龍脈の巫女達の手違いで召喚された最強の転生者
光影
第1話 序章 前編
「巫女様お逃げください」
一人の女性が身体に傷を負い、十代後半の女の子を守りながら戦っている。
しかし長く続きそうにはない。
それを知ってか女性は巫女と呼ばれる女の子に逃げるように言う。
しかしその言葉を聞いても巫女と呼ばれる女の子は逃げようとはせずただ黙っているだけだった。
「…………」
「お願いです。私の力はもうすぐ底をつきます。だから早く」
女性の言葉は少し早口で額には汗を流している。
その口振りと様子からも彼女の言葉が嘘ではない事が分かる。
「…………」
十代後半の女の子――巫女は聞こえているはずの声に全く反応しない。
ただ自分達を窮地に追い込んできた敵の三人を黙って見ていた。
「巫女様!」
女性の叫びにようやく沈黙を続けていた巫女の口が開く。
「……逃げると言っても何処に逃げればいいのですか?」
その言葉に女性は言葉を失う。
現状この村には戦える者はもういない。
村の人々と兵は全て村の一角に集められ人質にされていた。
巫女が逃亡すれば人質は死ぬ事になる。
しかし巫女が敵の手に捕まれば巫女が代々守って来た村の龍脈の一つが暴走し村だけでなくその周囲数百メートルが焦土となる可能性がある。
龍脈から力を得て生きる人間にとって龍脈は極めて危険だが生きる為には必要な存在となっていた。
日本と言う国の平成が終わり数十年経過した。ある日突如地球上にいくつも姿を現した龍脈と一緒に出現した『守護者の軍勢』によって人類は活動領域を大幅に縮める事になる。守護者に兵器類の力は一切効かなかった。そんな守護者に人類は制圧されていくが唯一通用した力がある。
それは守護者が力を得る為に使っている龍脈の力。一度は人類が滅亡危機になるが種の存続危機に遺伝子が刺激され突然変異をおこし龍脈の力を使える者が誕生する。
その龍脈の力をある程度自由に制御できる者が巫女と呼ばれ、巫女の力を媒体に龍脈の力を使える者が『勇者』と呼ばれていた。
巫女の力を使っても龍脈の力を使えない者は……なんと言えばいいのか分からない。だって龍脈の力を使える人間はごくわずかで、神に仕える女性すなわち巫女、もしくはその巫女に仕えている一部の限られた才能がある女性にしか龍脈の力は使えないからだ。
だから男とほとんどの女性は今も昔も変わらないただの人間だ。なら何故巫女は守護者に狙われるのか。それは守護者達からしたら巫女さえいなくなれば人間を簡単に殺せるようになるからだ。そして世の中は巫女を中心とした集落を形成し命を繋いでいた。
ちなみに皆がどう思っているかは知らないが守護者の容姿は人間と変わらないし、人間と同じ言葉を話す。なら何処で人と守護者を見極めるかだがそれは簡単だ。巫女の力を媒体として龍脈の力を使っているかそうでないかだ。
普通の人には探知は無理だが、龍脈の力を使える巫女、もしくは巫女から力を与えてもらっている勇者には簡単に探知ができる。
ここで守護者の一人が巫女を守る女性に交渉する。
「大人しく巫女を渡せ。そうすればお前と村の人間の命まではとらないでいてやる」
二人は沈黙する。
「…………」
「…………」
余裕なのか守護者三人は沈黙する二人の口が開くのを待っている。
しばらくして巫女の口が開く。
「いつまでのんびりとしているのかしら?」
巫女の言葉に女性――勇者一人、敵――守護者三人が戸惑う。
「え? ……何を言ってるのですか?」
女性が巫女に尋ねる。
「あぁ……影が自身の龍脈の力を抑えてるから貴方達四人では分からないでも無理はないですね」
巫女が言った四人とは女性と守護者三人の事なのは全員が理解していたが味方の女性ですら影と言う名は噂程度にしか聞いた事がなかった。四人は龍脈探知をするがやはりここにいる五人以外の龍脈の力を感じられなかった。勿論巫女が籠城している建物の外には沢山の力を探知できるがこれは守護者が村を攻めてきてずっとあった。
「巫女様……影と言うのは?」
女性は更に巫女に質問をする。女性は長年巫女と一緒にいるが巫女の口から影と言う名前を聞いたのは初めてで敵を欺く為に巫女が嘘をついたのかと思った。しかし巫女の顔からはそんな感じがしなかった。それは敵である守護者三人も同じ。
「影は転生者であり、龍脈の中で目を覚ました者です」
「…………」
「と言うかずっと前からここにいますよ」
巫女装束の中から手のひらサイズのハムスターが出てくる。
それを見て驚く者達。
女性もハムスターを指さし巫女の顔を見て説明を求める。
そもそも転生者とは一般的には人間の事を言い、何処かの世界もしくは過去、未来から龍脈の力を扱える素質がある者を巫女が己の力を使い召喚した存在の事を言う。
たまにライオンやチータ、狼を召喚し使役する巫女もいる。
しかし五人の前にいるのは茶色い毛並みで触り心地が良さそうなハムスターだ。
流石にハムスターが守護者三人と戦うのには常識的に無理がある。
ここで守護者の口が開かれる。
「そのハムスターとやらがお前がさっき言っていた影なのか?」
「そうですよ?」
「探知に引っかからなかったのはそのハムスターに龍脈の力がないからだろ。それを勿体ぶって俺達を動揺させようとしたみたいだがそうはいかない」
守護者三人がハムスターを見て笑う。
一方、女性はこの世界が終焉を迎えたみたいな顔をして絶望している。
まぁ周りを期待させるだけさせた巫女の言葉の割には、誰がどう見ても可愛いらしいハムスターでは確かに戦闘に向かない転生者であると思うし反応にも困る。一昔前まで一般家庭でペットとして飼われいたハムスターが人類の敵に立ち向かうなんて事は普通に考えられない。
笑っている守護者三人の元に一人の守護兵が慌てて走ってくる。
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