Chapter 1
第2話 アイスキャンディー
あれは小4の6月。放課後、私は仲の良い何人かの友達と近所の公園でアイスを食べていた。公園の隣には60歳ぐらいのおばちゃん(近所では駄菓子のきーちゃんと呼ばれている)の駄菓子屋がある。この辺の子どもたちは学校から帰ってくるとお小遣いを片手にここに集まって来る。そして日が傾きだす頃まで公園で遊んだり、お菓子を食べたり、きーちゃんと話をしたりしている。昔からやっている店なので小学生だけでなく中学生や高校生、地元のママさんたちにも人気がある。
あの日は雨の多い6月にしては珍しく気持ちのいい快晴で、朝の曇り空がまるでウソだったかのような天気だった。
母が「雨が降るから」と言って渡されたけど今日は一回も使わなかった傘を、いつものように店の前のベンチに立て掛けた。
「きーちゃんこれちょーだい」
10円玉3枚とラムネが入ったアイスを交換し公園のベンチまでダッシュ。
「あーちゃんのも一口たべたい!」
私がそう言うと、
「しょーがないなぁ、じゃあそっちのも」
私のサイダー味とあーちゃんのグレープ味を一口ずつ交換した。
それを見ていたとなりのさっちゃんが、
「わたしも!これレモンだよ」
とさっちゃんのも一口もらった。
「あ、オレも交換すればよかった」
「ケンちゃんざんねんでした。もう食べちゃったもん。」
いつものようにみんなでお菓子を分けながら鬼ごっこをしたりかくれんぼをして時間が過ぎていった。
家に帰ったころには、もうすっかり日は沈んでしまっていた。
ピンポンとチャイムが鳴ったのでインターフォン越しに返事をするときーちゃんの声がした。
「くーちゃん、忘れ物よ。」
どうやらきーちゃんが親切に私の傘を届けに来てくれたらしい。ちなみに、「くーちゃん」というのは、私が駄菓子屋でよく「くまさんシリーズ」のお菓子ばかり買うからそう呼んでいるのだ。本名はメグミ。
「どうもすみません。わざわざ家まで持ってきてくださって。」
「いいのよ。明日、雨降るからないと困るもの。この町ではカサは必須よ。そうだわ、このどらやき賞味期限が近くなってしまってるんだけどまだうちにいっぱいあるの。おじいさんの昔の知り合いが箱で送ってくれたんだけどどうも食べきれなくて。」
そんなかんじで母と10分ほど立ち話をしたあと帰っていった。
その夜は風の強い日できーちゃんが帰っていったあとどこかで救急車のサイレンが鳴っていた。風がうるさい夜だった。まるで誰かが来るよ来るよとずっとお喋りしているかのようでもあった。
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