第34話 ナオさんとの思い出
フォトウェディング以降、まだかまだかと何度もカレンダーを確認し、楽しみにしていた新婚旅行である。
羽田空港からシャルルドゴール空港へ、エールフランス航空の直行便で約12時間30分のフライト。時差がマイナス8時間なので、午前中に飛び立てば、夕方頃にはフランスへ到着する予定だ。おおよそ2時間前に羽田空港に着き、軽く朝食を摂って、JTCカウンターでチケットや資料を受け取った後、チェックインや出国手続きを終えた。ナオさんは新しく作った10年間期限のパスポートを初めて使うことになった。平日で、かつハイシーズンでもないので、あらゆる手続きがスムーズに終わった。
「12時間も座って何するの?」と言って当初不安げだったナオさんだが、杞憂であった。席に着くなりパーソナルモニターであれこれ試して、映画やドラマが思いのほか充実していることを知り、せっかく窓側の席をナオさんに譲ったのにモニターに釘付けである。残念ながら機内食は口に合わなかったみたいだが、モニター視聴と、眠くなれば寝ている内にシャルルドゴール空港へ着いた感じらしい。機内は乾燥し喉が渇く上、ナオさんは普段からこまめに水分補給をするのでお手洗いを心配していたが、寝ている時間も長かったのでトイレの回数が特別多くなることはなかった。
飛行機を降りてシャルルドゴール空港へ到着。まだ入国手続きと荷物の受け取りがある。入国手続きでは俺が先に立ち、お手本を見せた。パスポートを見せて本人か確認されるほか、簡単な質問を受けることがある。俺はある程度英語ができるので苦ではないが、ナオさんにとっては緊張の瞬間である。幸いパスポートと顔を見比べられるだけで、何も会話することなく通過することができた。荷物も破損等なく無事に受け取り、いよいよフランス国土に降り立つ。
「ユウジ君って本当に英語ができるんだね。」
「そう言ってたじゃないですか。」
「今の今まで冗談だと思ってた。私、もし外国語で話しかけられても、まず何を言っているか分からないから答えようがないもん。すごいな~。…怖いからどこに行くのにも、ずっと付いて来てよ。」ナオさんが甘えた顔をする。
「分かっていますよ。」
「ところで、なんでそんなにユウジ君のスーツケースは重そうなの?」
「ああ、2リットルのペットボトルが2本入っていますからね。ホテルや移動中に飲む用です。こっちでエヴィアンとか買っても良いんですけど、日本の水の方が安くてうまいんですよ。歯磨きやうがいとかもこの水と使うといいですよ。」
「さすが経験者。カッコイイ。」ナオさんに褒めてもらえた。
空港エントランスではJTCの現地係員さんが待ってくれていた。車でホテルまで送ってくれる。空港から出ると空は既に暗く、空気も東京より肌寒い。車の中では「置き引きや“ひったくり”に気を付けること。特にスマホや財布は周りに気をつけながら鞄から出すように」などいくつかの注意事項を教えてもらった。
ホテルスクリーブパリ。俺達が5日間滞在するホテルだ。JTC係員さんがレセプションでチェックイン手続きをしてくれたほか、手狭なロビーで2日後に予定しているモンサンミッシェルへのオプションツアーの集合時間や場所、JTCのスイーツ特典や周遊バスの説明等を受けた。
やっと部屋に入って落ち着くことができた。ふかふかのベッドである。このホテルを選んだのは立地がいいのが1番の理由だが、バス・トイレがセパレートである点も良い。ほぼ座っているだけの1日だったが、クタクタに疲れた。ナオさんも元気がない。近くの総菜屋のような店でキッシュを買って部屋で食べて寝ることにした。明日から憧れのパリを満喫する。
ホテルの朝食をいただく。5日間朝食だけは付いているのだ。ビュッフェ形式で好きなものを好きなだけ食べる事ができる。テーブルに案内されるとすぐにコーヒーをサーブしてくれて、ナオさん、俺の順で別々にパン等を取りに行った。席に荷物を置いたまま二人で歩き回るようなことはできない以外は日本と同じである。朝食を満喫してナオさんの元気も戻った。二人とも時差ボケはなさそうだ。
ホテルを出て徒歩数分でオペラ座近くの周遊バスのバス停がある。時間よりやや遅れて赤い2階建てバスが到着し、JTCで貰ったパスを運転手さんに提示して乗り込む。もちろん屋根がない2階に上がって、二人並んで座った頃に手荒な運転でバスが走り出した。オペラ座、コンコルド広場、凱旋門、エッフェル塔、ルーブル美術館、ノートルダム大聖堂を順に回って行くバスだ。
「うわー、綺麗。私達、本当にパリにいるんだね。風も気持ち良い。」
「寒くないですか?」
「ありがとう、ヒートテック着こんでるから大丈夫だよ。」
「よかったです。これで主だった所は回れるんですが、とりあえずこれでシャンゼリゼを通って、凱旋門、エッフェル塔まで行きましょう。」
「うん。私はあんまり位置関係が分かっていないから任せるよ。」
「ナオさん方向オンチですもんね。」
「悪かったわね。でも、もしはぐれたら私一人でホテルに戻れないんだから。ちゃんと連れて行ってよね。」と俺の手を握って甘えてくる。
「はい。分かってますよ。…ほら、もうコンコルド広場で、そこを曲がるとシャンゼリゼですよ。」
「シャンゼリゼ。どれ?これ?」バスが曲がり北西方向へまっすぐ伸びる大通に入る。正面には凱旋門、シャンゼリゼ通りだ。
「あそこに見えてるのが凱旋門?遠くからでも分かるね。」
「そうですよ。よくニュースとかに出てくるあれです。」
バスは凱旋門のロータリーをぐるりと周り、シャンゼリゼを戻りながら途中で右折し、シャイヨー宮、セーヌ川を渡ってエッフェル塔へ向かう。ナオさんはバスの上でスマホのカメラやムービーを駆使して、嬉しそうに凱旋門やエッフェル塔を撮影していた。
このように周遊バスやメトロを使って主だった寺院や聖堂、ランドマークを巡り、気になったショップで買い物や、カフェで休憩などしながら、パリの街並みや雰囲気を楽しんだ。ホテルの外にいる時は、トイレの時以外はずっとナオさんの手か腕か腰か、いずれかに触れていた。俺が手を離すと不安そうな顔で俺の服の袖を摘まんで、可愛く頬を膨らませるのである。
モンサンミッシェルへのオプションツアーも楽しかった。朝早くにバスで出発し、夜8時くらいにパリへ戻って来きたので、現地で見学や昼食を摂っている時間よりもバスに座っていた時間の方が長いくらいだったが、貴重な体験ができた。ナオさんは「写真じゃ分からなかったけど、こんなに大きい島だったんだね。」と修道院その物の大きさはもちろん、それに連なる飲食店や土産物店の商店街と言うか参道の長さと賑わいも感動したようだ。ちなみに、昼食は例のフワフワオムレツを食べた。「こんなものか」というのが正直な感想だが、まぁ何事も経験だ。
最終日はギャラリーラファイエットで買い物を楽しんだ。ナオさんは日本人としても小柄な方なので服や靴は中々合う物を見つけることができなかったが、小物や雑貨、スイーツやお菓子、石鹸等を道々買っていたし、ラファイエットでも買い足していた。半田家のご両親や妹のミオさんも海外に行ったことが無いらしく、家族向けのお土産も多い。
毎日美味しい朝食をいただいたので、昼はスイーツやお菓子で済ませるようになり、夜はメインとデザートをレストランやビストロで食べた。夜に前菜まで食べるとしばらく動けなくなる。それでも連日、常時お腹いっぱいであった。ナオさんはサーブされた料理を真面目に全て食べようと頑張っていたが、二日目の夜から“ポテトの洗礼”を受け、完食が到底無理であることに気が付いたようだ。
他に食事で感じたことと言えば、パリのパンは世界一美味しいと思えるくらい美味しかった。フランスは良質の小麦、塩、バターが揃っているのだから当然なのかもしれないが、ホテルの朝食はもちろん、いずれの店でも出てきたバケットやクロワッサンをはじめとするパンというパンが美味しい。ナオさんは甘いもの好きでスイーツをよく食べていたが、俺は今までの人生で食べたことが無いくらいパンを食べた。
連日常時お腹いっぱいでも毎夜ナオさんとじゃれ合い、愛しあった。ただし、ゴムを着けてである。ナオさんが言うには、移動で寝ている間や街を歩き回っている間に垂れてくると嫌だし、下着が足りなくなると嫌だからである。毎晩部屋の暖房を強くし、サイドテーブルにゴムを2つ用意して「今日食べたマカロンが美味しかったね」、「明日はあそこのエクレアを食べてみたい」など、お腹がいっぱいなのにスイーツを食べる話ばかりをしながらセックスをした。
いつもと違うのは、ナオさんは初の海外旅行を満喫しているが、フランス語や英語ができずに一人では買い物ができない事や、方向オンチで一人ではどこにも行けない事に引け目を感じているのか、やたら俺に甘えて身体を求めてくる。俺がベッドに上がるとスルスルと近づいてきてキスをしたり、「私の胸が好きなんでしょ」と灯りをつけたまま寝間着を脱いて挑発してくる。ある夜は自ら俺の前に跪いて、モノを口に含んで誘ってきた。その度に俺は勃起したモノをナオさんのアソコに入れて応えた。ナオさんの甘く綺麗な声がパリのホテルでも響く。大通に面していても救急車のサイレンくらいしか聞こえないような防音がしっかりしているホテルだから遠慮することはない。ナオさんも俺の部屋でする時よりも開放的な気持ちで、自然と声が大きくなっているのかもしれない。
最終日、二人でベッドに横たわりお腹いっぱいで満足気なナオさんの髪を撫でている。
「結局、初日以外は5夜連続になるね。」
「ナオさんが毎晩甘えてくるからじゃないですか。」
「日中ユウジ君が重い荷物を持ってくれたり、私をエスコートしてくれてカッコイイんだもん。」
「ははは、日本でもそうじゃないですか。」
「海外では言葉分からないし、タクシーも電車も乗れないから、私一人で何もできないじゃん。」
「海外は懲り懲りですか?」
「ううん、楽しかったし、また連れて来てほしい。…今夜もカッコイイ夫に抱きしめてほしいなぁ。私も気持ち良くなってもらえるように頑張るんだけどなぁ。」楽しいのか、恥ずかしいのか、芝居がかった言い方をする。
「分かりました。」と応えようとした時にナオさんの唇が俺の口を塞ぎ、舌が入ってきた。こちらも舌を絡めて応えると、ナオさんは一旦口を離し下唇を軽く噛み、はにかみながら寝間着のフリースを脱いで、下着も脱いだ。俺も同じように全裸になる。ナオさんが俺の上に身体を被せ、俺の匂いを嗅ぎ、乳首を中心に上半身を優しく撫でてくれる。最近はジムをサボり気味らしいが、二の腕やお腹も筋肉質で、贅肉らしいものをあまり感じないナオさんも、密着していると女性特有の肌や胸の柔らかい感触を感じる。ナオさんは一通りキスを満足したのか、手や指だけではなく胸や首筋に舌も這わせ、乳首には特別に舐めたり吸ったりもしてくれる。何百回と二人で身体を重ねてきて、俺が気持ちいい所を、どうすれば気持ちいいのかを全て知っているのだ。ナオさんは上半身の愛撫の後、俺のモノを握って完全に勃起したことを確認し、「どうだ」とドヤ顔で笑っていた。
今度は上下を入れ替わり、俺がナオさんの頬にキスをし、鎖骨や首筋に舌を這わせながら、ツンと上向きな美乳を揉む。朝日に照らされたナオさんの全裸に見惚れ、朝から全裸でふざけて楽しそうに笑っているナオさんを見てプロポーズを決意したことを思い出す。少し下へ移動し片方の乳首を舐め、もう片方を指で少し強めに摘まむと、美声と共にナオさんの呼吸が少し荒くなった。ナオさんの表情を確かめながら左右交互に乳首を舐めているとナオさんに「お願い」とモノを入れるよう促された。
ゴムを一つ取り、手早くつけている間にナオさんがいつものように正常位で受け入れる体勢になった。ナオさんのアソコにモノをあてがい、割れ目に沿って上下にこすりつけていると、ナオさんも既に出来上がっていてクチュクチュ音がした。ゆっくりと奥まで挿入し、ゆっくりと動く。ゴムごしでもナオさんの温かさを感じて心地がいい。
思えば初めてナオさんと肉体関係と秘密を共有したK市での夜は、俺にとっては単に性処理だった。年に1~2回即物的な関係を持ってきた女達とそう変わりはない。身体と秘密を重ね始めた頃は興味本位と言っても良いくらいだった。ただ、ナオさんは上司であり、『美声のプレゼン女王』と呼ばれる我が社のエースであり、美人だ。いい女を抱きたいというのは男の自然な性であり、ナオさんの気まぐれで身体を許してもらえた時は、喜んでもらえるように、気持ち良くなってもらえるように必死に抱いた。ナオさんも次第に身体も心も許してくれるようになり、あの美しい声で喘ぎ、繋がったまま身体を痙攣させイクようになった。時には消耗しすぎてしばらく身体を動かせなくなることさえあった。俺自身も憧れの女上司にモノをねじ込み、モノでねじ伏せ、中に射精するのは、愛情に加えて征服感もあり気持ちがいい。子作りには多少躊躇したものの、ゴムを着けずにするのは感動的に気持ちが良かった。
「ユウジ君、イキそう。…今日もありがとう。」ナオさんは背と顎を上に反らせてイった。ナオさんがイった後、モノを入れたままナオさんを抱きしめ、呼吸が整うのを待つ。いつものとおりだ。そして「へへへ、もう大丈夫だよ」とナオさんが恥ずかしそうに笑うと、セックス再開である。数分後俺もナオさんの中で気持ち良くイクことができた。
翌朝、楽しかった旅行も終わり、パリを発つことになる。名残惜しむように最後の朝食を食べて、JTC現地係員さんが迎えに来てくれるまで出発準備である。俺がスーツケースに着替えやお土産を詰め込んでいると、
「はい、忘れ物。」ナオさんはサイドテーブルに残ったもう一つのゴムを少し恥ずかしそうに渡してきた。
「旅行中に2回もすると私の身体がもたないし、ゴメンね。」
「いや、俺が一晩2回までしかできないから2個出しておいただけです。」
「また、次に使うまで大事に仕舞っておいて。」
「次っていつなんですか?」
「さあ、いつだろうね~。日本に帰ったら子作り再開だから、しばらくは要らないかな。」ナオさんは笑っている。まだこの頃はすぐに出来るだろうと二人とも思っていた。
「ですよね。まあ、失くさない程度に片付けておきます。」
「うん。お願い。」そろそろ出発の時間である。
「あ~あ、これで結婚関係のイベント全部終わっちゃうね。」ナオさんは自分のスーツケースや手荷物をまとめ、いつでも出られるように入口付近に置いている。
「なんか、バタバタして長いような短いような感じですけど、無事に楽しく終われてよかったです。」俺もスーツケースを閉め、部屋の入口に立てかけるとナオさんが俺の正面に立ち、手を握ってくる。
「今日までありがとう。」ナオさんは背伸びをして俺に軽くキスした後、「でも、私達二人の時間はまだこれからだよ。これからもよろしくね」と明るい笑顔で言ってくれた。
日本に帰国後、4月にナオさんは誕生日を迎え、7月にはナオさんのお腹に新しい命が宿ったことを知る。ナオさんが待ち望んだ子供だが、産まれたら産まれたで何かとバタバタし、出産に伴う一連の出来事も今思い返せば結婚の時と同じように、長いような短いような感じであった。きっとこれからもそうなのだろう。子供はいずれ学校へ行くようになり、クラブ活動をするようになり、受験勉強をするようになり、友達ができて恋人もできるのだ。ナオさんとの思い出は、もう一人(二人かも)登場人物が増えて、これからもたくさんできるに違いない。
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