第24話 リストラ山にはイグドラシルがおってさ

 ある晴れた昼下がり、リストラ山に続く道。アウデン男爵家の馬車がゴトゴトと音を立てながら俺たちをリストラ山へと運んで行く。


「……どうしてアウデン男爵とイーリス、それにレオンまで一緒に来てるんですかね?」

「まあまあ、良いじゃないか、テオドール殿。私もみんなも、テオドール殿の活躍が見たいのだよ」


 ウンウン、とレオンは大きくうなずいているが、イーリス顔はどこか物憂げだった。まるでこれから市場に売られてゆくかのようである。

 どうやらイーリスは、俺がリストラ山に行くことに決めたのを憂いているようである。


「申し訳ありませんわ、テオ様。私がいたらないせいでこのような場所まで足を運ばせてしまって」

「ああっ! イーリス、キミを責めているつもりはないんだよ。俺はただ、諸悪の根源を何とかしないとまずいと思っただけだからさ」


 まずい、今にも泣き出しそうだ。何とかせねば。こんなときはミケだ。ミケならこの重くなった空気を何とかしてくれるはず。


「あ~! テオがイーリスを泣かせたー! いーけないんだ、いけないんだ~、パパとママに言ってやろ~」

「やめて!」


 俺は慌ててミケを止めた。おい、マジでやめろ。シャレにならんから、それ。俺とミケのやり取りを見て、イーリスが涙を浮かべた目で笑ってくれた。

 さすがはミケだ。今のが冗談であることを俺は確信しているよ。あ、俺のおやつ、いります?


 しかし、リストラ山に何が待ち構えているか分からないのは確かだからな。それだけが心配だ。俺とミケだけならどうにでもなると思うが、アウデン男爵一行に護衛の騎士までいる。安全マージンの確保が難しくなったぞ。


 先行きの不安を感じながら進んでいると、何だが周囲が騒がしくなってきた。

 どうしたのかな? よくある物語のように盗賊でも襲ってきたか? もしそうだとしても余裕で返り討ちにするけどね。


「た、大変です!」

「どうした?」


 急に止まった馬車。すぐに駆け込んできた騎士に、アウデン男爵が疑問を投げかけた。


「そ、それが……」


 知らせに来た騎士が困惑している。どうやら盗賊ではないようである。それなら一体どうしたのか? 何て言ったら良いか分からない、と言った顔でうろたえていた。


「どうやら何かあったらしい。私が外に出て確認してくるから、少し待っているように」


 そしてアウデン男爵が外に出るとすぐに、「なんじゃこりゃー!」と叫び声が聞こえてきた。俺たちは顔を見合わせると、急いで馬車の外に出た。


「な、なんじゃこりゃー!」


 リストラ山と思われる山に大きな大樹がデカデカと天に向かって伸びていた。どう言うことなの。リストラ山にそんな大きな大木があると言う話は聞いたことがなかった。


「あれはイグドラシル……!」

「知っているのか、ミケ!?」


 俺の肩に乗っかっていたミケが驚きの声を発した。みんなの注目がミケに集まる。


「あれはこの世界に数本しかない世界樹のイグドラシル。イグドラシルはその成長に空と海と大地のエネルギーを大量に必要とする木。その木が生えている周囲はペンペン草一本生えなくなる不毛の地に変わってしまう。そしてすべてのエネルギー源を吸い尽くしたら、二本の大きな根っこで歩いて大陸間を移動するの。イグドラシルは稀に実をつけることがあって、そのイグドラシルの実は死者をも蘇生させる力があるって聞いたことがあるよ!」

「……ミケ、その設定、今考えただろ?」

「うん!」


 てへぺろ、とばかりに舌を出したミケ。可愛いから許す。


「リストラ川の水位が下がったのはあの木が原因と言うことで間違いなさそうですな」


 アウデン男爵が今の話は聞かなかったことにして話を進めてくれた。気苦労をかけてしまってすまぬ。


「どうやらそうみたいですね。周辺の町や村で話を聞いてみましょう」


 何が起こったのか分からないので、とりあえず周辺の聞き込み捜査から始めた。騎士たちが手際よく情報を集めてくれたおかげで、すぐに情報は集まった。


「つまり、朝起きたらそこに巨木が生えていた、と言うことですね」


 集まった情報を集めるとそう言う結論にいたった。何それ怖い。どんな現象?


「どうやらそのようです。そしてその日から徐々にリストラ川の水位が下がっていったそうです」

「なるほど。となると、今回の水不足はあの木が原因のようだな。そうなると、あの木をどうにかすることができれば、この問題は解決できると言うことか」


 アウデン男爵が結論づけた。多分間違っていないだろう。ミケが適当な解説を加えていたが、あの大木が水をどんどん吸い上げている可能性は十分にあるな。


「それじゃ、あの木を切り倒しに行こうよ」

「ミケちゃん、大丈夫なの?」

「だいじょぶ、だいじょぶ~! テオがバッサリとやってくれるから」


 完全に俺頼みである。だがそれ以外に方法はないような気がする。念のため、リストラ山がどこの領地が管理しているのかを聞いたら、山や川などの資源のほとんどは国が管理しているらしい。そしてリストラ山も例外ではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る