナーで、浴衣着てマジになってる優子って、どうよ? 超恥ずかしくね? と思うんだけどな~。

 しかも、優子って、このコースが舞台になってるあの漫画、読み込んでたよね。確か、ウチに、兄貴が置いていったのがあって、捨てようとしてたら、優子が読みたいって言って、全部持って行って、続巻を買い足していって、全巻集めてたよね。


 参ったな、私の勝てる要素何も無しだね……。

 まぁ、当たって砕けろだよ。このシルビア、薄いグリーンのツートンカラーで、カッコ良いね。R32にもこういう色があると、もっといいと思うんだけどな。

 え? 真剣勝負の前に、車の色の話なんかして、私に勝つ気あるの? だって? いや、私はやるだけやる、ってだけで、優子ほどの気迫は無いよ。


 スタートしたよ。

 意外や意外に前に出られた。そうか、こっちの馬力が劣っていても、排気量の近いターボ車だから、出足のダッシュだけは何とかなっちゃうのか。


 優子ったらさ、冷静沈着だから、こうなっても短絡的に慌てないんだよね、だから、現状が読めないんだ。

 とにかく、駆け引きが通用する相手じゃないから、とにかく今のうちに全力で引き離せるだけ引き離しておくしかないよ。どうせ、追いつかれるんだから。


 ただ、なんとなく分かるのは、優子はあの漫画読み込んでるから、勝負をかけるポイントがあそこなんじゃないかな……とは思うんだよね。

 私は、ほとんど読んだこと無いんだけど、兄貴がやたら言ってたような気がするよ。


 よし、もう、引き離すとしたら、あのポイントしかないよ。

 まずは、スケートリンクがある直線で、ターボのパワーを最大限に使って引き離して、その後、5連ヘアピンをなるだけ直線的に抜けるルートがあるんだ、それのルート取りって……って、確か兄貴が言ってたんだよね。


 なんかさ、兄貴ったら、あの漫画読んで、近いからって、実車で攻略に行って、その上でゲームとの相違点を探し出して、色んなあのコースが収録されてるゲームとの、誤差を割り出して、平均値を出したんだよね。

 兄貴曰く『必殺・ハチロク、FD殺し!』なんだって、兄貴はその2車を凄く嫌ってたからね。兄貴は、FCには乗ってたんだけどね。


 どうだっ!


 どうにか勝ったよ!

 もう、あのポイントで引き離せるだけ離したから、なんとかなったけど、アレ知らなかったら、最後の直線に入るところで、追いつかれちゃったところだよ。


 これで、ようやく終わったよぉ。

 もう1回お風呂入ろうよ。


◇◆◇◆◇


 今日も良い日差しだねぇ……。

 ビキニなんてさ、子供の頃以来だよね。

 え? 柚月は、子供の頃から着た事がないって? まぁ、柚月は子供の頃は、起伏に乏しい体つきで、よく男の子と間違えられてたからね。


 痛っ! なにするんだよぉ! 柚月のくせに、生意気な真似ばかりしやがってぇ~!


 「や~め~ろ~!」


 柚月め、午前いっぱい、そこで埋まってろ!

 ほ~ら、砂でIカップにしてやるから、ありがたく思え~!


 さ~て、みんなで、ビーチバレーやろうよ! ちょうど2対2で、人数的にもバランス取れてるしね。


 「待てよ~!」


 ビーチバレーも、なかなか白熱したんだけどさ、最近は、日差しが強くて暑いからさ、どうにも長時間できないのがネックだよね。

 優子と結衣、私と悠梨のチームだったんだけど、スポーツの場合は、結衣がいると、そつなく勝っちゃうんだよねぇ……。


 負けたからコーラおごりだよ……なんで、こういうところのコーラは高いんだろうねぇ……って、これが需要と供給のバランスなんだって?


 さて、お昼はどうしようかなぁ……昨日はイカ焼きだったから、今日は焼きそばかカレーにしようかなぁ。

 正直、海の家のメニューの七不思議って、私ら海なし県の人間からしたら、羨ましくてたまらないわけよねぇ……。

 今年を逃したら、次はいつ体験できるかなんて分からないんだからさ。


 午後は、ちょっと向こうにある島の方まで泳いでみようよ。


 「出せよぉ~!」


 あれ? 柚月、どうしたの? そんなところで、砂蒸しダイエットなんかして。

 え? 私らに、埋められたって? マジイミフ? ねぇ、みんな?


 「出してください~」


 でも、私ら全員、名誉を傷つけられたし~、超不愉快なんですけど~?


 「何でもするから、出してください~」 


 みんな~、柚月が何でもするって。

 じゃぁ、お昼買って来て。私はカレーね。


 ……こういう光景を見て、私らが柚月をイジメてるとか、勘違いする人がたまにいるんだけどさ。柚月は基本的に嫌がってないし、むしろ、こういう風になるのをオイシイ役回りだと思ってるから、敢えて私と結衣にちょっかいを出して、やられるように仕向けてるんだよね。


 そりゃそうだよ。ガチンコで戦ったら、文句なく柚月がぶっちぎりで強いんだし、でも、柚月は、それでみんなから一線を引かれるのが嫌なのさ。

 元々、柚月の親は、柚月に格闘技をやらせるつもりなんて無かったんだけど、子供の頃の柚月は、あまりに病弱だったから、試しにやらせたって、だけだったんだからさ。

 あ、柚月が戻ってきた。


 なんでだろうね? こういうところで食べると、妙に美味しく感じるのって? だってさ、改めて味わって食べると、ちょっと調理たりなくね? って、思うレトルト なんだよ。でも、なんでだろうね、美味しく感じる。


 なに柚月? 視覚ってのは、感覚の中でも影響が大きいんだって? だから、美味しい食べ物でも、トイレの中で食べたら、美味しく感じないのと一緒なんだって?

 なるほどね……確かにそうかもね。


 なんだよ柚月? 熱中症になんて、なってないよ! あまりに反応がまともで面白くないから、熱中症になっちゃったのかと思った、だって?

 ホラ、こいつはこういう奴なんだよ! ここでウソでも『柚月にしちゃぁ、まともな意見だな。ググったのか?』とか、言っておかないと、柚月的にも満足しないのさ。


 さてと、午後は、あっちに見える島みたいなところまで泳いで行こうよ。ブイがある範囲内だし、人があがってるから、泳いで良い場所みたいだよ。

 

 「よぉ~し、マイとユイに復讐してやるぞぉ~!」


 なんだ、柚月、泳ぎで私に勝てると思ってるのか?

 私は一応、小中学校でスイミングスクールに通っていて、水泳の県大会にも出たんだからね。


◇◆◇◆◇


 やっぱり、柚月が3人中でビリじゃん。

 私らに復讐、出来てないじゃん! 


 「ぐぬぅ~!」


 そもそも、勝ち目が全くないじゃん。どういうつもりで勝負を挑んでるのか、全く意味分からん。

 じゃぁ、罰として、柚月には全裸でこの島に上陸して貰おうかな。


 「誰が、そんなことするか~」


 そもそも、復讐するって言い出したのはそっちのくせに、負けても、ペナルティ無しって、どういう俺様ルールだよ!

 おい、結衣、こいつを海に沈めちまおうぜ! このっ! このっ!


 「大変だよー」


 え? どうしたの優子。ちょっと、今から柚月を海底に沈めるところだから、早くしてくれるかな?

 すると、優子が、私たちの近くまで泳いできてから小声で言った。


 「悠梨の、水着の上が、流されちゃったんだよ」


 えっ!? やっぱり、最初から、あのはみ出しそうな水着だと、危ないと思ったんだよね。

 よし、私と結衣は、周辺を探してみよう。

 柚月と優子は、悠梨をガードして戻って行って、優子は先に上がってバスタオル持って行って、悠梨をくるんで連れていって。

 うわぁー、厄介な事が起こったねぇー……よし、探そう。


◇◆◇◆◇


 悠梨ー、ダメだったよ。見つからなかった。

 優子、どうだった? 落とし物で届いてた? 今のところないかぁ……。

 3時半かぁ……じゃぁ、ちょっと早いけど、今日は終わりにして、その辺で遊ぼうかぁ。


 え? 私らは、海で遊びなよ、だって?

 そんなさ、悠梨1人だけで抜けても面白くないじゃん。せっかくみんなで来てるんだから、1人だけ海で遊べないのに、私らだけで遊んでも楽しめないしさ。


 「そうだよ~、悠梨抜きで、海で遊んでも面白くないじゃん~!」


 そうそう、流されたのが柚月の水着だったら、あとの4人で、文句なく楽しむんだけどね。

 痛っ! この野郎! 柚月のくせに、この感動に水を差しやがって! 

 いつの間にか、私と柚月の寸劇の方に、注目が集まる中で、悠梨の移送は成功したよ。

 

 


 

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