第61話 DIGI.LAT!(でじらっと)/紙が燃え尽きた世界で 第0話
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これは以前カクヨムで公開していたけど下書きに放置していたSF作品です。
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Hello, this is a server named "DIGI.LAT",
means digital and rat, (digita-l-at).
and, RAT is Remote Access Tools' name.
ゴゴゴ、ガガガ……
駅からほど近い、築50年は経っている雑居ビルの2階。
電車が行き交うたび、キチンと閉まらない窓が揺れる。部屋全体もきしんでいる。
以前の什器をそのまま使いまわしていて、おそらく”社長席”だったそこでは、電車のことなど気にもせず、革張りの椅子で男がまどろんでいる。デスク上には、横3つ、縦2段に並べたモニタと、たこ足にたこ足を重ねた延長タップ、それと「プレート」の山。
また電車が通り、安定の悪かった、へし曲げたチューハイの缶が、乱雑な床に落ちた。
”バアン、”
ドアは突然開いた。階段を上ってくる足音が、さきの電車の音でかき消されていたのだろう。
「ヒロト!」
リュックを背負った少年、小学4,5年生くらいの--は、男をそう呼んだ。
「んあ」
「あ、じゃねーだろ! 今日も授業参観来てねーじゃんか! 仕事してんならともかく!」
そして少年が、首からさげていたPDAのボタンを押すと、男のいるデスクで、また雪崩が起こった。--積み重ねた「プレート」のひとつが振動している。
「ちゃんと連絡送っといただろ!」
「あー……すまん、すまん……昼まで仕事だったんだ、そんで」
男は座り直す。
「一息つこうって飲んで、酔っぱらった状態じゃ、学校いけねーだろよ」
「クソ親父」
少年は男にそう吐き捨てて、背中を向けた。
「飯までには帰って来いよ!」
ドアが再び閉まり、階段を下りる足音は、はっきりと男に聞こえていた。
足音は隣の部屋のドアに続いた。それはそのまま、こちらのドアの鍵を開ける。
「よっ」
スリッパを適当に脱いで、入ってきたのはおばさんというには失礼な年代の女性だ。
「今日はカレーかい、コージ」
「ああ」
さきの少年は、ホーローの鍋の前でカレールーをとかしている。
「ヒロトは?」
「まだ。たぶん帰って来ないな、あの調子じゃ」
熱量を弱めて、コージは慣れた手つきでレタスをちぎり、サラダをもりつける。
「お客さんから預かった、修理待ちのプレートがまだ5台はあったし」
「そっか」
「あ、トキコ」
トキコと呼ばれた女性は遠慮もなく、冷蔵庫から飲みさしのペットボトルを取り出していた。
「皿」
「あいよ」
親子でもない距離感の会話は続く。
「一段、壁を増やしやがったか…」
すでに日は落ちて、フロアの明かりは切れていて、デスクのスタンドが手元をてらしているが、ヒロトはモニタだけを見ている。
「まああんま意味ないんすけど、穴だらけだし」
両手の指を軽快に、キーボードの上で踊らせると、画面が何重にもスクロールしてゆく。
「まずは200回くらいsbin の下のmanでも読んでください、と」
そして右手の薬指で一回り大きな、エンターキーをはじいた。飾り気のない指輪がはまっていた。
「今日はどこへ行きましょうかね」
「コージ、あんたまたニンジンよけてない?」
「気のせい」
ゲーム機のVRヘッドセットやリュック、そして、やりかけの宿題が表示されたプレートが転がるリビングのローテーブルで、テレビをなんとなく点けながら、2人で晩御飯を食べるのも、かれらの日常であり……、
「臨時ニュースです。プレートをごらんください」
トキコが無造作に置いていた、リングストラップのついたプレートの着信ランプが点滅して、
「また、「デジタルラット」が現れました。N市の電子証券口座に、”アンノーン”から、多額の振り込みがあり……」
10日に1回くらい、そういうニュースが流れるのも日常になりつつあり……、
「明日にはどっかの会社がまた、預金引っこ抜かれて倒産、か」
「悪いことしてもうけたお金でしょ?」
「まーね、でもねずみはねずみ」
ガコン、ガコン……
ヒロトは今日5本目のプルトップをはねかえし、また、のびをする。
「2日連続徹夜はまずいか……」
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