第17話 お風呂ギライと欲望


 五人は長時間の話し合いで疲れたので作戦会議室のすぐ近くにある大浴場で汗と疲れを流していた。先ほどまでの真剣な表情ではなく何処にでもいる普通の女の子として皆との時間を過ごしていた。そして影は逃げようとしたが巫女達の結解に包囲され可愛いハムスターの姿ではなく縄で縛られボンレスハム状態となって連れて来られていた。未來の時は毎日お風呂に連れて来られても湯船に入らなくて良かったので一緒にいたが今日は違う。お風呂場でようやく縄をほどいて貰った影はえりかの手の上で湯船に浸かっている。


「ねぇ人間の姿になってよ。手疲れてきたんだけど……」


「そうよ。人間に戻って一緒に入ろうよ……」


 えりかと未來がハムスター姿の影に抗議している。


「だって人間に戻ったら長風呂になる……」


 影は昔から長風呂が苦手なので出来る事ならシャワーでパッと終わらせたい性格だ。ここは男と女の考え方なのかもしれない。

 不満そうに言う影にえりかが怒る。

 そして影をのせている手のひらを勢いよく下に沈める。

 影はいきなり足場が沈んだ事によりお湯の中に身体が沈む。急な事に状況がよく分からないまま溺れていき、息が出来なくなる前に人間の姿に戻り顔を湯船からだす。長い髪が水を吸い込み一気に重くなる。しかしそんな事より息をすることを最優先とした。


「ぷぁ……」


 影の慌てぶりにえりかが満足そうな顔をし、未來が「大丈夫?」と心配する。近くで見ていた詩織が「えりか! ちょっと何しているの!」と叫びながらえりかに向かって胸元を手で隠し走ってくる。まいと有香は口元を手で隠し上品に笑いながら四人のやり取りを見ていた。


「しぬ……かとおもった……」


 ゲホゲホしている影を未來が優しく抱きしめ「大丈夫だよ」と頭をポンポンと優しく叩きながら言って安心させてくれる。えりかは詩織に「あれは可哀想でしょ!」と近くで怒られている。えりかは「だって影が素直に人間の姿になってくれないから……」と口を尖らせブツブツ言っている。


「詩織~ほどほどにしておいてあげなさいよ~」


「そうよ~えりかも反省してるみたいだしね~」


 まいと有香は少し遠い所から詩織がえりかを追い詰めすぎないように傍観者をしながらも楽しそうに口を挟む。


「ほら身体を洗ってあげるからあっちに行こう」


 影は未來の言葉に頷き、ようやく息が整ってきたので一緒に身体を洗う為移動する。巫女達は湯船に入る前に身体を洗っていたがボンレスハムならぬボンレスハムスターになっていた影は身体を洗わずそのまま湯船に入らされていた。


 未來が影をシャワーの前にある椅子に座らせる。

 そしてシャワーで髪を濡らしシャンプーを使い髪の毛を洗う。


「それにしても髪の毛長いだけじゃなくて量も多いのね」


 初めて触る影の髪に未來が驚く。女の子の力で影の髪を洗うのは一苦労である。影はこの世界に来たときに薄々お風呂に入るとこうなると気づいていた。


 それもあり、お風呂は毎日ハムスターの姿で手早く終わらせていた。


「うん。髪の毛伸びても切ってないからね」


「あはは……なら全部終わったら私が髪の毛軽くしてあげる」


「ならお願いしようかな」


「任せて」


 未來は笑顔で答える。

 それにしても影の髪を洗うのに自分の倍以上のシャンプーを使う髪の長さと量は異常であった。


「あら。新婚さんみたいですね」


 先に大浴場から出ていく有香とまいが未來をからかう。


「え?……そんなことないもん!」


 顔を真っ赤にして答える未來に対して有香が悪戯っぽく言う。


「未來は影にホントゾッコンね」


「…………」


 未來は顔を真っ赤にして黙る。そんな未來を見て二人がニヤニヤしながら出ていく。そして止めていた手を再び動かし髪を洗う。そして髪をお湯で流し身体を洗ってあげては流す。全部終わった未來は「ふぅ~やっと終わった」と達成感の言葉を吐いていた。


 ここでようやく詩織とえりかの口喧嘩が終わる。影が未來のおかげで綺麗になった身体で立ち上がると、影が思っている以上に髪の毛が水を吸い重たくなっておりそのままツルツル滑る床に足を滑らせバランスを崩し後ろ向きに倒れてしまう。


「いたた……」


 影が倒れた身体を起こしながら腰に手をあてさする。

 それを見た詩織が影の元まで来ると後ろに回る。


「影動かないでね」


 そして影の髪を掴むとまるで雑巾を絞るかのように力をいれる。そして大量の水が髪から出ていく。そして絞った髪の毛をそのままクルクルと回し詩織が自分の髪を纏めている髪留めで影の髪を纏める。屋台巻きをされた影の髪は先ほどみたいに重たくなくとても動きやすくなる。


「どう? これで少しは動きやすくなったと思うよ」


 詩織は影の横まで来ると影の顔を笑顔で見つめる。

 試しに影が立ってみるとさっきまでの髪の重たさが嘘みたいに軽くなっていた。


「本当だ! 詩織ありがとう」


 喜ぶ影の顔を見て詩織は満足そうに頷く。


「良かった」


 ここでえりかが来て影に質問をする。


「ところで影その長い髪を解く櫛とか持ってるの?」


「持ってないよ。放置してたら寝るまでには乾くから大丈夫だよ」


 影としてはそんな面倒な事はしたくないので放置しようと思ったがえりかに注意される。


「そんな事したら風邪引いちゃう。櫛貸すからちゃんと髪の毛ドライヤーで乾かして解くんだよ?」


「えぇ~~~~~~」


「こら。髪は乾かしなさい」


「そうだよ。風邪引いたらどうするの?」


 ここで未來と詩織も加わり影は頷く事にする。


「分かりました……」


 そして脱衣室で服を着て各々の部屋に戻る。影は巫女ではないので二階の空いている部屋を借りる事にする。そして髪を乾かそうと考えるがやはり面倒なので部屋の窓を開け夜空を眺める。もし建物の外からこの姿を誰かが見たらお風呂上りの女の子が髪を屋台巻きして夜空を見ていると勘違いされる、そんな気がした。


「いよいよ明日か。皆が無事に帰ってこれますように」


 影は夜空に向かって皆の無事を祈る。


 夜空を見ていると部屋がノックされ扉が開く。

 するとそこにはえりかがいた。


「どうしたの?」


「ドライヤーと櫛を持ってきてあげたのよ」


 えりかは両手に持っているドライヤーと櫛を影に直接手渡しする。


「今日は遅いし私もう寝るから明日返してくれたらいいから」


 そう言って影の部屋を出ていく。影は貸してもらったドライヤーと櫛を見つめ部屋にある机の上に置く。そしてやはり面倒なので夜空を見て髪が自然乾燥するのを待つことにする。


「影入るよ~」


 自分の部屋感覚でノックすらなく声と同時に扉が開く。


「未來どうしたの?」


「影がお腹空いているかなって思って夜食持ってきたわよ」


 影はお腹が空いていたので早速未來が持ってきてくれたご飯と餃子を食べる事にする。


「こら。髪の毛乾かしてないじゃない。ご飯はその後よ」


「はい……」


 影の髪が濡れている事に気づいた未來はご飯を食べようとする影を言葉で制しえりかが持ってきたドライヤーと櫛を使い、髪を乾かしならが解かしていく。

 そこに詩織が髪の毛をちゃんと乾かしているかと心配して影の部屋にくる。部屋にくるなり状況を察した詩織がいじけている影にご飯を食べさせてくれる。


「食べさせてあげるから機嫌なおしなさい」


 詩織がそういうと今日の朝と同じく影のペースで食べさせてくれる。


「ちょっと詩織甘やかしたらダメよ」


 未來が詩織に注意をする。


「なら何で未來は影の髪をわざわざ乾かしてあげてるの?」


「影がまだまだ子供だからよ」


「なら私がご飯を食べさせる理由もそれでいいじゃない」


「それは……」


 未來が言葉を詰まらせる。

 そして未來と詩織が笑う。


「それもそうね」


 影は二人の顔を見て笑顔で感謝の気持ちを伝える。

 そして睡魔が限界に来たのでそのまま部屋に用意されたベッドで寝る。


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