第10話 佐々木アキラ
「アキラ、夏休みどうする?」
岡村通称おかむーが机にうなだれながら質問してくる。
「夏祭りとあとどっかでプールとか?」
適当にこたえてしまったが野球部の練習も試合もある。
オープンキャンパスも見に行かなければならないので割といそがしい。
「おかむーは軽音部のやつらと活動はないのか?」
「軽音部は自由だから」
「なんだそれ」
「肝試しならまかせろ。うち部屋余ってるから泊まれるし。修行してくか?w」
家が神社の田島だ。通称たじ。
「なんのだよw」
「おー雰囲気あるね。いいじゃん、神社肝試し。」
「佐々木君たち面白そうな話してるわね?私たちも夏休みの予定立ててるところなんだけど」
湊さんのグループが話しかけてくる。
1年の時の文化祭からちょこちょこ話すようになった。
「あたし水着もってなーい」
メガネの金子さんだ。部活はなにやってるのか知らない。
「女子グループで買いに行こ?浴衣も」
黒髪ショート陸上部 小川さんだ。
とんとん拍子に一緒に行動することが決定していく。
これが青春か。
「いやあと一人。俺は小林さんを誘うぜ!」
きりっとした顔でおかむーが言う。
おかむーはクラスのマドンナ小林さんを誘うつもりらしい。
この高2の夏、告る!そして童貞を卒業する!
と息を巻いていた。
小林さんは学校でほとんど男子と話さない。
かるい挨拶をする程度だ。
部活もはいっていない。アルバイトをしているらしいがなんのバイトかは知らない。
誰かを好きとか付き合っているだとかそんな話も聞かない。
ミステリアスガール、そんな感じだ。
おかむーには荷が重いと思う。
どんまい。次、がんばれ。
とたじも俺も心の中で思っている。
「もう夏休みまで何日もない。小林さんに話してくる!」
そう言っておかむーは教室を飛び出した。
「あの子はねえ」
湊さんがそう言うと女子の間で目を見合わせる。
「と言いますと?」
ナイスだ。たじ。
「いや。いいのよ。」
意味深な顔をする。
なんだ?年上の彼氏がいるとか?まさか教師か!?
なんてことはあの子にはなさそうだ。
しばらくおかむーを待ったが帰ってこないので下校することにした。
帰る途中で廊下や下駄箱で会うかもしれない。
「勢いで告ってるかもなw」
たじが茶化す。
おかむーの鞄と自分の鞄を持って教室を出る。
「無謀w」
「馬鹿だねー岡村って」
「自己評価高いよね、おかむーw」
「あほのくせにねw」
散々な言われようが廊下に響く。
男女3-3 そしてたぶん来ないであろう小林さん
今年の夏休みはイベント盛りだくさんで楽しみだ。
少し気分があがり教室を一番最後に出る。
今日は日直で教室のカギをかけてから帰らなければならない。
夕日の差し込む教室の扉を閉める。
鍵を差し込みひねる。
めまいがする。鍵をひねった方向に視界がゆがむような感覚。
頭の中だけが回転する、そんな感覚に思わず目をつむり目頭に手を当てる。
目を開くと教室の扉はそこにはなく大広間といった感じのところに立っていた。
右前方には同じ制服の男が立っている。
いや隣にも後ろにも同じ制服のやつがいる。
そうか。異世界転移。流行りの。
めまいで顔までは確認できない。しゃがみ込む。とても立っていられない。
しばらくするとめまいは収まり、同じ制服のやつらが同じクラスのメンツであるということが分かった。
しかも小林さんもいる。かわいい。
クラスごと転生転移ってパターンか。あるある。
そして神官?かなにかの大臣?魔法使い?
かなにかの背の低いぽっちゃりおじさんにまじまじと見られたあと、
クラスのうちの一人がおじさんに別部屋へつれていかれる。
こいつは確か赤羽。出席番号1番だから覚えている。その程度の認識しかないが。
そして全員左手に腕飾り?のような物を付けられる。
おじさんたちの言葉が分かるようになる。
ご都合だな。
愛想のいいおじさんの話が始まる。
「えー君たちを向こうの世界から呼ばせてもらった。
各々精進し我が国の兵士として立派に戦ってください。
我が国の意向に背いた場合、連帯責任で全員の腕のバンドが爆発します。」
まじか。そんな笑顔で言うような話じゃない。
こうして異世界転移したと思ったら早速自由を奪われた。
そしてその日を最後に赤羽は帰ってこない。
転移してからちょうど1年が経とうとしていた。
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