彼女が白目をむいたとき

 ある雨上がりの学校の帰り道で、一緒に歩いていた彼女のセイラの様子がおかしくなった。

 彼女はいきなり目をひん剥いていて、黒い部分がほとんど見えなくなっていた。

「どうしたんだ?」

 僕は何事かと思い、彼女を道路の脇へと寄せた。


 その直後に車道をダンプカーが通った。車道の脇にある大きな水たまりを跳ね上げ、歩道の右半分に豪快のしぶきが飛んできた。僕たちはギリギリのところで濡れるの避けられた。

 水しぶきに戦慄しながらセイラの方へ向き直ると、彼女の表情は元の清純さを取り戻していた。


「よかった。危機を感じると白目をむくくせがあるから」

 よく理解できないくせだったが、そのあとも僕はセイラの白目のおかげで、何かとピンチを救われてきた。


---


 ある日僕が教室に入ったときだった。セイラはなぜか自分の席の上で後ろ向きに正座し、僕に向かって白目をむいていた。

「どうしたんだ?」

 と心配してみたが、僕はすぐにセイラの法則に気がつき、どんな危機が迫っているのか周囲を見渡した。でもここは何の変哲もない教室。すでに中に入っている以上、天井から黒板消しが落ちてきそうもないし、誰かが急に悪質タックルをしてきそうな気配もなかった。


 いたって平和な周囲を確かめ、セイラが白目を発しているのは誤りかなと思い、自分の席に着いた。


 その瞬間、僕のお尻に、凄まじく鋭い針が食い込んできた。それもいくつも。


 床を見てみると、イスからあふれた画鋲が散っていた。


「うわあああああああああああああああっ!!!」

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