第89話 お酒の収穫

 数日過ぎて定休日になった。今日はまずは王城の畑に行って、その後に孤児院の近くの畑に行く予定だ。今日の畑が楽しみすぎて、ヴァイスがいつも以上に早起きだった。


 今日は忙しいし、ちょうどいいので朝ごはんを食べて王城へ向かっちゃおう。ヴァイスも待ちきれなくてソワソワしてるしね。


『カノン、早く行くぞ!』


「ふふっ、今行くからちょっと待ってね。アルちゃん、今日は一緒に行こうか?」


「きゅきゅ~!」


 今日はアルちゃんも一緒に行こう。アルちゃんはポットごと抱っこして歩いて行く。さすがに、街中をアルちゃんが飛んでいたらびっくりされちゃうからね。


『カノン。アルはマンドラゴンなのだが、王城に行っていいのか?』


「ん-、ダメだったら帰ってくれば良いよ~」


「きゅ?」


「ふふっ、大丈夫だよ。一緒に行こうよ!」


「きゅ~!」


 アルちゃんをなでなでして、抱え直してお店の戸締りをして王城へ歩いて行く。アルちゃんは初めて一緒にお出かけするから、とってもワクワクするね。

 アルちゃんもあっちを見たりこっちを見たりと、ソワソワと落ち着かない。アルちゃんも楽しいと良いね。


「きゅきゅ~」


「アルちゃんも楽しい?」


「きゅっ!」


「良かった~」


『うむ』


 王城の門で止められるかと思ったけれど、カードを見せたらすぐに通してくれた。これでアルちゃんもここに来られる事が分かったから、いつでも一緒に来られるね。


「通れて良かったね!」


「きゅっ!」


『そうだな』


 目隠しの木々を抜けたら、目の前の光景にすごく驚いた。


「え?」


『はっ!?』


「きゅきゅ?」


「数日でお酒が実ってるなんて!」


『相変わらずおかしいだろ!?』


「きゅ~」


 ここまで来たら、アルちゃんは飛んでも大丈夫だから、好きに遊んで貰おう。アルちゃんは色々なお酒の木の周りをくるくる楽しそうに回っている。


 ウォッカの畑は、瓶が土に埋まっている。1本を手に持って引っ張ってみると、すぽんっ! と抜けた。でも、面白い事に瓶には土が付いていなくて綺麗だ。クリーン魔法を掛けなくても綺麗って不思議だね。


『引っこ抜くのは我にはちょっと難しそうだな』


「そうだねぇ。私が頑張るしかないかな」


「きゅっ!」


「えっ?」


『どうした? アルに任せるのか?』


「きゅっ!!」


「アルちゃん。何か良いアイディアがあるんだね。じゃあ、お願いしても良いかな?」


「きゅきゅ~!」


 アルちゃんの入っているポットが地面に下りて、アルちゃんがポットから飛び出した。そのまま土の中に身体を入れていった。


「えぇぇ!? アルちゃん、凄いねっ!」


『アル、大丈夫なのか!?』


「きゅぅぅぅぅー!」


 アルちゃんが力を入れると、畑のお酒がズズっと地面の中から出て来た。


「えぇーっ!!」


『なにっ!?』


「きゅっ!」


「うわぁ、アルちゃん凄いね! これならすぐに収穫出来ちゃうね!」


「きゅきゅー!」


 アルちゃんは地面の中からよいしょっと出てくると、クリーン魔法を掛けてポットの中に戻っていった。アルちゃんはいつの間にか自分で出たり入ったり出来るようになっていたんだね。

 アルちゃんが地面の上に押し出してくれたので、アイテムボックスにサクッと仕舞ってしまおう。


 もう1つウォッカ畑があるから、そっちでもアルちゃんが押し出してくれたからすぐに収穫出来た。


『ウォッカがいっぱいだな!』


「そうだね~。でも、飲みすぎ注意ですよ~!」


「きゅっ!」


『アルまで!?』


「ふふっ」


 次はビール畑に向かおう。ヴァイスもアルちゃんと一緒にパタパタ飛んで移動している。2人が一緒に飛んでいるのは珍しいので、見ていてほっこりしちゃう。


「えっ、タル!?」


『タル、だな』


「きゅ?」


 ビール畑はかぼちゃ畑みたいに葉っぱが沢山生い茂っている上にドーンと1メートルくらいのタルが沢山実っている。

 近づいてよく見てみると、タルの下の方に蛇口が付いていてどこからどう見てもビールサーバーだ。ただ、木のタルだけど。


「ビールサーバーなの? 泡まで出ちゃうかも!?」


『カノン。楽しそうだな』


「うん。ビールあんまり飲めなくても、これはちょっと楽しい」


 ビールは地面の上になっているので、すぐにアイテムボックスに仕舞って収穫出来た。

 次は日本酒畑だね。歩いて行くと、お茶の木みたいな低い木に日本酒が沢山実っている。これは1つずつ収穫しないとダメみたいだ。


 ヴァイスも手伝ってくれて収穫していると、ヴァイスと反対側から日本酒がにゅっと出て来た。何かと思ったら、アルちゃんが蔦を使って収穫を手伝ってくれている。


「わわっ、アルちゃん。そんな事まで出来るんだねぇ」


「きゅ!」


「ふふっ、お手伝いありがとうね」


「きゅ~」


 3人で収穫しているから、結構すぐに収穫する事が出来た。ワイン畑はまだ実っていないみたいだ。

 しかし、この大量のお酒をどうしたら良いのだろうか? とりあえず半分は王城が買い取ってくれると言っていたけれど、残りはどうしようかな。


 全部収穫出来たので、ピクニック気分でお茶にしよう。敷物を出してお家の前に敷いてお茶の準備をしよう。アルちゃんにはお湯を少し貰ってから、お湯と栄養剤を足してあげる。

 ヴァイスと私の分は、アイスティーを入れてお菓子も色々出して好きなのを食べよう。私は今日はクッキーにしようかな。


「やっとピクニックに来られたね~」


「きゅ~」


『そうだな。3人で来るとまた嬉しいな』


「そうだよね! またお出かけしようね」


「きゅきゅ~!」


 お茶をしていると、ユリウス様とテオドール様が来た。


「カノン様、ヴァイス様。その子は?」


「最近お店にもいるんですが、マンドラゴンのアルちゃんです」


「「なっ!?」」


「きゅきゅ~」


「「えっ!?」」


『アルなら、普通のマンドラゴンと少し違うから大丈夫だぞ』


「そうなのですか?」


『うむ。大声をあげるのも人を選べるみたいだしな』


「そんな事が可能なのですか!?」


『アルだからであろうな』


「きゅっ!」


「そうなんだ!」


『なんだ、カノンも知らなかったのか』


「うん。全然知らなかったや。アルちゃん、凄いんだね~」


「きゅきゅ~」


 照れているアルちゃんが可愛らしい。なでなでしてると、私の周りを飛び始めた。飛んでいる事にもユリウス様達がびっくりしているので、そっちもヴァイスが説明してくれた。


「そうだ。お酒の収穫が出来たのですが、どうしましょう?」


「もう実ったのですか!?」


 アイテムボックスの中からお酒をそれぞれ1本ずつ取り出して見せた。さすがにビールのタルを取り出した時は声も出ないほどびっくりしていた。


「カノン様。これは瓶とタルですよね?」


「そうですねよ。これが実ったんですよね」


「はぁ」


「しかも、このタルには注ぎ口が付いているので、タルサーバーになるんですよ!」


『カノン。少し待ってやれ。ユリウス達が理解出来てないぞ』


「えっ?あっ、ごめんなさいっ」


『我には今更だから気にならないが、普通はこういう反応なのだぞ!』


 ついつい当たり前に話をしていたけれど、瓶とかタルが実るわけないもんね。最近すっかり慣れてしまって、全然気にしてなかったな。


 ユリウス様にはヴァイスが説明してくれた。とても驚いていたけれど、なんとか納得してくれたみたいだ。

 タルサーバーには注ぎ口をよく見てみると、日本にあったビールサーバーと同じで、手前に引くとビールが、奥に傾けると泡が出るみたいだ。それも、ユリウス様に説明をしておいた。


 ユリウス様はビールサーバーなんて見たことないので、よくわかっていないみたいだ。自分用のタルサーバーを取り出して、コップに試しに入れてみる。

 最初は手前にレバーを引いて、最後に泡を入れる為にレバーを奥に押し込む。そうすると、上に泡が乗った美味しそうなビールの完成!

 とはいえ私はあんまり飲めないのだけどね。


「カノン様。これは凄いですね!」


『カノン。我が味見してやるぞ!』


「ふふっ、そうだね」


 ヴァイスが美味しそうにビールをごくごく飲みほした。口の周りに泡が付いていて、ちょっと面白い。


「これは冷やして飲むと美味しく飲めると思いますよ~」


「そうなのですね。それで、どれくらい買い取らせて頂けるのでしょうか?」


「そこの倉庫に半分置いておきますので、必要な時に持って行ってくださいね」


「ありがとうございます。財務省と相談して買い取らせて頂きますね」


「お手数をお掛けしてすみませんが、よろしくお願いしますね」


 倉庫に半分アイテムボックスから取り出して置いておいた。大量のお酒の数でびっくりです。これと同じ量が私のアイテムボックスに入っていると思うと、この数をどうしたら良いか悩ましいです。

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