第4話 天高く・・・
天高く馬肥ゆる秋、学校周辺の街路樹は夏の青々しさから一変し紅葉を迎えていた。特に街路樹はイチョウの木が多く、歩道がイチョウの葉が落ち黄色の絨毯になりつつあった。私、東雲亜里沙は文芸部の部室の窓から落ちるイチョウの葉を眺めていた。
「もう秋か」
私はそう言うとカバンからスマホを取り出し、自分が投稿しているインターネットの小説投稿サイトを開く。自分のロマンス小説(BL小説)の再生数を見るとなかなかの反響だ。SHINO@BLに読者が付いてきていてうれしい。やっぱりBLは最高ねとさっきまでの無表情からにやにやしてしまった。しかし、芳賀康太君のBL小説投稿の反響を見てみるものの、相も変わらず芳しくないのは分かった。その再生数に私の顔は曇る。なんでよ、結構BL小説の書き方教えても大分文章の書き方はよくなってきたのは良いんだけど、出てくる人物がマニアックすぎて読者も分からないんだろうなと私は頭を抱えた。
その時だ。
部室のドアが開き声が聞こえたので私は振り向いた。
「東雲さん、もう来てたんですね」
「まぁ、ね」
私はさっき開いたスマホの小説投稿サイトを閉じると簡単に返事を返す。まぁ、この再生数はおそらく本人が納得してるからいいかなぁと思い、適当な話題をふった。
「何か、面白いことない。小説のネタになるものとかさ」
「あぁ、それなら、今から僕とデートしませんか?」
私は、芳賀君の言葉に体制が崩れそうになる。確かに私たちは彼氏彼女(仮)だけど、心の準備が出来てないわ。
「何でよ」
「それがですね。高瀬先輩が小説のネタ探しに東雲さんとデートしてきたら?って言われて、あぁなるほどと思いここに来て、今こういう状況です」
私は心の中であんたが考えたんじゃないんかいと思いながら返事を返す。
「そうなのね」
私の顔は複雑な表情をしていたのだろう。芳賀君はどうしたんですか?言いたそうな顔で私を見てきた。
「あのね。私たち仮にも彼氏彼女の関係なんだけど。そういう事をね。言われてやったとしても言わない方がいい。がっかりするから」
「誰がですか?」
芳賀よ、空気を読め。私は芳賀君を睨みつける。
「わ・た・し・が・よ」
「そうですか。それは失礼しました。今度は気を付けますね。それでですね、今週の日曜日何かどうですか?僕がエスコートしますよ」
私は思う。こいつ、いい性格してるわ、本当に。
「任せるわ、芳賀君」
「イエッサー」
芳賀君は私に敬礼をした。本当に芳賀君は道化ね。全然わからないわ。高瀬先輩たちは来るかと思いきや、スマホで『今日は部活いけないから部活休みね♡』と連絡が入っていた。
私たちはお互いのスマホを見ると部室から出て行った。それから月日は流れ。
日曜日AM9:00
私は駅のバスロータリーで芳賀君と待ち合わせをしていた。バスのロータリーだけに人も多かった。私の格好はいつもはあまり着ないシャツワンピースにパンツで合わせた。
何か、この姿あまり慣れないから恥ずかしいな。
そんな時だった後ろから声がしたのは
「東雲さーーーーん」
「あぁ、遅いよーー、芳賀く・・・・・」
後ろから芳賀君の声がしたので振り向いた私の眼には見たくないものが見えてしまい、言葉を吐くのを止めた。
芳賀君の姿はベルサイユのばらのオスカルを意識したフランス衛兵隊ベルサイユ常駐部隊長時代の軍服そのものだった。顔は違うけど。
「ちょっと離れてくれない」
私は顔を俯かせ芳賀君と距離を置く。周りの道行く人も物珍しそうに芳賀君の姿を見ており、しまいにはその姿をスマホで撮る人もいた。
「いやぁ、部活で別れたあの日の夜なんですけどね。たまたま、家でベルサイユのばらのアニメを見て感動してしまって池田理代子様凄いです、と思ったら姉に手伝ってもらいこの服を完成させて今僕が着ています」
私は愕然とする。一週間足らずで二人でこれを完成させるなんて。
『恐ろしい子・・・』
と脳内で叫んでいた。それに芳賀君に手伝ってあげるお姉さんも凄い。
「っていうか、君は小説書くよりコスプレの服作る方があってるんじゃないの?」
「そうですかね?」
私は思った芳賀君は才能を生かせない方面に力を注ぎ過ぎて、才能がある方を使わないなんて、もう本当にアホなんだと確信した。
「で、何でオスカルなの?」
「嫌だって、オスカルとアンドレのBLですよねっ!」
私は急いで芳賀君の口を閉じさせると周囲を確認した。芳賀君の口は爆弾だ。何を言い出すかわからない。
「いやそれ違うから、オスカルは男装しているけど中身は女性なの。言ってみればアンドレとの関係はノーマルなの。純愛なの。ファンが聞いてたら殺されるわよ」
「えっ、そうなんですかっ」
芳賀君は驚いている。
「どこをどう見たらそう見えるのよっ!君は」
私は意気込んで言ったがおそらく届いていないだろう。そのやり取りをして、我に返ると周りにはさっきよりもギャラリーが増えていた。とりあえず、私はこの場を離れなければと思い、芳賀君の手を引っ張る形でその場から離れることにした。
その後、芳賀君にその服をどこかで着替えてくるようにお願いしたが、今日はこの服しか持ってきていませんと一蹴され、その願いは叶わなかった。
その後、私たちは本屋に向かうべく、通りを片方ふつうの服装、もう片方普通じゃない服装(コスプレ)で歩いていると目立ってしょうがなかった。これなら私はマリー・アントワネットの服装で来ればよかったのかしら、無いけど。と自虐的に笑うしかなかった。
しばらく歩いていると私たちの目的地に到着した。
「これが竜の穴ですね」
私たちが崇拝してやまないBLご用達同人誌販売ショップの竜の穴。ここにはありとあらゆる同人誌が置いてある。男性向けから女性向けの同人誌が並べられており、ジャンルごとに分けられている。芳賀君は感嘆の声をあげる。
「早く入りましょう、東雲さん」
私は芳賀君に手を引かれると少しドキッとした。それに加え、私は入店するとここはまさに天国が広がっていた。
私と芳賀君はBLの棚を一緒に眺めていた。私は芳賀君の横顔を見て、少しかっこいいと思ってしまった。
「ここは天国ですか?」
芳賀君は目をキラキラさせ私を見てきた。やめて、そんなつぶらな瞳で見るのは。
「しかし、この空間はプレッシャーとお経が凄いですね」
「お経?」
「尊い、尊い、尊いと皆さん唱えているじゃないですか」
「あぁ、それか・・・」
私は芳賀君に尊いについて、腐女子がなぜ尊いと言うのか腐女子は男性同士の掛け合いをみて、「尊い」という言葉を使うのを教えた。他には言葉に表せないほど素晴らしいといった最上級の褒め言葉としても使うからいろいろある。
「なるほど。それで尊いと・・・」
「そういう事よ。だからこのキャラとこのキャラの組み合わせは尊いのよ」
私は『俺のヒーローハイスクール』の同人誌を見せた。そこにはユウタ×健の顔の近い表紙が描かれていた。
「前の座談会で言ってたキャラですね」
「これ、表紙はさわやかだけど中身ドロドロだよ。意外にえぐいわよ」
「そ、そうなんですかっ!こんなさわやかな表紙なのに?」
芳賀君はくわっと目を見開き、同人誌を見ていた。
「こういうものは作者の欲望と読者の欲望が重なった時、破壊力がますのよ。尊い」
しまった。素の反応を出していた。
「はぁ」
私は芳賀君の反応を見ていて、なかなか面白い。本当に私はBLが好きだ。こうやって、芳賀君と一緒に同人誌を見て回るのも楽しいと思った。
「そういえば、ユウタ×健の場合は東雲さんはどっちが攻めなんですか?前の座談会の件とも被るですが」
「バカ、こんなところでそのネタ出すんじゃない」
周りにいた女子(腐女子)が目をぎらつかせていた。その会話を聞いていた女子(腐女子)達は推しの名前を言いつつ、どちらが攻めでどちらが受けかをどこの誰とも知らない女子と女子が言い合う。
私はもうどれだけ頭を抱えるんだ。ここに来ている女子の皆さんごめんなさい。
「ここにいると迷惑かけるから、帰るよ」
「ま、待ってください」
私と芳賀君は場をかき乱し、半ば逃げるように竜の穴から出てきた。逃げる時に私は芳賀君の手を引っ張る形で店の外に出てきた。
「あぁ、同志の皆さん、ごめんなさい。こんなことをするつもりは無かったんです」
私は店の外から、店内に向かって手を合わせていた。
「何か、BOYAKIが凄いことになってますね」
手を引かれていた芳賀君がいつの間にかスマホを見て驚いていた。その言葉に私も気になり見てみると本当に凄いことになっていた。朝の出来事で駅周辺にレベルの高いオスカルのコスプレが歩いているとか、BLの推しの件で竜の穴で抗争になっていることやその推しの件でSNS内でも抗争が勃発していた。その数は推しに対する愛でちょっとここでは言えないカオスな状態になっていた。
私はまたも一般人の方及びBL大好き女子の皆様にご迷惑おおかけしてごめんなさいとスマホに向かって手を合わせた。でも、この出来事の張本人は今日のデートの事をメモしていた。小説のネタか。ダメだ、本当にこの子は・・・・
「今日は楽しかったですね。ありがとうございます、東雲さん」
芳賀君は私に向かって笑顔で言ってきた。しかも、その恰好がオスカル風なので顔のパーツは悪くないからキュンってくる。これ本当に素でやってるの。
「別に、いいわよ。こんなのでいいなら付き合ってあげる」
私はそっぽを向き、顔が見えないようにして言った。これが男子たちが言っているツンデレなのか、素で言ってしまった。恥ずかしい。
「本当ですか?ありがとうございます」
「でも、一つだけお願い。次は普通の格好で来て」
「はい。わかりました」
芳賀君はその場で私に向かって敬礼をした。
「じゃ、じゃあ。今日の所は帰ろうっか?」
私はさっき離した芳賀君の手をつなぎ直しその場から帰ることにした。しかし、帰る時も芳賀君のコスプレで注目を浴びるのは言うまでもなく、次の日、私たちは部活の部員及び高瀬先輩にからかわれたことはSNS恐るべしと実感するのであった。
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