第7話 木枯らしに・・・

 木枯らしに抱かれて、私は秋の学校の屋外は風が強く落ち葉もたくさん落ちていて外掃除も大変だ。この学校は授業後、1年生から3年生までクラスで担当の場所の清掃をすることになっている。私は東雲亜里沙、文芸部の部員で普通の生徒。少し肌寒くなってきている。私は早く部活行こうと思い、落ち葉をかき集めごみ袋へ入れてゴミ捨て場に持っていく。

 私は清掃を終えるといつものごとく、実習棟の4階文芸部の部室へと向かった。部室のドアを開け、中に入ろうとすると見たことない女子生徒が高瀬先輩を対峙し座っていた。

「お疲れ様です。あれ、お客さんですか?珍しい」

「どうも」

 女子生徒は頭を私に下げ、挨拶をしてきた。私もそれに答えるように「どうもです」と頭を下げた。

「東雲もこっちに座れ」

 文芸部の部長の高瀬先輩に促され、先輩の隣に座る事になった。他の部員は違う机で執筆活動をしていた。芳賀君の姿はまだ無かった。そういえば、文化祭実行委員会の反省会で生徒会の話し合いがあるって言ってたっけ。

「すいません。お忙しいところお邪魔して」

「この人はうちの高校の演劇部、部長の島津楓さんだ」

「演劇部部長の島津と言います」

 お互いの自己紹介をするとさっそく島津部長が今日ここに来た意味を説明してくれた。島津部長は黒髪ロングで姿勢も正しく何処となく武士みたいだった。

「今日、私がここに来たのは高瀬部長引き入る文芸部のお力をお借りしたいと思い、ここに来た次第です。私たちは来月半ばにある演劇コンクールに出場が決まっています。ここまで来て、脚本が決まり練習をしよとした矢先のことです。コンクールの開催委員会からこの脚本では許可できないと言われ困ってしまいまして、高瀬部長に助力を願ったのです」

「ちょっと、待ってください。私たち、演劇は分からないですよ」

 私は困惑した。

「去年までは有名どころの脚本で良かったのですが、今年の開催委員会の主旨が変わり、脚本は高校生の発想でオリジナルの物に限ると言われてしまって。他校の演劇部の天手古舞で。折角、高校生活最後の演劇なのでどうしても出たく」

 島津部長がそう言うと泣きそうな顔でこちらを見てきた。私はその姿を見てもらい泣きをしてしまいそうになる。

「そこで、うちの部員が今オリジナルのスートーリーで小説を書いて欲しいわけだ」

 高瀬先輩は島津部長の言葉で大体の事を理解していた。

「そのストーリーの作者とうちの演劇部部員の脚本家で台本を作って欲しいんです。一週間で」

「一週間っ?」

 島津部長の言葉に私は驚きを隠せずにいた。

「先輩、無理ですって。死にますよ」

 私は断固抗議する。

「今からストーリーを書けとは言いません。昔、書いた小説の内容のものでいいのです。お願いします。私たちも何でもお手伝いしますので」

 島津部長は私たちに土下座をしてきた。流石に島津部長やり過ぎではと思ったが。

「んっ?今、何でもって言った?じゃぁ、・・・」

 高瀬先輩はその言葉に反応した。

「高瀬先輩」

 私は高瀬先輩に睨みを利かす。流石の先輩も揶揄うは辞め、話を戻した。

「島津さん、顔を上げて席に座ってください。ここまでされたら、引くに引けないですよ。分かりました。文芸部の勢力をかけて手伝いましょう」

「有難うございます」

 高瀬先輩と島津部長は固い握手を交わす。でも、思い出す。私たちの書いてるのBLだと言う事を。

 島津部長はお礼を言うと文芸部を出て行った。私たちは笑顔で島津部長に手を振って見送ることにした。


「で、どうするんですか?私たちの書いている本って基本、18禁の物の小説しかないんですけど」

 私は高瀬先輩に質問した。部員たちも私と先輩の言葉を聞いていて、自分たちや自分たちの先輩たちが書いてとっておいた。黒歴史じみた小説たちを読み漁り使えそうな内容を探してくれていた。有能すぎるでしょ、みんな。

「今、考えてるところ」

 その時、先ほど出て行った島津部長が出て行った扉が開いた。


「どうしたんですか?」

 扉から入ってきたのは芳賀君だった。彼の名前は芳賀康太。私の彼氏彼女(仮)で隣にいる高瀬先輩に芳賀君が入部当日に決めた張本人。しかも男子でBL好き。事あるごとに私を振り回すスキルがあって疲れる。

「実は、困っててな」

 高瀬先輩は事の顛末を芳賀君に話した。

「何だ、そんなの簡単ですよ」

 芳賀君は解決方法を教えてくれた。

「基本皆さんの書いてる小説は男性と男性のBL。だから、一方の男性を女性に変え、口調やそぶりをちょっと変えるだけで、あら不思議。BL小説ではないただの恋愛小説に早変わりというわけです」

 その言葉を聞いた私含め女子部員はその手があったと手をポンと叩いた。

「芳賀は賢いな」

「いえ、でもその作業は大変ですね。一週間か」

 高瀬先輩は芳賀君を褒めていたが芳賀君は険しい顔だった。

 確かに今から、使う小説を決め、性別を入れ替え文章を修正して尚且つ脚本家と台本の修正。これは大仕事だ。

「僕に任せてもらえませんか?」

 芳賀君から思わぬ一言が飛び出した。

「えっ、いいのか、芳賀」

 高瀬先輩は心の友よと言わんばかりの抱擁を芳賀君にしていた。

 私はその光景を見てちょっとうら・・・と思ってしまった。いけない、いけない。

「芳賀一人じゃ大変だ。東雲も手伝ってやってくれ」

「えっ?何でですか」

「いや、だって芳賀は仮でもお前の彼氏だろ。彼女として手伝ってあげなさい、部長命令だ」

「横暴ですよ」

「これは、いいチャンスじゃないか。家に行き、両親に紹介される。そして、BLの話で盛り上がった2人は・・・」

 高瀬先輩は私の耳元で囁いて、私はその言葉を聞いて耳から顔まで真っ赤になっていた。

「止めてください」

「東雲は正直だなぁ。頼んだよ」

 高瀬先輩は背中を叩いてきた。痛いです。もうなるようになれだ。


 一週間後


 私は芳賀君の家に入りびたり、小説の修正をかけていた。芳賀君の家に言った出来事はまたの機会で。しかし、我ながらいい仕事をした気がした。ストーリーは竹取物語の出てくる男性を女性のして、かぐや姫を男性にした竹取物語に変更したものを作った。だけど、竹取物語のオチだけは使えないから考えてたんだけど、私は思いつかなかった。芳賀君も作ってはいたみたいだけど出来てはいないと思う。だって大体、私に見せてくる。

「遅れてすいません、東雲さん」

「芳賀君遅いわよ、まだ演劇部の人は来てないから大丈夫だけど。それで、オチは書けたの?」

「はい‼」

 芳賀君は笑顔で自信満々に私の質問に答えてきた。その笑顔が怖い気がした。

「あっ、来ましたよ」

 芳賀君がそう言うと前方の廊下から島津部長と脚本家であろう二人がこちらに歩いてきた。

「申し訳ない。少し遅れた」

 島津部長は頭を下げていた。私たちも条件反射で頭を下げてしまった。

「これが最終のオチを入れた修正版になります」

「ありがとうございます」

 芳賀君は小説を演劇部の脚本家に渡す。脚本家も小説を貰うと一礼した。とりあえず、私の仕事は終了したことを確認するとほっと胸を撫でおろす。

「最後のオチの脚色は僕も手伝いますので、お願いします」

「それは助かる、よろしく頼む」

 芳賀君の言葉に島津部長は喜んでいた。芳賀君は島津部長に早速行きましょうと行ってしまった。いつもより頼もしい。

 だが後、この芳賀君の言葉に私はもっと疑っておけばよかったと悔やむ事になるなんて。


 一か月後・・・


 文芸部の部室に今日は私と芳賀君しか来ていなかった。

高瀬部長は生徒会の呼び出しで来ていない。高瀬先輩、また生徒会を怒らすことしでかしたのかな。他の部員は多種多様な用事で今日は来ていなかった。

「これ見てください」

 芳賀君が新聞に指をさす。

 そこには私たちの高校演劇部が地方新聞に取り上げられていた小さい記事が載っていた。そこには高校生のインタビューが書かれ、一言で言えば斬新すぎて審査を困らせるほどだったみたいな記事も書かれていた。

「へぇー、そんなに凄かったんだ」

「芳賀君、私にも見せてよ。最後のオチ」

 私は、芳賀君から脚本の方を見せてもらった。私は読んでいくうちに本当にこれ?と思ってしまった。

「本当にこれで演劇部はOKだしたの?」

「はい・・・そうですけど」

 私はこれで良いんだと感心してしまった。

 オチはこうなっていた。通常で終わるならかぐや姫♀が月へ帰って終わりなのだけれども、芳賀君のアレンジ大分変っていた。かぐや姫♂が月へ帰ってからだ、地球に残された女性たちはかぐや姫♂に貢がすだけ貢がせて帰ってしまった。地球に残った女性たちは放心状態になり、その貢いだ女性同士で誰がかぐや姫♂のパートナーになるかで最終的には殺し合い、最後に残った女性は月へかぐや姫♂を追いかけ無残に殺し、最後は女性自身も後追い自殺してしまうストーリーになっていた。サスペンスですか、これは。

「誰も救われないわね、これバッドエンド」

「はい救いはありません。最後には誰もいなくなった感じですね」

「せめて、ハッピーエンドにしようよ」

 私はストーリーのラストがまさか過ぎて肩を落とす。芳賀君の場合、もっとBL寄りなオチにしてくると思ってた。

 まぁ、演劇部の演劇が成功したのは良かった。私は安心した。

「まぁ、劇中のハッピーエンドより、現実のハッピーエンドのほうがいいでしょ」

「どういう事?」

「はい、どうぞ」

 芳賀君はカバンの中を探ると一つの包みを出し、私に差し出した。

「なにこれ?」

「開けてみて下さい」

 私は包みを開け、中に入っていた箱を開けた。私は「あっ」という言葉を発ると目に入る光景に心を奪われた。私みたいな、BL好きで陰キャな人間がこんな可愛いの付けていいの。

 そこには可愛いピンク色のヘアクセサリーが入っていた。

「この機会にプレゼントをと思いまして。いつも、迷惑かけてしまっていますし。何せ、彼氏彼女(仮)の関係ですからね。本当に有難うございます」

 芳賀君はおぼつかない様子で感謝の気持ちを私に言ってきた。でも、何だろうその言葉にはとても嬉しかった。

 そして、私は少し涙を流してしまった。

「ど、どうしたんですか?大丈夫ですか?」

 芳賀君は私の涙に慌てふためいている。

「な、何でもないよ。ちょっと目にゴミが入っただけだよ」

 私は誤魔化そうと目元を拭った。芳賀君はポケットからハンカチを出し私に「これ、使ってください」と差し出してくれた。

 芳賀君とは彼氏彼女(仮)状態ではあるけど、本物の彼氏彼女の関係もいいかもと私は思った。

 私は、芳賀君からもらったハンカチで涙を拭い、鼻水も出ていたから鼻もかんだ。

「洗って返すね」

「別にいいですよ、あげます。僕はあなたのおかげで今ここにいるんですから」

「言うようになったわね。でも今回のあのかぐや姫のオチはBL的には52点かな」

「微妙ですね」

 私の芳賀君の評価に芳賀君は空笑いをしていた。

「でも、このプレゼントでちょっと上がって恋愛的に65点」

「それでも65点か、厳しいですね」

 私もこのプレゼントをもらって竹取物語の最後を思いつく。

 かぐや姫♂は月へ返ってしまうが、貢いでいた彼女の一人はかぐや姫♂を追いかけ月で猛アタック。かぐや姫♂はその彼女のアタックに愛を知り、最後二人は愛し合って駆け落ちをし、二人の愛は永遠ものになった。こんな竹取物語でもありかな。

 自分で思いついても今までBL小説の危ない恋愛終わりしか思いつかなかった私がこんな普通の恋愛を思いつくなんて、奇跡だ。

 私も彼氏彼女(仮)の影響で自分のBL脳が恋愛脳に変わってきているのかもしれないと思った。

「東雲さん、早くBL小説を書きましょう。何か。いいものが今、書ける気がします」

「いいよ。変なの書いたらすぐに修正かけるからね」

「了解です」

 芳賀君は私に向かい敬礼をする。

 秋の夕暮れに文芸部の教室は赤くなりノートパソコンのキーボードの音だけが響いていた。

 私はこんな時間が長く続けばいいなと思った。

 翌日、案の定私がヘアアクセサリーを付けている件でいろんな人に揶揄われたことは言うまでもなかった。


 




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る