鋼鉄腕の少女~もしも、世界に14人しかいなかったら~

夏眼第十三号機

第零話『覚悟と隔絶、そして輪廻へ。』

目覚め

 それは、少年が目覚め、世界の運命が大きく動き出す数年前のこと。

物語はある『少女』と『男』に視点を当てることにしよう。


少女の場合


 その日は、なんでもないはずの一日。ただ過ぎゆく、非日常の一ページだった。

紅い溶液。

それが私の存在できる世界だ。

今、私は人体がすっぽりと入る生命維持カプセルに入っている。

その身は一糸纏わず、いうなれば全裸。まぁ、適当であろう。

ふと、目を開けてみる。水の中だというのに。

朱色のフィルターが掛けられた世界を見てみる。

……あぁ、なんとも殺風景な部屋だ。つまらない。

そうして、私は目を閉じた。

それで終わり。

少女が外の世界へ関心を無くし——ただ眠るのみとなれば、この話は無かったことになる。

 だが、それは許されなかった。許されるワケがなかった。

さぁ、旅立つ時だよ。

カプセルを密閉していた甲殻は、徐々にその体を浮かせ、その封印を解かんとしている。


赤い溶液と同時に、まるで溢れ出るように私はこの世界に降り立った。


再び目を開けてみる。

やはり、つまらない部屋だ。

面白いのはなぜか鋼鉄製の左腕だけ。それも自分の。

信じられないほど殺風景な部屋は、まるで私に『出て行け』といわんばかりに、生活感が、人の痕跡が、躍動感が、無かったのだ。

わずかに認められるのはカプセルの制御装置らしきものだけ。

そんな現状に、私はは舌打ちを一つ、呟いた。

 そもそも、理解が出来なかった。何故このような場所に居るというのか。

私にはこの殺風景な部屋に来て、趣味の悪いカプセルに入った記憶など存在しない。


否、それよりも少女には、ここまで生きてきた記憶が一切ないのだ。


一般的な知識については持ち合わせている。だが、私にはこの肉体へと、その知識へと成長していく過程の『記憶』が存在しないのだ。

故に、本質的に空っぽであることは明白であろう。

「……。」

不機嫌そうに部屋を見据える、やはり殺風景だ。

何故、自分はこんな部屋でぬくぬくと眠っていたのか。

検討すらつかない。訳が分からない。

私の肉体には、そういった感情が渦を巻いていた。


 出ていこう、こんな殺風景な部屋からは。脳みそがそう提言してくる。

しかし、体は————何故か、動かなかった。動けなかった。

「……。」

訳が分からない。ここを出ないことには話が進まないのではないか?

笑ってみる。笑顔を作る。

しかし、震えは収まりはしない。

それは恐怖か、未知への恐怖か。私の肉体は、この場を動くことを拒絶していた。

馬鹿々々しい。あぁ、なんとも馬鹿々々しい。

私は頭を振ってそれを否定する。

……恐怖している?私が?まさか、全くもって在り得ない。

(よし、行こう。)

そして、立ち上がる。

こうして、鋼鉄腕の少女は仕方なさそうにその歩みを進めた。


たぶんここには二度と戻らない。何故か、あるはずのないトラウマが刺激されるから。歩いていこう。その先に、自らの正体が、真実があると信じて。 


 その先に広がっていたのは、なんてことないはずの森林だった。

「…………。」

その森は、酷く不気味であった。

木々の深くは有象無象の醜悪な化け物に溢れており、死骸の腐臭は鼻の奥を刺激する。

「……くさい。」

思わず声が出てしまう。

やっぱり、外に出るんじゃなかった。

そんなことをおぼろげに、私は歩みを進めていた。

「…………。」

一歩、一歩、確実に歩みを進める。目的地も知らず。

そして、その時は『突然』だ。

そこにいたのは、醜い豚であった。もちろん例にもれず臨戦体勢の豚、それに比べて何の用意も持っていない私、唯一の武器は自身の鋼鉄製の片腕のみか。

敗北は、絶対的。

「死ねよ、この豚が。」

負け惜しみを一つ、吐いてみた。








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