死相の青いカーテン

カーテンが青なのは落ち着くからだ

昔は違う色で

何かの拍子で買い換えた

何の色だったかは忘れた


新しい家になった時

ソレをそのまま持ってきたら

横が足らず、縦が余った

買い換えるのも面倒だったのと

お金がなかったので

そのまま


新しい家になった時

同じように持ってきたら

今度は横が余り、縦が足らなかった


縦が足らなくて十センチほど隙間が空いていて

人が屈めば中をのぞけるような

イラつくものになった


その時、なんでこんなカーテンを買ったんだと思ったので

買い換えよう、という声に甘えてサイズを測って

家具店に行った


メモ用紙を売り場担当の人に渡して

既製品を買った

ついでに買ってくれた人のカーテンも買った


買ってくれた人の家について、早速替えた

縦が足らず十センチほど隙間が空いた

イラついて

返品しよう、そう言おうと思ったら

買ってくれた人は「別にいい」と言った


確かに、私はこの家を出たし

住んでいる本人がいいなら、それでいいのだろう

いいのか、そう思ってしまった

本人がそう言うなら、言うならいいと


私は後悔している

その十センチの隙間を

店側のせいなのだから返品しようと

押し通せばよかったのだ


その人は弱っていた

とてもとても人生の端で弱っていた

だから助けなければならなかった

何事も強く押して

「そうしよう、サポートするから」

言い続ければよかったのに


いつも 私は

(本人がそう言うならいいか)

と、逃げていた

逃げて、逃げて、逃げて、逃げて

役にも立たず、何も出来ず

察することも出来ず、慰めることもできない


したら、その人は死んだ

苦しみぬいて死んだ

頑張った人への仕打ちがこれか

苦しんで苦しんで体も精神も侵されて

何もわからなくなって自責の念にかられながら

死んでいった


今も思い出すと頭が痛い

(あの人は字を書くのが苦手だった

 だから書類を書く時は私を呼びつけた

 書けない、と言ってくれればよかったのに)

誰かのせいにしたい

でも近くにいたのは、私だった


それから隙間が嫌いになった

今の家は横が足らず、縦が余っている

縦の隙間に苦しまされていない


私は苦しんでいない

でも、あの十センチの隙間を何度も思い出しては

何で強く「返品しよう」と言わなかったのか

何で「小さい影があるんだが、まあ家をあけたくねえからなあ」に

大きい病院で検査して来なよ、と強く言わなかった

私は苦しんでなどいない


ずっと、ずっと

これから、ずっと

後悔していくのだと思う、と

早く死にたくなるのだ


青いカーテンを見ては

死にたくなる

早く死にたい

早く死ねるように、なりたい

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