30話 【ユリウスside】追い詰められたユリウス

 ジョネス商会の隊商は、中継地である街にたどり着いた。ロイたちが拠点としている街の隣街の、さらに隣街だ。ここで、2週間ほど隊商は滞在する。その間に、ジョネス商会は商品を売ったり仕入れたりする。


 護衛として雇われていた”黒き炎”は、これからの2週間はフリーとなる。とはいえ、2週間後に引き続きジョネス商会の護衛依頼を引き受けるので、あまり遠出などはできない。ゆっくり休息するか、近場で比較的低級の魔物狩りを行うかぐらいだ。


 とりあえず初日は、低級の魔物を狩りを行った。Eランククラスの魔物を狩り、冒険者ギルドに報告にやってきたところだ。


「おい。魔物討伐の処理を頼む」

「はい。かしこまりました」


 ユリウスの声を受けて、受付嬢が処理を進めていく。しばらくして、彼女の背後から男がやってきた。この冒険者ギルドのギルドマスターだ。ユリウスたちとも顔なじみであり、彼ら”黒き炎”をBランクに認定した張本人でもある。何やら鬼気迫る顔をしている。


「ユリウス! よくも、のこのこと顔を出せたものだな!」

「ギ、ギルドマスター……」


 ユリウスがバツが悪そうにそう言う。ギルドマスターが怒っている理由は、わかっている。


「お前らの醜態は噂になっているぞ! Bランクパーティの”黒き炎”が、ビッグボア相手に壊滅しかけ、オークにすら苦戦したとな!」

「そ、それは……」

「言い訳をするな! お前たちをBランクに推薦してやった俺の面目は丸つぶれだ! 次に失態があれば、Cランク……、いや、Dランクに降格させてやる! 覚悟しておけよ!」


 ギルドマスターはそう怒鳴る。言いたいことをいい終え、もはや顔も見たくないとばかりにユリウスたちの前を去っていった。


 残されたユリウスたちは、呆然と立ち尽くす。


 Bランクパーティが降格。ややめずらしいものの、それだけであれば大騒ぎするほどのことでもない。ベテランのBランクパーティが加齢による衰えで降格することなどはある。


 しかし、ユリウスたちはいまだ発展途上で、ゆくゆくはAランクと目されていた若手の有望パーティである。そんな彼らがランク降格となれば、ギルド中の注目を集めることになるだろう。それも、ワンランク降格ではなく、一気にツーランク降格となればなおさらである。


「このままでは……。次の出発まで2週間はある……」

「ユ、ユリウスさん? どうされましたか?」


 ぶつぶつと何かをつぶやくユリウスに対して、リサがおそるおそるそう言う。


「ロイを……。ロイを連れ戻さないと……。今度は俺が行く。みんなはこの街で待っていてくれ……」


 静かながらも鬼気迫る様子のユリウスに、他のメンバーは圧倒される。馬に飛び乗り街を出ていくユリウスを、残されたメンバーはただ呆然と見送ったのであった。

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