第107話 忘れ物と特殊サイズ
私は、優子に訊いてみた。
なんでダメなの? 一応、適合表には載ってるよ。
すると、優子は
「よく読んでよ、それは、後期の4ドアセダン用だって」
と言うので、4ドアと2ドアで何が違う訳? と訊くと
「後期の4ドアセダンは、フロントバッテリーなんだよ」
と、とんでもない事実を言った。
「ええっ!?」
私と悠梨、そして結衣は、思わず言った。
優子曰く、R33はバブル崩壊による影響をモロに喰らい、迷走を続けた代だったそうだ。
バブル絶頂期と重なり、やりたい事のほぼ全てをやり切ったにもかかわらず、月12,000台の販売目標の半分以下の5,000台しか売れず、2ドアのみのS13型シルビアにすら、月の販売台数で負けてしまったR32に対して、R33は絶対に負けられないプレッシャーと、バブル崩壊によって、できる事に限りがあったそうだ。
販売に関して特に言われていたのは、4ドアモデルの不振の回復は必須という事だった。それと、バブル崩壊によって、開発費の削減が叫ばれた結果、ローレルとの車体共通化率が高まり、ボディが大きくなったのだそうだ。
ただし、スカイラインのキャラクターである、スポーティ性能向上のための
しかし、4ドアセダンの、特に2000cc車や、2500ccのノンターボ車を買う層から『大型化したのに、トランクが何故狭くなる?』と盛大なる批判を受け、検討している顧客の他車への流出が多発、頼みのジャーナリストも、重量配分の最適化による運動性能の向上よりも、先代より大型化したボディへの批判に終始して販売台数が減少し、マイナーチェンジ時には、デザインの大幅刷新の他に、4ドアセダンのバッテリーをフロントへと移動させてのトランクの拡大を行ったそうだ。
なるほどね、だから、バッテリーの種類が違うのか。でもって、セダン用のサイズは、悠梨のクーペには無理なの?
「1つは、寸法の問題、そして、もう1つは、爆発の危険性があるからダメ」
ええっ! 爆発するの? いきなり物騒なワードが飛び出したな。
優子が言うには、普通のバッテリーは、微量な水素ガスが発生しており、それ自体は大気に放出されてしまっても問題となる事は少ないという。
しかし、R33などのようにトランクルームや、室内部分に搭載されている場合は、密閉された空間に水素ガスが溜まってしまうために、ちょっとした静電気などで爆発が起こってしまう危険性があるのだそうだ。
だったら、ここにいても仕方ないね。
無い以上は、カー用品店の方へと移動だよ。
ホームセンターから、車で2分ほどの場所に、カー用品店があったよ。地元のカー用品店ほどではない規模の店舗に入った私たちは、バッテリーのコーナーで、同じように悠梨のサイズのバッテリーを探していた。
こっちは、さすがカー用品店だね。
あっさりと同じサイズのバッテリーを発見したよ。パッケージに『R33スカイライン(リアバッテリー車)対応』って書いてあるもんね。
でもって、なんで誰も動かないのかってさ、だって、このバッテリー、凄く高いんだよ。
だって、他のバッテリーの倍以上するんだよ。専用品だからって、ちょっと高すぎだよ。
どう、悠梨?
「今日のホテル代も出なくなっちゃうよ……さすがに……」
と、途方に暮れていると、後ろを通りがかったおじさんが
「R33用だったら、1種類だけ、ワゴンに売ってたぞ」
と、案内してくれた。
ホントだ、これもR33のリアバッテリーって書いてあるよ。
どうも、さっき見てたのと同じメーカーで、似た品番だったから、あっちのに切り替わって廃盤になった、とかじゃないのかな?
あれ? さっきのおじさんがいない。まだ、お礼言ってないのに、困っちゃったね。
とにかく、さっきのやつの半値くらいだよ……これで何とかなったね。
折角だから、会計の時に、旧いのを引き取って貰っちゃおうよ。もういらないしね。
よし、ちょっと暗くなってきちゃったけど、なんとか取り付け、間に合うかな?
◇◆◇◆◇
取り付けは逆の要領でやればいいってのは、分かるんだけど、やっぱり外すのが大変だったものは、取り付けるのも大変だったね。
特に大変だったのは、タワーバー? ってやつを避けて入れるのと、やっぱり上下寸が狭すぎるから、端子がボディに接触して、ショートするんじゃないかって、思うと、ヒヤヒヤしちゃったよ。
取り付けた後は、エンジンをかけてみたんだけど、凄かったよ、キーを捻ったら、すぐに“ヴオオオ”って感じで、エンジンがかかっちゃってさ、調子の良さがよく分かるかかり具合だったよね。
よし、とにかく、これで初日からお騒がせ懸案が、1つ片付いたね。
え? このくらい毎日何かが起こってくれた方が面白い、だって? 結衣、全然面白くないからやめて? ホントに。
結衣はさ、ここに車持って来てないから他人事だけどさ、そうなると、私と悠梨が、貧乏くじの引き合いみたくなるんだからね。
それにしても、一時はどうなるかと思ったバッテリー交換が片付いて、ホントに一安心だね。
このまま帰るまで、悠梨の車をブースターケーブルで、かけ続けなくちゃならなくなるのかと思って、ヒヤヒヤしたんだからさ。
一応、さっきエンジンを見た時、ベルトは新しそうに見えたから大丈夫だと思うんだけど、もし、これで明日の朝に放電しちゃってたら、オルタネーターを疑わなきゃならなくなるよね。
ただ、元々ついてたバッテリーも結構古そうだったし、優子の話だとオルタネーターや、ベルトが怪しそうな傾向はなかったらしいからね。そんなに心配しなくて大丈夫じゃね?
そろそろ夕食の時間だね。こういういいホテルだと、夕食にも期待しちゃうよね。ビジホは夕食ないし、コンビニとか、ファミレスってのも、折角旅行に来たのに味気なくね? って、思っちゃうしさ。
さてと、このままレストランに向かっちゃってもいい時間だね、行こうか……と、言った時、優子が
「柚月は? なんか部屋に入ってから見てないんだけど……」
と、心配そうな顔で、私に言ったため、私と結衣は顔を見合わせた。柚月をお仕置きに、全裸で部屋のベッドに放置してきた事を、忘れるところだったからだ。
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■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
毎回、創作の励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。
次回もお楽しみに。
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