ショートショートケーキ

「未央奈(みおな)が三股してたから、別れちゃった……」

 僕はダイニングのテーブルに伏せながら嘆いた。

 未央奈は僕にとって初めての恋人だった。ある日帰り道の駐車場を通ったら、未央奈をめぐって見知らぬ二人の男子が、殴り合いのケンカをしていた。


 僕はそれを見て恐怖と気まずさのあまり、自宅まで逃げてきた。

 走ったことによる疲労と精神的な苦痛で、上体を起こす気にはなれなかった。


「これでも食べて元気を出したら?」

 妹の杏(あんず)の一言で、僕はゆっくりと体を起こす。彼女は慎重にお皿をテーブルまで運んできた。


 それはショートケーキなのか? あまりにも細く奇妙だ。

「辛いときに出すスイーツ、その名もショートショートケーキよ。辛い気分が続くのはなるべく短いのがいいから、願掛けの意味合いも込めてショートショートなの」


 そのケーキは本体があまりにも細く、いちごが本体からはみ出していた。ケーキはまるでゴルフのティーのようで、今にもいちごはクラブで打ち出されそうに見えた。

「さあ、召し上がれ」

 杏が自信に満ちた表情ですすめてくる。


 僕はいちごをどかすと、お皿に添えられたフォークでケーキに触れる。貧弱なケーキは、あっという間にいちごに寄りかかるように崩れた。


 これで本当に僕は元気を取り戻せるのだろうか?

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