カレの愛しい幼馴染が僕のワザの虜になるまで ~パッと見NTRだが、実際はただ才能ある少女に剣術を教えてるだけの話~

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第1話

「ルードス! 遅くなっちゃってごめんね!」


 俺の名前を呼びながら、幼馴染のデアが駆け寄って来るのが見えた。

 艷やかな長い黒髪を揺らし、品のある整った顔を紅潮させている。


 彼女とは同じ町で育ち、ずっと一緒に過ごして来た。

 そして気が付けば、両想いになっていた。


「大丈夫、いま来たとこだし」


 ここは魔法具バザーの会場前。

 ようやくお互いの休みが合い、俺たちは久々のデートに来ていた。


「ずっと来たかったんだ〜」

「俺もー。デアと来れてよかったぜ」


 お互い冒険者として別々の仕事を請け負っていて、なかなか会える時間がなかった。

 だからって訳じゃないが、付き合い始めてから半年も経つのに、俺たちは未だに接吻どころか手を繋いだことすらない。


 そろそろ……何か進展が欲しい。


「ねえ、ルードス」


 突然名前を呼ばれ、思わずドキッとした。


「な、なに?」

「手……つなご……?」


 そう言いながら、デアは真っ白な手を俺に向けてきた。


 オイオイオイ……まじかよ。

 俺の心読まれてんの……?

 っていうか、通じ合っちゃってる???


「いいぜ……」


 焦りを悟られない様に、あくまでも紳士的に。

 俺はそっと、彼女の手を握った。


「……っ」

 

 恥ずかしそうに俯くデア。

 ヤバい。めちゃめちゃカワイイ。

 手のひらから幸せが流れ込んで来やがる……!


 今日一日、この手を絶対離さない。

 そう心に決めながら、俺たちは会場の奥へと進んで行った。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 楽しそうに魔法具バザーを回る、ルードスとデア。

 そんな初々しいカップルの横を、二人組の男がすれ違った。

 

「おい、見たか今の?」


 片方の男が、もう一人に小声で話しかける。


「ああ見た。たまんねぇな」


 二人の視線は、先ほどすれ違ったカップルの女の方へと向けられていた。

 足元から、撫で上げる様にゆっくり上部へと目線をあげる。

 

 露出された肩。

 髪の間から覗く首筋。

 男は興奮した様子で、思わず舌なめずりをした。


「コイツは上玉……否、“才能”の塊だ」

「間違いねぇ。あの足腰……ブレない重心。握らせたら相当だぜ」


 二人はゴクリと唾を飲み込み、腰元の剣に手を添えた。


「仕込みてぇ……剣術、仕込みてぇ」

「見ただけで解る。あの身体、最高の剣士になるぜ」


 恵まれた体とは、武術において最大の優位性である。

 どれだけ修行を積んだところで、この優位性は決して覆らない。


「王様が、『優秀な若い戦士を育成した者に特別報酬を与える』って言ってるしよぉ」

「へへへっ。俺たちがそれを貰うってのも、悪くねぇよなぁ」


 悪い笑顔を浮かべながら、二人がカップルの後を追い掛けようとした……その時。


「二人とも、何やってるの?」


 穏やかな声が二人を呼び止めた。


「えっ……」


 ギクリとした表情で二人が振り返る。

 するとそこに、中性的な顔立ちの青年が立っていた。


 短い銀色の髪と、闇に溶けそうな黒一色の服。

 彼もまた、腰に剣を下げていた。


「あぁっ!? クレスクント先生っ!」

「チーッス! 先生! 俺たち、ちょっと美術鑑賞に来てただけッス……!」


 先ほどまでの下卑た様子はどこへやら。

 二人は姿勢を正し、体中から冷汗を流して直立した。


「ふーん。美術鑑賞ね」


 そう言いながら“先生”と呼ばれた青年は、彼らが視線を向けていた女を見つめた。


「実に、興味深いね」

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