第10話 神の依頼 後編

「さあ我が家に着いたぞ。さっさと娘を部屋から出してくれ。いいか、もし娘に変なことしたらどうなるか……わかってるだろうな」


「わかったわかった。ちなみにだが、アマテラスを部屋から出すことに成功させたとして、俺に何か褒美はあるのか? 俺は無心論者だからイザナギの依頼だからと言って無条件で受ける気ないぞ」


「人の子が神に見返りを求めるとはな。クソニートに上から目線で語られるとは世も末だ」


「いちいちニートを馬鹿にするな。俺から言わせればふんぞり返ってる神の方が下に思うぜ。それにな、見返りがなきゃ人は動かんよ。むしろ見返りさえあれば動くのが人間の良いところだ。ただでさえ神は何もしないと思われてんだ。ここらで少しくらいは人様を見返してくれよ」


「一考しておく。それも娘を部屋から出したらの話だからな」


「言質取ったからな。さて仕事に取りかかりますか。ガサゴソ――」


「ん?お前……何を取り出してるんだ?」


「バルサン」


「テメェうちの娘を害虫扱いする気か! 仮にも神だぞ。有史史上、神をバルサンで追い出すとか聞いたことないわ。地獄に落とすぞ!」


 「生前は俺もよく家族にやられた嫌がらせだ。俺と家族の十年戦争はそれほど苛烈だった。あれはそう――」


「語り出すな。壮大に語り出すな。語るに落ちてるぞ。お前の家族事情など知らんが、十年も家に居すわられてたならバルサン程度じゃ済まないだろ。害虫はお前だ」


「虫だって生きてるんだ。部屋から追い出すのいくない」


「お前は今バルサンを炊こうとしているわけだが」


「あー五月蠅いな。あっちに行ってくれ。黄泉のイザナミと子作りに励んでくれ」


 さっそくバルサンを使用すると、瞬く間に煙が充満したようで大きな害虫アマテラスが飛び出してきた。


「ゴホッゴホッ。ちょっとバルサン炊いたの誰よ! せっかくイベントも佳境だっていうのに……」


「ほら見ろ。害虫アマテラスが出てきたぞ。依頼完了だ」


「あんた……人間? 人間が何しに来たのよ。ははあ、まさかパパに頼まれて来たのね? なら余計なお世話よ」


「あのなあ、おまえゲームに熱中するあまり、現世に影響が出始めてるんだよ。ゲームをやるのは勝手だが、やることはやって、人様に迷惑かけないように自重しろよ」


「未だかつて、これほど自らを棚の最上部に置くやつを見たことがない。その人間性こそ自重した方がいいぞ」


「あ、あんたに関係ないでしょ。ほっといてよ!」


「嫌だね。お前にはまだ家族って理解者がいるんだ。愛想つかされる前にしっかり話し合え。俺みたいになるな」


「あ、あんた……」


「バルサン炊いたのは悪かったな。そんじゃあ依頼完了ってことで俺は帰るぞ」


「あ、ああ。助かったぞ人間よ。お前も、一応は後悔はしてるんだな」


「はて、何の事かなー。んじゃ俺は帰るぜー」


 ふん。なかなか見所があるじゃないか。素直じゃないがな。


「さて、部屋から出てきたことだし、お前の話しも聞かんとな……おいどうした?」


 娘は出ていった男をいつまでも眺めていた。なにか嫌な予感がする。


「……あいつ……わたしのこと好きなのかな?」


「アイツぶっ殺す!」

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