第88話 週明けとアクティブアメニティシステム

 ■まえがき

 タイトルにある『アクティブアメニティシステム』とは

 R32系の上級グレード(GTS以上)にメーカーオプション設定されている、電子制御アクティブ・フルオートエアコンと、電子制御オーディオのセットオプションの事です。

 単品装着も可能のようですが、当時はバブルという事もあって、ほぼセットでの装着がされていたようです。


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 週明けの部活は、例の教習所の話題でもちきりだったよ。

 やっぱり、伝える側の私らの熱量が高いから、聞く側の下級生にも、その熱が伝わっちゃう訳で、彼女たちの熱狂っぷりったら、それは凄まじいものだったよ。

 なんか、あそこまでやられちゃうとさ、私らが行ってた教習所が潰れちゃうかもね……。


 「そんな事ないよ。あそこは、元々山側じゃなくて、盆地側の人たちが通う教習所だったんだから、平地や盆地の人たちの需要があるでしょ」


 確かに、ウチらの街には、昔、教習所があったらしいからね。

 そこが潰れてから、山を降りたところにある教習所に行くようになったんだよね。

 でもって、あそこの教習所、ケチだよね。これだけ、生徒数が多くても、山側には送迎バスとか出してくれないしさ、何度も言うけどトイレは和式だしさ。


 さて、期末テストも終わると、もう夏休みも間近だけど、その前に、ジムカーナの大会があるから、日程の確認ね。

 当日は、学校からバスが出るんだって、凄くね? これだけ人数のいる部だから、学校から予算が引き出せたんだよ、だって?


 一応、私と柚月が選手で参加はするんだけど、ちょっと参考になるものが無いから、出たとこ勝負で頑張るね。

 今週から、練習場に関しては、ジムカーナ選手の練習に特化するようになっちゃってるね。だから、私と柚月がメインで走らせてもらうね。


◇◆◇◆◇


 あぁ、車で走るのって、こんなに疲れるものなんだね。

 水野の作った、ジムカーナのコースをひたすら走るんだけどさ、カラーコーンで仕切られた中を、クルクル回りながら走るのって、想像以上にしんどいよね。


 しかも、カラーコーンが、みんな同じ色と形だから、途中でコースを見失いやすいんだよね。

 これって、ミスコースすると即失格だからさ、まず最初にコースを覚えなきゃいけないし、当日、発表された後に、そのコースの攻略を考えなくちゃならないからさ、凄く大変だよぉ~。


 そして、走ってる最中はエアコンも使えないし、ヘルメットも着用で、長袖長ズボン必着用で、グローブもしてるから、熱対策も大変だよね。

 エアコン? 使える訳ないでしょ。そんなもの使ったら、やる気ない人だと思われて失笑もんらしいよ。他所よその学校の大半は、軽量化とかでエアコンはコンプレッサーごと外してるみたいだよ。

 ウチの学校はね、練習車両の側面もあるから、外さなかったけど、大会中は使わないよ……さすがに。


 「いや~、結構しんどいね~」


 柚月も、私に同意するように言った。

 でしょ~、今日のコースは、あくまで水野が、過去のジムカーナ大会の傾向から作り出した仮のコースだからね、なんか、慣れ防止のために、毎日コース変えるって言ってたよ。


 「えーーーー! マジーー?」


 マジだって、これが、ジムカーナの大変さなんだって。

 明日は、補欠の選手も入れてやった方が良いね。また、柚月が仮病使って休むかもしれないしね。


 「そんなこと、しないやい!」


 あ、そ。じゃぁ、初めて塾に行く時に、お腹痛いって言って休もうとして、私と優子に捕まえられて塾に行ったのって誰だったっけ?


◇◆◇◆◇


 さて、1、2年生を解散させた後で、そうだ、水野から3年生向けの連絡事項があったんだ。

 えぇと、封筒から、紙を出して、連絡事項を読み上げるよ。

『拝啓

 これから夏を迎えるにあたり、諸君の車の、夏の装備の点検及び整備を推奨する

                                   敬具』 


 なんだこれ?

 なんで、それだけの事を、わざわざ手紙にする必要があるのかな? 今日、私と会ってるよね?

 しかも、拝啓の後に挨拶文が無いから、ちょっと素っ気なさすぎる文になってるぞ。


 ときに、夏の装備って何だろ?


 「冷却系とかが、やられやすいけど~、そっちは、みんな整備済みでしょ、だから~エアコンの事とか言ってるんじゃないの~?」


 そっちか! 確かに、今や夏の必須装備だよね。

 むしろ、無い車とか、想像できないよ。この辺は、まだ、標高が高いから、ちょっと涼しいけど、それでも30度くらいになる日が多いし、麓の街とか、特に盆地になっちゃうところなんて、40度とかになるからね、エアコンは、なくちゃ死んじゃうよね。


 お母さんなんかに訊くと、私らが生まれる前の頃までは、家にもエアコンなくて過ごせてたみたいだけど、この10年来は、さすがに耐えられえなくなって、入れてるって言ってたもんね。


 よし、じゃぁ、みんなエアコンのチェックだよ……って、言っても、私は、もう何回も入れてるんだよね。暑がりだからさ。こういうところだけ、芙美香に似ちゃったんだよね。

 スイッチを入れてみるけど、ホラ

“ゴオオオオオオオーー”

 冷たいでしょ、ちなみにこの『ECON』ってスイッチなに?

 それは、エコノミーモード、っていって、コンプレッサーを切ったり繋いだりして、燃費に寄与しようって狙いで作られたものだけど、エアコンのオンオフに使うクラッチの消耗が激しくなるから、使わない方が良いよ、だって?

 今の車のエアコンに、そんなスイッチ無いでしょ、それが証拠だよ……なるほどね。


 「日産は、マニュアルエアコンには、エコノミースイッチ無かったけど、昔のトヨタの車とかには、マニュアルエアコンにも、エコノミースイッチがついてたね~」


 そうなの柚月? ホラ見てみな……って、昔の有名な漫画の表紙の画像じゃん。ハチロクの空調のスイッチの脇のところにある、青と緑のボタンで、緑がエコノミーモードのスイッチなんだって?


 ついでだから『AMB』スイッチも押してみなって?

 そうだ、このスイッチって、なに? 

 痛っ! 少しは説明書読め、だって? だって、めんどいんだも~ん。


 これは、外気温のスイッチだから、現在の外気と、あまりに、かけ離れた数値を表示した場合は、外気温センサーの、不調が考えられるんだって?

 どれどれ、23度、まぁ、こんなものかな。


 そういう柚月のは、どうなのよ?

 あっ! 普通に動いてやがる。柚月のくせに生意気な! 外気温も私のと同じ数値だね。


 「ちなみに~、外気温センサーは、バンパーの近くについてるから、路面温度が高すぎる場合は、高い数値を示すからね~」


 そうなのか。

 よし、駐車場所の関係から次は悠梨だね。

 悠梨のは形は似てるけど、R33だから、エアコンのユニットも違うんだろうね。

 あ、ホントだ。『ECON』スイッチが無くなってる。ついでに外気温のスイッチもないよ。


 とにかく、スイッチオン。

 “ゴオオオオオーー”

 こっちも問題なし、涼しいよぉ~。

 心なしか、ボタンタッチも、こっちの方が優しく感じるよ。


 そして、優子のクルーのエアコンは、アナログなマニュアルエアコンだね。

 シンプルな方が、故障因子が少ないって? 確かに、パネルの故障は、少なさそうだよね。

 このカキカキしてるスイッチの感触が、イイ感じだね~。


 問題なしだね。

 優子も、結構エアコンは使ってるから、大丈夫なのは、分かってたよ、だって。


 じゃぁ、あとは結衣のGTS25を残すだけか。

 まぁ、勝手知ったるR32のフルオートエアコンだから、さっさと、スイッチを入れちゃいましょー!

 “ゴオオオオオーー”


 ホラ、問題なし……って、あれ?

 温度設定って、25度だよね? なんだろ、心なしか、全く涼しくないような気がする。

 どうしたの、柚月? え? もっと設定温度を下げろって? じゃぁ、23度、もっと、思い切って下げろって? え~い、じゃぁ……いけ~い、18度だぁ!


 ……やっぱり、全っ然、涼しくならないよぉ~。

 なんか、風が生温かいよぉ……どうなっちゃってるの?

 柚月は、あちこちボタンを押してみて、エンジンの方に耳を近づけてみながら様子を見ていたけど、エンジンを止めると


 「結衣~、このエアコン、壊れてるよ~」


 と、肩をすくめると、残念そうなボディランゲージを交えて言った。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 ★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。

 毎回、創作の励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。


 次回は

 故障している事が発覚した結衣のGTS25のエアコン。

 その、トラブルシューティングが始まる。


 お楽しみに。

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