§8 新たな恋の終息
クリスマスの日は、結局七海は教会に行き、家族そろって食事をした。クラスのパーティーは元々興味がなく、家族に抵抗するための手段に利用しただけだったので、何の後悔も生じなかった。そして、年末は恒例となっている家族旅行で、伊豆の温泉に出掛けた。
友だちには、「高校生になってまで、家族と旅行するの?」と驚かれたが、私はクリスマスの一件以来あまり抵抗がなくなった。大人になって自立すれば、こんな風に家族と過ごす事もなくなるし、今の内かもしれないと思った。この旅行の間、両親とも沢山話をする事ができた。その内の一つが、私の心に衝撃を与えた。それは私の物心が付く前の話だった。
七海は生後3カ月の頃、感染症に侵され熱を出した。何日も続く熱に、医者は生命の危険を告げ、快復しても脳に何らかの障害が生じるおそれがあると言った。七海の両親はわらをもつかむ思いで、神仏に祈りを捧げた。その時にある教会で、神父の言葉に救われたという。
「七海を救ったのは医学の力だと感謝しているが、パパとママを救ったのは教会での教えだった。だから、心を支えてくれた恩返しに、七海が成人するまでの間は家族で1年に壱度礼拝しようと、ママと誓い合ったんだ。別に洗礼を受けた訳ではないから、七海が成人してからは自由にすればいい。」
父親の理路整然とした話し振りは、説得力があった。母親は泣きそうな面持ちで聞いていて、中1になった弟の寿朗も静かに聞いていた。
「分かったけど、何でもっと早く話してくれなかったの?」
「七海も中学までは、何の疑問もなく付いて来ただろ。いずれ話そうと思っていたら、先に七海に反発されてしまった。家の束縛から逃れたいと思うのは間違った事ではなく、七海が成長した証だと思ったから話す事にした。」
父親には、私の考えや行動を全て見抜かれていると思った。小さい頃からそう感じていて、父には嘘を付けないと改めて思い知らされた。
高校1年生最後の学期が始まって、七海は友人の花織に、冬休みに白石冬馬と会った事を話した。花織からは、冬馬の友人の青柳郁也とまだ交際していると報告があった。青柳とは喧嘩別れをして、冬休み前には隣のクラスの男子と付き合うような事を言っていたが、それがどうなったかは聞かなかった。花織の頭の中がどうなっているのか、七海には理解できなかった。
始業式の日課が終え、七海が久し振りに文芸部の部室を訪れると、そこに赤西亮伍がいた。冬休みに電話した時の、気まずい思いが頭に浮かんだ。
「ナミちゃん、この前は電話でごめん!母が側にいて、出掛けられなかったんだよ。相談があるなら、今聞こうか?」
「もう解決しましたから、赤西さんに話すことはありません。」
私は彼の態度に腹立たしさを感じ、邪険に突き放していた。
「そう、なら良いか!別件だけど、受験が終わったら、僕と付き合わない?」
少し前なら二つ返事で受けたが、彼への気持ちはすっかり冷めていた。
「今じゃなく、受験が終わったらなんですね!今は勉強の邪魔になるからという意味ですか?本当に好きなら、今支えになるのが彼女でしょ!」
私はそれだけ言って、部室を飛び出していた。彼が追いかけて来る様子もなく、私は自分から恋の兆しを断ち切った。
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