2
「ねえ、月がみえるわ」
君が、空を指さす。
「ほら」
印象派の画家が引いた
「ああ」
「それだけなの?」
「ああ、それだけだ」
味気ない感想が不満だったのか、それとも、興味を示さなかった罰なのか──君はそれから、なにも喋らなくなり、スカートの裾をつかむと、踊るように波をよけて歩いた。
少し先をゆく君の背中では、麦わら帽子からのびる長い髪が、潮風と日射しをうけて綺麗に流れる。
「ねえ、あのさ──」
こちらを振り向かずに波を器用によけながら、そのまま君は言葉を続ける。
「好きだって、告白されちゃった」
不意に強くなった潮風が、君の長い髪と僕の心を激しく揺らした。
「そうか」
「それだけなの?」
「ああ」
風向きが急に変わり、飛ばされそうになった麦わら帽子を、君は両手でしっかりと押さえる。
「……そうなんだ」
それから最後に君がなんて言ったのか、うまく聞きとれない距離にまで背中はもう遠くなっていた。
よけるのをやめた君の足に、何度も白い波が、とめどなく打ちつけられていく。
打ちつける波を吸って、スカートの裾がずいぶんと濡れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。