第34話 強さの代償
――突然、エヴァンが倒れた。
気の抜けた店内は一気に緊張感を帯びる。
ララが駆け寄り、エヴァンの身体を仰向けにして抱き起こす。
「……どうしたんですか!? エヴァンさん!?」
ララが声をかけるがエヴァンは返事を返さない。
「ともかく、お医者様の所に!」
レイチェルが言った。
「以前、お店の中でリネットさんが倒れた時、エヴァンさんは孤児院に連れて行ったそうです。私もエヴァンさんを孤児院に連れて行きます」
ララが言った。
「ワタクシもお供いたします」
ララはレイチェルを横目で見て、
「遅かったら置いて行きますからね」
「はい」
ララは〈身体強化〉を発動すると、エヴァンを抱え走り出した。
すごい勢いで店のドアを開けながら通過するが、ドアは壊れていない。
そのままエヴァンがリネットを運んだ時と同じ様に建物の屋根に飛び乗ると、屋根伝いに進む。
「ララさん……これほどの〈身体強化〉を……!?」
あまりの速さにレイチェルは付いていけないが、ララは宣言どおりに構わず全速力で進み続ける。
そのまま、孤児院の庭にダイブ!!
――サッ!!
エヴァンと違い、ほとんど音立てずに着地した。
「すみません! ソフィアさんいらっしゃいますか!!」
そう言ったことで、ララは初めてソフィアが不在である可能性に気が付いた。
「うあっ! どこから入ってきたの!?」
「エヴァンどうしたの!?」
ララに気付いた子供たちが驚きの声を上げる。
騒ぎに気付いてソフィアが現れた。
「ララちゃん!? それにエヴァンくん!?」
エヴァンを抱えているララを見てソフィアは驚く。
「店で突然倒れてしまったんですっ!」
「とりあえずこっち!」
ソフィアはララをベッドに案内した。
ララはエヴァンをベッドに丁寧に寝かせる。
そこへようやくレイチェルが到着した。
「ララさん! 司祭様! エヴァン様はどうですか!?」
ソフィアはしばらく考えた後――、
「これは……おそらく過労によるものね……」
そう答えた。
「「か、過労!?」」
ララとレイチェルの驚きの声が重なる。
「た、確かに最近はコンテストの関係で忙しかったですが……」
「まさか一番体力がありそうなエヴァン様がお倒れになるとは……」
2人共困惑している。
「ううん、エヴァンくんだからだよ」
ソフィアは言った。
「それは……どういうことでしょう?」
レイチェルが尋ねる。
「エヴァンくんが〈
「ええっと、一時的に圧倒的な身体能力を得る代わりに、効果が切れた後、しばらく動けなくなる――というものですね?」
ララが答えた。
「みんなはエヴァンくんが目覚めて立ち上がったところで代償を支払い終えたと思っているかもしれないけど、実はそうじゃないの。その後も長期間に渡って体力の減衰が発生するんだよ」
「――え? そうだったのですか!? そのことをエヴァンさんは……?」
「気付いてはいたんじゃないかな……」
ソフィアは答えた。
「エヴァンさんとは数え切れないほど冒険をしましたが、あのスキルを見たのは5回だけです。その内2回は引退後ですね」
「ギルバート・ウェインとの戦いでその〈
「う~ん、初めてのコンテストで上手く負担をコントロールできなかったってとこかな」
ソフィアは言った。
「あ、あの……ソフィアさん、私に何かできることはありますか?」
ララは問いかける。
「ワ、ワタクシも!」
ソフィアはしばらく考えた後、
「それじゃ~2人でクレイジーベアを狩ってきてくれるかな? 薬の材料なの」
「え!? そんな弱いモンスターでいいんですか?」
「弱いモンスター、ね……。ララちゃん……残念ながらクレイジーベアに殺される冒険者は毎年1人や2人じゃないんだよ……?」
ソフィアは静かに言った。
「どうしてそんなに弱いのに冒険者になってしまうのでしょうか……?」
レイチェルは尋ねた。
「それはね……世のほとんどの人が突出した才能を持っていなからだよ。エヴァンくんやララちゃん、そしてレイチェルちゃんみたいに才能のある人は少数派なのは忘れちゃダメだよ」
「は、はい……」
「申し訳ありません……」
ララとレイチェルが揃ってうなだれる。
「あと、弱いかどうかは関係ないよ。死体が使えるかどうかだけ」
「わかりました。それで何頭持って帰ればいいですか?」
ララが尋ねた。
「1頭でいいよ。ただ、早くしないと日が沈んでしまうからね」
ソフィアはそう答えた。
「その前に終わらせます」
ララは言った。
そしてララとレイチェルは店に帰って冒険の準備を始めた。
(まぁ、あったらいいな~くらいのもので、絶対必要というわけじゃないんだけどね。二人も何かやることがあった方が気が楽だと思うよ♡)
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