第47話 あの女性がやっていたこととは、何だったのか?「…おい、小学生?学校の宿題は、終わったのかい?」

 ヒビキの気付きの通りに、おばあちゃんによる最悪のキス後、彼らの身体から、何かが抜け出ていた。

 「しまった!目を離した、隙に!抜き取られていたのは、駄菓子屋を忘れそうになっていた人々の心にひっそりと残されていた、駄菓子の欠片だったんじゃないのか?」

 おばあちゃんが、こうブツブツと、つぶやいた。

 「おお。こいつは、30年ほど前に限定発売されていた駄菓子じゃ」

 「これも、だ。間違いない。売れた商品だったからのう」

 「当時の子どもたちは、我先に、これを買っていたものさ。ひひひ」

 倒れていた人が子どものころに買って、その心の中に秘めていた思い出の駄菓子が、おばあちゃんの手の中に、吸い込まれていっていたのだった。

 「しかし…!」

 何かに、気付いた。

 声を押し殺すのに、精一杯となった。

 「しかし…。ばばあのキスって、あの作業には、関係なかったんじゃないか?」

 おばあちゃんの手に、どこかから抜き取った意味不明の駄菓子が、集まっていった。

 「あのばばあのやっていたことは…。あれは、まさに…。駄菓子の、摘出手術!」

 見ていて、興奮していた。

 そんな自分が憐れで、しっかりと、前を向いた。

 おばあちゃんの行為は、鮮やかだった。おばあちゃんは、駄菓子にまつわるあらゆる生活スタイルにプライドを持ちながら、慣れた行為を楽しんでいた。

 「もしかしたら…。あのばばあは、ずっとそうやって、ここで暮らしていたのかもな。あまりにも、慣れたやり口だったしな…」

 おばあちゃんの駄菓子屋戦役は、どこまでも、続いていた。

 「あ…また、キスしている。きったねえなあ」

 ヒビキは、抜き取られていた駄菓子に目をやって、こんなことを、感じとることができた。

 「あれってまさか、リサイクルされるわけじゃないだろうなあ?」

 ヒビキのその答えも、絶対的に間違っていたとは、言えなかった。

 仮に、おばあちゃんが、この地下フロアで生活できていたとする。

 なぜ、そこで、生活を続けられたのか?

 「きっと…。あのおばあちゃんは、倒れていた人から駄菓子を抜き取って、どこかと取引して、金銭を得ていたからだ…。神のみぞできる、裏技だ…」

 自らの推理に、震えが走った。

 「そうか。あれは、生活維持のためのキスだったんだな」

 そう考えるのであれば、ヒビキの推理通りに、地下フロアでの高齢者1人生活も、充分可能になっていただろう。

 だが…!

 「あの、ばば…。神…。俺には、生活維持のためだけのキスとは、思えなくなったぞ。本当のところ、何のためにあんなことをしていたんだ?本当に、リサイクルのためか?」

 そのとき、ひらめきが起こった。

 「あ、そういうことか…!」

 こう、悟ったのだった。

 「これこそが、裏ソサエティの駄菓子屋による、闇取引というものだったんだんじゃないのか?」

 足が、ガクガクと、してきた。

 が、疑問点は残された。

 「しかしなあ…。金だけ得られたとしてもな…。それをどうやって、食に代えるというんだ?駄菓子の取引くらいで、腹が、満たされるのか?あのばばあは、どうやって、ここで腹を満たして生活できていたんだ?」

 そこ、だった!

 それを考えたとき、新たな悟りが、開かれた。

 「あのばばあ…!まさか…!まだ充分食べられる駄菓子だけを集めて、自分の体内に取り込んでいたんじゃ、ないのか?それが、ばばあの言っていた、エネルギーという奴の正体だったんじゃなかったのか?」

 当てずっぽうの理解が、深まった。

 「どうする…?」

 「あのおばあちゃんと、戦うのか?」

 「でも、嫌だな…。知らない人に、勝手にキスしていたもんなあ」

 「汚かったなあ…」

 変な汗が、出てきた。

 「戦うのか?」

 ヒビキが考え込んでいると、おばあちゃんの視線が、襲ってきた。

 「気付かれたのか?」

 ヒビキは、死の宣告に、おびえた。

 「あ!今度は、何を、はじめたんだ?」

 おばあちゃんは、懐あたりから小銭を出して、準備体操をおこなっていた。

 「やめろ!俺は、客じゃないぞ!」

 おばあちゃんが、立ち上がった。

 …と思いきや、ヒビキの前に現れた。

 「バカな!瞬間移動だと?」

 誰が見ても確実に、足が、震えていた。

 「…あんた」

 「お、俺?」

 「そうさ」

 「俺に、何か用なのか?」

 「用があるから、言っているんじゃないかね」

 「な…な…」

 「あんたは、小学生のガキだろう?」

 「…うん」

 「学校の宿題は、終わったのかい?」

 「ま…まだ」

 「そんな体たらくで、私の店にきたわけかい?」

 「ごめんよ、おばあちゃん」

 「だからガキだって、言っているのさ」

 「ごめん…なさい」

 「あんたねえ?このあたしをバカにしているんじゃないよ!しっかりやらなきゃあ、将来、あんたの小学校の先生みたいなレベルの大人に、なっちゃうんだからね?そうなっちゃたら、どうするんだい!それで、その先生に教わる子どもは、どうなっちゃうのかね?社会に出て何もできない大人が、生まれちゃうだけなんだよ!」

 そう言われて、観念せざるを得なかった。

悔しくて、涙が出てきた。

 「ごめんなさい」

 謝ると、おばあちゃんは、勝ち誇った顔を見せつけてきた。

 「よし…。物わかりが、良いじゃないか」

 「おばあちゃん?」

 「なんだい?」

 「どうか、叱ったりしないで、聞いて欲しいんだ!」

 涙が、止まらなかった。

 「なんだい?」

 「叱ったり、しない?」

 「ああ。叱ったりなんか、しないさ」

 「本当?」

 「…」

 「怒らないから、私に言って。ねえ、お願いよ。って言ったのに、男が正直にしゃべったらボコボコにしちゃう女の子じゃないんだよね?おばあちゃんは、そういう人じゃ、ないよね?」

 「ああ。そうさ」






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