§1 男子高生と女子大生

 夏目なつめ和葉かずはが立松千宙に初めて会ったのは、夏休みに男友達の灰田潔之きよゆきと遊んで帰る途中だった。和葉は聖海せいかい女子大学の2年生、千宙は西王子高校2年生だった。灰田とは大学のコンパで知り合ったが、しつこく言い寄る彼に一度だけ付き合って別れるつもりだった。

 千宙も後輩の椿原六花りっかを連れており、サッカー部の先輩の灰田の一言で、4人でカラオケに行った。そこで和葉は、年下の千宙に心がざわついた。日灼けした甘いマスクと、まだ子供っぽさの残る態度に魅かれていた。

「千宙君は、椿原さんと付き合ってるの?」と私は彼の横に行って訊いた。

「六花とはそういうのではなくて、今日は暇だったから誘っただけです。」

 彼は六花の歌う姿を見ながら、小さい声でつぶやいた。

「女の子とは交際したことはあるの?それとも、今彼女はいるの?」

「付き合ったことはあるけど、今は別れてしまって、彼女はいないっす!」

 質問にはっきりと答える彼に、私は真面目さと純粋さを感じた。


 帰り際に和葉は、千宙と連絡先を交換し合っていた。それからは何度かメールのやり取りをし、10月には彼のサッカーの試合を観戦した。その日は顔を合わせずに帰り、メールでその事を伝えた。

 〈きょう、千宙くんの試合を観に行ったよ!気が付いた?シュートは決まらなかったけど、かっこよかったね!声が出そうになっちゃった!〉

 しばらくしてから返事が来た。

 <ありがとう!スタンドの右側の4列目にいたの、気が付いていました。終わってから探したけど、帰ったんですね。会って話したかったです〉

 <みんなと一緒だったから、遠慮したんだよ!今度、暇な時に会おうか?いつなら良い?私はいつでも良いよ!〉

メールを読んだ千宙は、試合の疲れも吹き飛んですぐに会う日を決めた。


 11月の土曜日、千宙は和葉と約束した新宿に出掛けた。千宙の家は東京郊外の多摩地区にあり、新宿に出るまでに1時間以上掛かった。和葉は渋谷に住んでおり、高校生の彼に合わせて髪をバレッタで留め、ブラウスにセーター、ミディスカートを装って待っていた。

「遅れてすみません!久し振りの新宿で、電車の時間を間違えて。」

「いいよ!恋人を待ってる気分で、楽しかったから。」

 二人は肩を並べて東口に向かい、和葉の導きでカフェに入った。

「夏目さんは、聖海女子大ですよね。あそこはお嬢様ばかりの大学だと聞いてますが、本当なんですか?」

「まあ、そうかな。わたしもそうだけど、7割は付属から来た子だけど、お嬢様ばかりじゃないわよ。普通に会社員の子もいるけどね。」

「灰田先輩は白銀大で、先輩と付き合ってるんですよね?」

「彼とは合コンで知り合って、一度だけ遊びに付き合っただけよ。白銀大とうちの大学とは交流があって、よく合コンがあるの。」

 千宙君は私に関心があるらしく、矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。あまり余計な事は話さないように見えたが、意外とおしゃべりで面白い。

「千宙君は、どうなの?夏休みに連れてた子と、少しは進展したの?」

「この前、友だちの家族と一緒に奥多摩で1泊しましたけど、特別にどうということはなくて、彼氏彼女の関係ではないですから。」

「そうなの?あの子は、きっと千宙君が好きだよ!応えて上げないの?」

 私は二人の関係がうらやましく、その純粋さに嫉妬していた。私達はその後、街をぶらついて親密さが増したのは言うまでもない。別れ際に私から、大晦日の年越しライブに一緒に行ってほしいと誘った。

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