第78話
──夢を、見た。
久しぶりに会ったせいだ。最近は見ていなかった先生の夢。
目を開けて最初に感じたのはこめかみ辺りを流れる温かい雫の感覚。そして心臓が握りつぶされそうになるくらいの苦しみ。
それは今までと何ら変わらないもの。
……だけど。
先生を想っていたあの頃の夢のはずなのに。
「──まやちゃんっ!!」
聞こえるはずのない神永君の声が聞こえた気がして、私は目を覚ましたんだ。
──身体を起こしていつもより暗い部屋を見渡す。
カーテンを開けると窓の外は雨。
それが分かった瞬間、気分も重くなってため息をつく。学校へ行く準備をしようと、カーテンに手をかけて閉めるために力を入れた時──。
目の端に〝あるもの〟が見えてその手を止めた。
バンッと大きな音を立ててドアを開け部屋を出て、階段を転がるような勢いで駆け降りる。
「──あ。おはよう、まやちゃん!」
玄関を開けて私は目を見張った。
窓から見えたのは見間違いじゃなかった。
そこにはいるはずのない彼。
「……なにやってんの、神永君……」
傘をさして、私の家の塀に寄りかかっているこの男。
「まやちゃんに、無性に会いたくなって……」
にっこり笑った彼に呆然とする。
「っていうか、まやちゃんのパジャマとかレアすぎて……っ!いろいろ想像しちゃうんだけど!!」
……まあそこはスル―しておこう。
彼に少し歩み寄ると神永君も私に近づいて傘を傾けてくれる。「濡れちゃうよ」って優しく微笑んだ。
「……学校行けば、会えるじゃん」
戸惑いがちに、彼を見上げると照れくさそうに頭を掻く。
「んー、何ていえばいいのかな。ダメなんだ、それじゃあ。まやちゃんに会いたいって思ったら勝手に早起きもできたし、お母さんもびっくりの速さで準備もできた。会いたいって思ったときに会えたら二倍嬉しいじゃん?」
「俺が過ごす時間がまやちゃんでいっぱいになればいいと思うし、まやちゃんが過ごす一日に俺が少しでも多くいられたらいいと思う。まやちゃんの隣でいたら、胸がぽかぽかするんだよ。涙が出そうなくらい嬉しくなる。──だいすきだよ、まやちゃん。それを、伝えに来た」
──結局、全部「だいすき」って言葉に繋げるよね。
いつだって、ウザいくらい伝えてくれるくせに。
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