§1 男子高生と女子大生
千宙も後輩の椿原
「千宙君は、椿原さんと付き合ってるの?」と私は彼の横に行って訊いた。
「六花とはそういうのではなくて、今日は暇だったから誘っただけです。」
彼は六花の歌う姿を見ながら、小さい声でつぶやいた。
「女の子とは交際したことはあるの?それとも、今彼女はいるの?」
「付き合ったことはあるけど、今は別れてしまって、彼女はいないっす!」
質問にはっきりと答える彼に、私は真面目さと純粋さを感じた。
帰り際に和葉は、千宙と連絡先を交換し合っていた。それからは何度かメールのやり取りをし、10月には彼のサッカーの試合を観戦した。その日は顔を合わせずに帰り、メールでその事を伝えた。
〈きょう、千宙くんの試合を観に行ったよ!気が付いた?シュートは決まらなかったけど、かっこよかったね!声が出そうになっちゃった!〉
しばらくしてから返事が来た。
<ありがとう!スタンドの右側の4列目にいたの、気が付いていました。終わってから探したけど、帰ったんですね。会って話したかったです〉
<みんなと一緒だったから、遠慮したんだよ!今度、暇な時に会おうか?いつなら良い?私はいつでも良いよ!〉
メールを読んだ千宙は、試合の疲れも吹き飛んですぐに会う日を決めた。
11月の土曜日、千宙は和葉と約束した新宿に出掛けた。千宙の家は東京郊外の多摩地区にあり、新宿に出るまでに1時間以上掛かった。和葉は渋谷に住んでおり、高校生の彼に合わせて髪をバレッタで留め、ブラウスにセーター、ミディスカートを装って待っていた。
「遅れてすみません!久し振りの新宿で、電車の時間を間違えて。」
「いいよ!恋人を待ってる気分で、楽しかったから。」
二人は肩を並べて東口に向かい、和葉の導きでカフェに入った。
「夏目さんは、聖海女子大ですよね。あそこはお嬢様ばかりの大学だと聞いてますが、本当なんですか?」
「まあ、そうかな。わたしもそうだけど、7割は付属から来た子だけど、お嬢様ばかりじゃないわよ。普通に会社員の子もいるけどね。」
「灰田先輩は白銀大で、先輩と付き合ってるんですよね?」
「彼とは合コンで知り合って、一度だけ遊びに付き合っただけよ。白銀大とうちの大学とは交流があって、よく合コンがあるの。」
千宙君は私に関心があるらしく、矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。あまり余計な事は話さないように見えたが、意外とおしゃべりで面白い。
「千宙君は、どうなの?夏休みに連れてた子と、少しは進展したの?」
「この前、友だちの家族と一緒に奥多摩で1泊しましたけど、特別にどうということはなくて、彼氏彼女の関係ではないですから。」
「そうなの?あの子は、きっと千宙君が好きだよ!応えて上げないの?」
私は二人の関係がうらやましく、その純粋さに嫉妬していた。私達はその後、街をぶらついて親密さが増したのは言うまでもない。別れ際に私から、大晦日の年越しライブに一緒に行ってほしいと誘った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます