第8話 目障りだから早くして。
お互いの気持ちを確認できた俺とナオさんは、出張以外にもお互いの家で二人きりで会えるようになった。1千万人以上いる都内で、外でデートしても、社内や取引先に見つからないだろうとは思うが、外は落ち着かないのでお互いの部屋でばかりで会っている。
ナオさんは俺の部屋が気に入ってくれたらしく、俺の部屋で会う回数の方が圧倒的に多い。ナオさんの部屋より広くて、バス・トイレがセパレートなのが良いらしい。部屋で何をしているかと言うと、色々と他愛のない話をしたり、サブスク動画サービスで映画やドラマを見たり、稀にナオさんが悪戦苦闘しながらご飯を作ってくれたりもする。もちろん、どちらかからの申し出でセックスも。
そうこうしている内に、下着や部屋着の着替え、家から出勤できるように予備のスーツなど、徐々にナオさんの私物が俺の部屋に増えていった。
一緒にいる時間が増えると、自然と意見の食い違いや些細なケンカもするようになる。俺が旅行先で買ったマグカップをナオさんが割ってしまったり、ナオさんのニットを俺がハンガー干しして型崩れをさせてしまったり、原因は様々だった。中でも一番雰囲気が悪くなったのは、職場での栩木さん対応だ。
年末に俺達のフォローに入ってくれた総務の栩木さんは、年末の納品をもって一緒にプロジェクトの仕事することは無くなったが、総務担当なので支払伝票や出張旅費、年末調整等で書類を出しに行ったり、相談したりすることはあった。俺は一緒に仕事をした仲なので、話しやすい栩木さんを頼るし、栩木さんも俺に丁寧に教えてくれた。
ただ問題は、ありがたいことに栩木さんが俺に好意を持ってくれている事だ。栩木さんは立候補発言の後も、俺がお昼休憩でご飯を買い出しに行く時に付いて来て、「刈谷先輩さえ良ければいつでも誘ってくださいね。」、「先輩に私のことをもっと知ってほしい。」と歩きながらアプローチを仕掛けてくる。不快感を持つような馴れ馴れしさではなく、あからさまな特別扱いをするわけではないので、目立つことは無かったが、ナオさんは仕事でもプライベートでも勘が良い。夜に俺の部屋でご飯を食べている時に質してきた。
「栩木さん、ユウジ君のことをまだ好きなんじゃない?」
「へ?どうしたんですか急に。」
「いやー、仲いいなぁと思って。」ナオさんは少し不機嫌だ
「他に好きな人がいるって、言っているんですけどね。」
「やさしいのはユウジ君の良い所だけど、ちゃんと振ってあげるのもやさしいさだよ。」
「タイミングを見て、ちゃんとハッキリ言います。」
「目障りだから早くして。」ナオさんは短くそう言うと、食器を片付けてシャワーを浴びに行った。
俺もシャワーを浴びて部屋に入ると、フリースのパジャマを着たナオさんがベッドの上でスマホをいじっている。俺はミネラルウォーターで水分補給をし、コタツに座りながら髪を乾かしていると、ナオさんがドライヤーを取り上げ、後ろから抱き着いてきた。「しよ。」ナオさんのシャンプーの匂いがフワッと香り、背中には胸の感触がする。俺は前を向いたまま何も言わずに右手を後ろに回して、ナオさんの髪を撫でた。
ナオさんはフリースの上下を脱いで布団に入る。俺はその間、エアコンの設定温度を高くし、灯りを消した後、全部脱いで布団に入る。こちらに背を向けて丸まる様に寝ているナオさんに身体を密着させて添い寝し、ナオさんの右肩から二の腕、手の甲まで、手の力を抜いてふんわりさせた指先で滑るように撫でる。始めは直線的にまっすぐに、次は指を開いたり閉じたりしながらナオさんの肌を滑らせた。ナオさんから誘ってくれたが、ナオさんの気分が乗っていないのは明らかだ。手の後は、腰から太もも、お腹から内股、ショーツの淵をなぞるなど、ルートを変えながらゆっくり時間をかけて愛撫し、ナオさんの気持ちと身体をほぐしたかった。
俺の右手が少し疲れてきたころ、ナオさんは手足を伸ばして自分から仰向けになった。顔だけ壁の方を向いてゆっくり呼吸しているナオさんの頬や肩に軽いキスをしながら、さっきまで手が届きにくかったナオさんの左側の腕や脇腹も同じように撫でた後、胸にも手を伸ばす。膨らみに沿って指でなぞるように撫でた。広げた五本指を乳房の形に添ってすぼめながら触れている時には全体的に肌がしっとりしてきて、頬が赤らんできた。
十分室温も上がった頃合いなので、一旦身体を起こして布団をベッドから落とした。
「ユウジ君、ショーツ脱がせて。多分やばいことになってる。」
「はい。」暗くて確信は持てないが、淡い鶯色のショーツはうっすら湿っていて、特にクロッチの部分はテカリと糸を引くような粘りがあった。
「あんまり、見ないでよ。恥ずかしいじゃん。」
「濡れてるってことしか暗くてよくわかりませんよ。」
「ねえ、敏感な所にも触れて、先にイカせてほしい。」
「ははは、ワザと避けてたのバレてました?」
「バカ、早くして。」
「敏感な所」をいうリクエストだったので、一番敏感な場所で応えてあげたい。ナオさんは俺のクンニを気に入ってくれている。躊躇いは無かった。
ナオさんの股の間に顔を近づけ、一番敏感な所にまずは軽く口づけをした後、いきなり強い刺激にならないように舌先だけでチロチロした。ナオさんが腰を上下左右に少し捩ると股の内側にも場所を移して、舌で大きく円を描くように舐め、ナオさんの腰が落ち着くと舐める場所を割れ目とクリに戻した。クリのチョボを柔らかく口に含み吸ってみる。嫌いではないが、お世辞にも美味しいとは言えない苦い味が少し濃くなっていた。
「何をしてくれてたの?もう一回、今のをして。」ナオさんが仰向けのままピクんと腰を動かして言った。俺は何も答えず、ほんの少し強めに、そして長く吸い込んでみる。
「はーぁ、いい。吸ってぇぇ。」ご希望どおりさっきと同じ力加減で吸い込む。5、6度繰り返しているうちに、ナオさんは大きく左右に股を開き、腰ごと俺の顔に押し付け上下に擦りつけるように動かした後、脱力した。
俺は顔中が、ナオさんはお股がベトベトになり、もう一度シャワーを浴び直すことにしたが、今回は俺が先にシャワーを使わせてもらった。
ナオさんもシャワーを浴びてベッドに戻って来た。多分首から下だけ洗って、髪は濡らしていない。腕枕でナオさんを包んであげる。
「ユウジ君、エッチだね。どこであんなこと覚えたの?」
「いやー、まあ、いろいろ。」何と答えるのが正解なのか分からない。
「ふーん。私も若い時に良い恋愛がしたかったなぁ。」ナオさんは多分、俺が恋愛経験豊富で、元彼女達とたくさんセックスをしてきたと想像しているのだろう。少し寂しそうに言った。
「怒られるかもしれないけど、我儘言っていい?」
「何でしょう。」
「ユウジ君、今日みたいに優しくクンニしてくれるじゃん。本当に気持ちいいし、フェラって言うの?たぶん逆も気持ちいいんだろうなぁって思う。でもね、私、男の人のを舐めたりしたくないの。」
「そんな気がしていました。俺はいいですよ。フェラって結局、手でシコシコしているのと変わらないし。」
「そうなの?私に気を使ってない?」
「俺の乏しい経験では、口だけでイったことないです。」
「そうなんだ。本当か嘘か分からないけど、怒られなくて良かった。」
「あのね、なんでこんな話をするかと言うとね、ユウジ君に浮気だけはしてほしくないの。」上目遣いで俺の顔を見上げてきた。
「フェラしたくないとか、バックは嫌だとか我儘ばかり言っておいてなんだけど、浮気だけは絶対にしないでね。」ナオさんの目が充血し、涙が流れてきている。俺も視線を外すことができない。
「私、全身を使って、出来ることは頑張って、ユウジ君にも気持ちよくなってもらえるようにするから。お願い。」最後は涙声で聞き取れなかった。ナオさんは身体を震わせて泣いている。俺もナオさんも、今まで全く過去の恋愛について話すことは無かった。こちらから聞いたことは無いし、ナオさんから聞かれたこともなかった。でも、ナオさんが過去の恋愛で辛い思いをして、たぶん浮気が原因で別れたことがあるんだろうということは容易に想像がつく。
「俺は浮気しませんよ。」涙目のナオさんにこれ以外の言葉が思いつかなかった。
「ホントに?若くて巨乳の女の子に言い寄られても絶対にしない?」
「絶対にしません。」ギュっとナオさんを強めに抱きしめた。「ホントだよ」と言ったナオさんの肩が小さく感じる。今俺の腕の中にいるのは、年間で1億以上の販売額を勝ち取るプレゼンの女王ではなく、若い女の影に怯える等身大の半田ナオだった。
「今日はもう寝ましょうか。」俺は腕枕で痺れた右腕をナオさんの下から抜きながら言った。
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