第107話 アルちゃんの進化とアクアリング

 次の日、朝起きると語尾ににゃんがなくなっていた。頭を触ると、まだネコ耳は残っていたけれど、しっぽはなくなっている。昨日、ネコポーションを飲んでおいたから、もうすぐネコ耳もなくなりそうだね。


 ヴァイスはネコ耳もネコしっぽもすっかりなくなってしまっている。ちょっと残念な気持ちになりつつ、ヴァイスと一緒にキッチンへ向かう。

 キッチンに行くと、いつもいるはずのアルちゃんのポットにアルちゃんがいない。


「えっ、アルちゃん!?」


『何っ! アル、どこだ!』


「にゃんきゅっきゅ!」


 後ろから声がしたので振り返ると、ネコが歩いている。もうどこから突っ込んだらいいのやら。

 アルちゃんが猫耳を通り越してネコになっている。しかもただのネコじゃなくて、頭のネコミミは葉っぱ、背中にはドラゴンの翼みたいなのが付いている。そしてしっぽは植物の茎だ。さらにいうなら、語尾がにゃんじゃなくなっている。


「アルちゃん、その姿どうしたの!?」


『……カノン。アルを鑑定してみろ』


 アルちゃんを鑑定してみると、種族がニャンドラゴンと書いてある。進化、したの?

 ニャンドラゴンを良く鑑定してみると、やっぱりマンドラゴンから進化したと書いてある。移動ポットがなくても移動出来るようになったみたいだ。


「すごいねぇ。アルちゃん、進化したんだんね。マンドラゴンの時もかわいかったけど、今のニャンドラゴンもとってもかわいいよ!」


『まあ、アルはアルだからな』


「にゃんきゅっきゅ!」


 鳴き方まで可愛らしい。だけど、そのまま移動ポットに入ってお湯に浸かって気持ちよさそうにしているから、お風呂は好きなままなんだね。


「アルちゃんはもしかして、その背中の翼で飛べるの?」


「にゃんきゅっ!」


 そう返事をすると、パタパタと背中の翼を羽ばたかせて浮き上がった。そのまま私の周りをくるくると回っている。とっても可愛いので、優しく抱っこしてなでなでする。


「ふふっ、アルちゃん可愛いっ!」


 そういえば、やっぱりネコミミカゼになっていたって事なのかな。それでこの進化って事なんだよね、多分。

 アルちゃんはニャンドラゴンになった事で、少しご飯も食べられるようになったみたいだ。ただ、食べられるのは野菜類と飲み物だけみたいだね。

 でも、これから一緒にご飯が食べられると思うと、なんだか嬉しいね。朝ごはんにトマトとお野菜を出してあげたら、喜んでぱくぱく食べている。



 朝ご飯を食べていると、お店のドアがドンドンと叩かれている。誰かが来たみたいだ。ヴァイスを肩に乗せてお店のドアを開けると、錬金術師ギルドのギルマスのアルノーさんが慌てた様子で訪ねて来ていた。

 アルノーさんの腕にはネコがいる。アルノーさんの所のマンドラゴンも私が種をあげて、ポットで育てているからそうなる可能性は高いよね~。



「おはようございます。まずはこちらへどうぞ」


「ああ、すまない。ありがとう」


 アルノーさんにテーブル席を勧めて、アイスティーを出してあげる。一息ついてから話を始める。アルちゃんもお店に飛んで来て、アルノーさんのニャンドラゴンと一緒に遊んでいる。うん、可愛い。


「カノンさんのマンドラゴンもネコになったんですね」


「そうですね。アルちゃんもネコミミカゼになったみたいで、今日起きたらニャンドラゴンになってました」


「ニャンドラゴン、ですか?」


 アルノーさんにも進化したと教えてあげた。多分、水耕栽培したのが今までのマンドラゴンと違う所だろう。きっと、そういう色々な物が重なっての進化なんだと思うんだよね。

 そういうと、アルノーさんはとても喜んでいた。きっと色々と調べてくれるんだろうな。だけど、ニャンドラゴンなんてヴァイスも知らないから、分かる事は少ないと思う。


「ニャンドラゴン、可愛いですね~。これからも私の癒しである事には変わりませんしね」


「そうですね。また一緒に遊ばせてあげてくださいね」


「ええ、もちろんです。とっても楽しそうですからね」


 そういうと、アルノーさんはニャンドラゴンを優しく抱っこして帰って行った。


 その後はお店を開けたり、レオナ達とお店を出していたりといつもの日常が戻ってきた。ただ、今までも看板マンドラゴンだったアルちゃんの人気がさらに上がった。



 今日はお店を開けている時に、宝石を使ったアクセサリーのデザインを考えている。ドワーフの街で色々と教わってきたから、試したいんだよね。

 金属の扱いも教わったけれど、錬金術スキルさんが何とかしてくれるので、あんまり必要なかったんだよね。でも、さすがに刃物はドワーフの皆さんに任せた方がとても良い物を作ってくれるので、私は作らないけどね。


 リングのデザインが出来た所で、ヴァイスとアルちゃんにお店番をお願いして錬金部屋に来ている。試しに錬金釜に宝石とミスリルを入れて蓋を閉めて魔力を流す。

 5分くらい魔力を流していると、チーン! と音がして完成した。蓋を開けてみると、描いたデザインそのままの宝石の付いたリングが完成している。


 うん、特に金属加工は必要なかったみたい。錬金術スキルさん、ありがとう。ミスリルで作ったので、これの裏側に魔石を貼り付けて、魔道具にしたいなぁ。

 やっぱり魔道具もおしゃれなアクセサリーにしたいよね。今回はどんな効果を付けるかお店番をしながら考えよう。


 お店に来る人も結構ネコミミカゼに罹っている人が多いね。良くにゃんにゃん聞こえている。ただ、やっぱりガタイの良い人のネコ耳、ネコしっぽはあんまり見たくないです~。

 何の嫌がらせかと言いたくなるくらいですよ? 騎士団の人達は色々な場所で配っているみたいだ。

 今回のネコミミカゼは動けなくなるわけではないので、何カ所か配る場所を決めてそこで配っているんだそう。それでも人数が多いからとても大変だと思う。


 後数日したら街からネコミミカゼがなくなるのだろうから、もう少しの辛抱かな。この数日は冒険者ギルドに近寄らないでいたいです。


「ねえ、ヴァイス。この指輪に何か効果を付けたいんだけど、何が良いかなぁ?」


『ふむ。宝石が水色だから、水の中で息が出来るとかどうだ?』


「えっ、何? そんな面白そうな物作れるのっ!?」


『カノンなら出来そうではないか?』


「やるーっ!!」


 息が出来るって事は緑の魔石は絶対必要だよね。後は身体の周りに空気の膜、その上に水の膜を張れば行けそうだよね。安全の為に緑の魔石は2つ付けようかな。



 夜になってご飯を食べた後、錬金部屋へいそいそと移動する。今日作ったミスリルのリングの内側に青の魔石(大)、緑の魔石(大)を2個貼り付ける。この貼り付け作業はもう慣れたもんだ。

 3個の魔石を張り終わったら錬金釜に入れる。蓋を閉めようとしたら、アルちゃんに止められた。


「にゃんきゅっ!」


「ん? アルちゃんのお湯を入れるの?」


「にゃんきゅっきゅっ!」


「うん、分かった。入れてみるね~」


 そういうと満足そうにしっぽを揺らしている。アイテムボックスから、アルちゃんのお湯を取り出して少し錬金釜に入れる。それから蓋を閉めて魔力を流す。


 チーン!


 魔力を流していると、出来上がりを知らせてくれた。錬金釜の蓋を開けて鑑定してみると、アクアリングと書いてある。良く鑑定で調べてみると、自分の魔力を少し使い水の中でも息が出来ると書いてある。

 持続時間は自分の魔力がある限り使えるんだそう。これは、便利アイテム来たーっ!


「ヴァイス。出来たよーっ! よし、休日は海に行こう!」


『良かろう。海ダンジョンの近くの海に行ってみるか』


「やったーっ!」


「にゃんきゅっきゅ!」


「うん、アルちゃんも一緒に行こうね~」


 とりあえず、お風呂で試してみる。アクアリングを付けてお風呂に入ってみると、身体の周りに膜があるから濡れない。手で水をすくってみると良く分かる。空気の膜があるから、ほんの少ししか水が掬えなかった。


 海の中のお散歩が出来るなんて、素敵すぎる。何か面白い物が見つけられると良いなぁ。

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