10
目を開けると白い天井が見えた。
(あれ……?)
瞬間、水の底から突然浮かびあがったかのように意識と身体がぴたりと重なった。
「……おか……」
とっさに大きく息を吸いこむ。どく、どく、と心臓が上下している――口に流れこんだ空気が喉の奥で苦い薬品の匂いになる。
「ひらおか……? 平岡⁉」
(ここは……?)
「病院だよ! なんだよ、おまえ、もう……まじで俺、ほんとに……」
人影が視界の隅で動く。顔を動かすと脱力したようにふせる坊主頭がすぐ横にあった。
「びょういん……?」
「覚えてないのか?」
霧がかかったように頭がぼんやりしている――ブレーキの音、そう、たしか――悲鳴のようなブレーキの音、横断歩道の白線、スローモーションのような一瞬、の中――坊主頭の少年は不安そうにこちらを見つめている。見覚えのある顔――目が真っ赤になっている。
「……なに泣いてんの?」
「泣いてねえよ。なあ、大丈夫か? 俺のことわかるか?」
少年が半袖のシャツの腕で乱暴に目をこする。紗月が名前を口にすると、赤くなっていた鼻が深呼吸の置きみやげのごとくぴくりと動いた。
「よかった、そうだよ、
「ともい?」
「さっき言ってたじゃん。ともいくんって」
「……そうだった?」
「ま、いいや、ほんとよかった……そうだ、看護師、看護師呼んでくる」
ちょっと待ってろよ、すぐ戻るからな、と少年が部屋を飛びだしていく。左肘のあたりにじんわりと熱のようなものを感じたが、まぶたの重みに抗えず紗月は再び目をとじた。大事な、とても大事な夢をみていたのだが、もう消えてしまった。
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