第105話 海とイカ焼き
遂に海に来たよ。
いやぁ~、高校生のうちに1回は行きたかったんだよ。海に。
やっぱりウチらは、海なし県に住んでて、電車のアクセスも良くないからさ、海に憧れる訳よ。
そこで役立ったのが、4月から6月生まれって事だよね。
なにせ、車が使えるからね。私ら、今までの人生で、免許取る時くらいしか、この誕生日のメリットが無かったんだからさ。
今日は朝早くに出たから、ちょっと疲れちゃったけどさ。
お昼過ぎには海に着いちゃったから、バッチリ海を堪能してるって訳よ。
日程は2泊3日ね、今日は午後だけで、最終日は、3時くらいまでだけどさ、それでも丸2日も海が堪能できるのよ、マジ凄くない?
あ、柚月~、私はイカ焼きね。
なに? 自分の分は、自分で買ってこい? 柚月のくせに、どの口が、そんなこと言ってるんだよ!
この間だって、柚月のせっかちのせいで、なにが悲しくて、私が2日間も、トランクが使えない柚月の車で過ごさなきゃならなかったんだよ。
いつもいつも、作業前にはググって来いとか、人には言うくせにさ、自分が何にも調べてないって、どういうことだっての?
このぉ~、やる気かぁ? このっ! このっ! 大体、柚月の分際で、私に楯突こうなんて……どしたの優子?
え? ここは地元じゃないんだから、そんなにじゃれ合ってると、みんながこっちを見ていて恥ずかしいんだって?
とにかく、柚月が素直に言う通りにしてればいいんだよ。早くイカ焼き買って来い!
柚月と悠梨が海の家に行っちゃったよ。あの2人だと、ナンパされに行ってるようなもんだからな、まっすぐ帰ってこれないな。
ちなみに、あの2人だけで繁華街とかに行くと、高確率でナンパにつかまる。私ら5人の中で、柚月や悠梨との組み合わせだと、やはりナンパにつかまりやすくなるんだよ。
なにせ、単独だと、陰キャ扱いされて、全く声のかからない優子だって、柚月や悠梨といると、面白いくらい釣れてしまうから、不思議なんだよね。
ただ、無敵を誇るこの2人も、結衣がいると、誰も寄ってこないんだよ。結衣はね、この2人といると、保護者みたいなオーラを出してるんだよね。だから、凄い殺気が、結構広範囲に飛んでるんだよ。
でもって、この2人は、相手の反応を面白がるためだけに、応じてるフリするから、結局、声かけた方は、あしらわれちゃうんだよね。
大抵は、柚月が得意のバカっぽいフリで『ゴメンね~、そろそろ帰んなきゃ~』ってとぼけて、帰って来ちゃうか、しつこいと、柚月が型を披露するかしてお帰り願っちゃうかなんだよね。
あ、ホラ見ろ、やっぱりあの2人、つかまったよ。
柚月~、イカ焼きを冷ますなよ~。
え? この暑さなのに、イカ焼きは冷めないだろって? そりゃぁ知ってるけどさ、早く帰って来いっていう意味の比喩だよ。
あ、もう既にトークがつまらない模様で、悠梨先生が、私らの方見てゲーって顔しながら“こりゃダメだね”って、ジェスチャーしてるよ。
じゃぁ、どうやって切り上げるかな? お、柚月おもむろにオーバーアクションで、クルリと体の向きを変えたぞ。そして
「ゴメンね~、イカ焼きが冷めちゃうから~もう帰るね~」
だって。
ほら結衣、イカ焼きは冷めるんだよ。
柚月はかき氷、私と悠梨はイカ焼き、優子と結衣は焼きそばを食べながら、さっきの話を訊いていた。
今回のは、どうだったの?
すると、悠梨が
「マジダメだね。デリカシーが無さすぎてさ」
と、さっきと同じような嫌悪感丸出しの表情で言った。
悠梨がこういう顔するのって、よっぽどだね。悠梨はさ、マジでヤバそうな奴とか来ても大抵ヘラヘラしてやり過ごすんだけどね。
すると、柚月も
「最初から最後まで下ネタしか言わないで、ついてくる奴がいると思ってる時点で、どうかしてるよね~」
だってさ。
まったく、変なのも、たまにいるからね。っていうか、そういうのに限って、私らのところに来るような気がするんだけどね。
その後、海に入ってボール遊びしたりしたんだけど、やっぱり、悠梨の水着は脱げなかったんだよね。
だってさ、こんな着るのに勇気がいるような際どいやつなんだよ。なんか、ちょっと動いたら、はみ出しちゃうんじゃないか? とか、モロ出しになっちゃうんじゃないかって、思っちゃうじゃん。
いや、別に私は、ハプニングでポロリ……とかを期待してるんじゃなくて、純粋に心配をしてるんだからね。
ふと気がつくと、午後4時少し前だね。
ホテルのチェックインも始まってるから、そろそろ行こうよ。遅れるよりも早すぎるくらいの方が、良いと思うよ。
ホテルも結構良いところが取れたんだよね。リゾートホテルなのに、ビジホとあまり変わらない値段でさ。良いよね。
私はね、この海のために、いつものカフェのバイトに加えて、夏休みに入ってからは、解体屋さんでもバイトしてお金を貯めたんだからね。
ふふふ……毎日毎日、日焼けに気を付けながら、車体から外されたエンジンからミッションを分離させたりしてたのさ。
え? ウソな訳ないじゃん。
「あのおじさんが、マイに、エンジンとミッションの分離なんてさせる訳ないじゃん~、どうせ、書類の整理とかだろ~!」
柚月~、誘われなかったからって、妬くなよ。あ~、昨日もGT-RのVR38DETTエンジンとミッションの分離が大変だったよ~。
「あそこにR35なんか、入る訳ないやい!」
それが、入ってたんだなぁ~。
まぁ、柚月なんかの目に触れると毒だから、さっさと、おじさんが解体しちゃったんだけどね。
え? 本当だって言うなら色を教えろって? 黒だったよ。これで満足?
くくくくく……柚月め、悔しがってるよ。
そりゃそうだろうね。最近、柚月が生意気だったから、もうしばらく、この状態で引っ張ろう。
じゃぁ、ホテルまでもうすぐだね……って、柚月、どうしたの?
え? 悠梨の車に乗ってくって? 何言ってるのよ。向こうには既に3人乗ってるから、狭くなっちゃうでしょ。
なんだって? ウソつきで裏切り者のマイの車になんか、乗ってやるかって? あ、そ、じゃぁ、ご勝手に。エアコンの良く効く、快適な私の車から、重量とエアコンの風の妨げになる柚月が降りてくれて、ホントに清々するね。
さてと、さっそく出発しよう……って、悠梨の車から、優子が出てきて、ちょっと待ってってこっちに来たよ。
どうしたの? 柚月の代わりにこっちに乗るの?
「大変だよ、バッテリーが、上がっちゃったみたいなんだよ」
え? いきなり?
なんだって? バッテリートラブルは、前兆に気付かないと、突然襲われたように唐突に来るんだって?
で、どうなの? 悠梨?
「まぁ、見ててよ」
悠梨はR33の鍵を捻ったが
“カチッ、カチッ”
と、音がするだけで、肝心なエンジンがかかる様子がない。
このカチカチいうのって、私の車の初日みたいだから、しっかり原因がわかるよ。このR33、バッテリーが上がっちゃったんだ。
仕方ない、悠梨、ボンネット開けて。
え? どうするのって? 私の車から電気分けてあげるんだよ。
え? ブースターケーブル持ってるのかって? そりゃぁ常識だよ。ブースターケーブルと、三角表示板と、けん引ロープは、ちゃんと常備してるよ。
じゃないと、万が一、山の中とかでバッテリーが上がっちゃったら、ロードサービスが来るまで、身動きが取れないじゃん。ウチらは、その山の中に住んでるんだからさ。
あ、じゃぁ、こうしよう。柚月が私に土下座して『偉大なるマイ様に不遜な態度を取って申し訳ありませんでした。是非とも、愚かな私どもの車に電気のお恵みをください』って、言ったら電気分けてあげる。
「誰が、そんなこと言うもんか~!」
柚月は言ったが、次の瞬間、残りの3人に取り押さえられて、私の目の前に跪かされた。
「さあ、早く頭を下げろー!」
「いやだ~!」
悠梨に言われて、柚月は抵抗したが、残りの3人に地面に額を擦り付けさせられていた。
オーッホッホッホッホッホ、柚月、いい気味だよ、ホラ、私の靴を舐めなさい。
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■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
毎回、創作の励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。
次回は
バッテリー上がりが発覚した悠梨のR33。
そこに横たわる課題とは……。
お楽しみに。
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