第4話 悪女

 最年少侯爵夫人の噂は瞬く間に社交界に広まっていった。


 『姉の婚約者を奪った悪女』


 エミリーは成人してから大伯母とスタンレー侯爵の介護に追われ、社交界には出てい。その為、噂は尾ひれがつき一人歩きを始めていた。


 勿論誰が流した噂かは、調べればすぐにわかることだ。だが、同世代の令嬢以外の良識のある貴婦人からはエミリーが素晴らしい女性であると認識されていた。


 アルフレッドはエリザベスを忘れる事が出来なかったが、祖父に対する献身的な姿勢を目の当たりにして、次第にエミリーに惹かれている自分に気付いていた。だから、返事の来ないエリザベスよりも常に傍で支えてくれるエミリーを伴侶に選んだ。それは祖父の願いでもあり、今の自分の本当の気持ちでもある。


 結婚してからもエミリーはアルフレッドに何処か余所余所しく、なかなかお互いの気持ちを確かめられないでいた。それはエミリーが姉の婚約者と結婚した後ろめたさが何処かにあったのかもしれない。本当の理由は、アルフレッドがまだエリザベスと連絡を取り合っている事なのだが、アルフレッドはその事に気付かないでいた。


 そして結婚後、初めて夫婦揃って王宮の夜会に招待される。エミリーは社交界の知識が乏しく経験もない。本音を言えば行きたくなかったが、夫であるアルフレッドは第二王子の側近。嫌でも参加せざるをえなっかった。その第二王子から


 「スタンレー侯爵夫人に一度会ってみたい」


と言われれば欠席する訳にはいかなかった。だが、そこに待っていたのは、エミリーへの中傷と嘲りだった。そんな周りの空気を読むことなく、王族に挨拶を済ませるとアルフレッドは第二王子や仕事仲間に挨拶しに向かった。


ただ一人、エミリーを置き去りにして……


おかげで見知らぬ社交界で一人壁の花となっていた。


 そこへ同年代の数人の令嬢がエミリーの元にやって来た。


 「貴女がご自分の姉の婚約者を奪い、結婚した恥知らずですの」

 「よくこんな公の場に顔を出せましたわね」

 「クス。ああ学校も出ていないから教養も無いのでしたわね。ごめんあそばせ」


 それぞれ皮肉と蔑みの言葉を言いながらまるで値踏みする様な視線をエミリーに向けてくる。彼女達はアルフレッドと結婚したエミリーに嫉妬していた。


 実はアルフレッドは将来を嘱望される優良物件で、エリザベスとの破局が噂されると、皆自分達にも機会があると思っていたが当てが外れ、その腹いせに嫌がらせ交じりの嫌味を言っているのだ。


 しかし、何れの貴族令嬢であっても所詮、令嬢なのだ。エミリーは押しも押されぬ侯爵夫人。立場はエミリーの方が上なのだが、社交界に出たことがないエミリーには令嬢等を上手くかわす手段を持っていなかった。


 「あら、皆様、何をしていらっしゃるのかしら?」


 現れたのは、華やかなドレスを纏った姉・エリザベスだった。


 「まあ、エリザベス様。お久しぶりですわ」

 

 輪の中の先頭に立っていた高位令嬢が姉に挨拶する様子から、どうやらお互い見知った相手の様だった。



 


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