第35話 反乱軍的な、曲調。それは、有楽町支部や、クルル支部との連携があったからなのだろうか?

 が、すぐにその目を、開けた。

 「駄菓子屋の思い!それがわからない大人には、絶対に、なっちゃダメだからな!」

 男の子が、強調してきたからだった。

 「…」

 ヒビキは、またも黙るしかなかった。

 「こんな知らない子に、ここまで言われるとはな。俺は、どうすれば良かったんだ?」

 動けなくなっていた。

 ヒビキの口が動きを再開しようとすればするほど、男の子の声が、けん制してきた。心がゆさぶられ始めたかと思えば、ぎゅっと、静止させられる恐怖が襲った。それは、得体の知れない影踏みゲームのよう、だった。

 「…」

 何度も、沈黙に縛られていた。

 「…」

 そこで、新しいことが、わかった。

 「現在、有楽町支部と連携をとって、あるアイデアを実行に移しつつある」

 男の子が、誇り高そうに言った。

 「何を、するんだ?」

 「限定営業を、するのさ」

 「限定営業だと?」

 駄菓子屋の営業論が、始まっていた。

 「この駄菓子屋教室の出現条件を、広げるんだ。誰かがつらくなったときに加えて、誰かをつらくさせてしまったような場合にも、駄菓子屋教室を出現させてやることにした」

 「それで、何が変わるんだ?」

 「データ上、おじさんの利用が、増える。これは、とっても良いことだ。大人が、駄菓子屋にやってきてくれるようになるだろう。これは、良いことだ。駄菓子屋教室の出現条件を、誰かをつらくさせてしまったような場合にも、広げる…。この条件は、おじさんにぴったりじゃあ、ないか」

 「皮肉だな」

 「社会に、おじさんの存在は、驚異だ。人の気持ちを考えられないで、平気で自慢話をしちゃったりするからね」

 「良く、言うよ」

 「それで、知らず知らずのうちに、相手を傷付けちゃう。気付けば、就職氷河期世代の子が、おじさんたちの目の前で泣いている」

 「それは、否定できない」

 「そのおじさんたちを、駄菓子屋教室にこさせて、ケアしてあげるんだ。社会をきれいにするためにも、おじさんたちの心をケアしてあげるんだよ。まわりの人が、生きていくのが嫌にならないようになる、良いきっかけ作りになるだろう」

 「…すっごい、皮肉営業だな」

 苦笑いの、ヒビキだった。

 そんな駄菓子屋だったが、駄菓子の提供方法が、変わっていたようだ。

 「1日の営業中、限定で5人分しか、駄菓子を提供しない」

 そんな計画が開始されそうになっていたらしいのだ。それは、レストランや居酒屋などでは良く聞いていた、このことに近かった。

 「1日限定食」

 …それが、駄菓子屋でも実行されるのだ。

 新しい事件の予感だった。

 「でも、さ。限定だけあって、ちょっとは、良いものだからね?」

 「良いもの?つまり、高価なものってことか?」

 そうヒビキが聞くと、笑われた。

 「わかっていないなあ」

 頭にも、きた。

 「でも、どうして、5人分だけなんだ?それはちょっと、少ないんじゃないのか?」

 今度はそう聞いてみると、男の子は、静かに、意味ありげに、ほほ笑んだ。

 「人の心理を、つきたかったからさ」

 ちょっとさみしい言い方、だった。

 駄菓子でなくても、普通なら、店というものは、客の大入りはうれしい悲鳴。だがそれも、客の入りが多すぎてしまえば、本当の悲鳴となってしまうものだった。

 駄菓子屋経営は、その点に、注目した。

 限定営業で、駄菓子屋おばちゃんを働かせすぎないようにしたのだ。

 だが、上手くいくのか?

 一時期に客が多すぎてしまえば、駄菓子屋のおばあちゃんなどは、腰を抜かしてしまうかも。

 「皆で一挙にきて、ガタガタ言ってんじゃないよ、この、あんぽんたん軍団が!」

 おばあちゃんと子どもたちの対立が、目に浮かぶようだった。

 駄菓子屋とおばあちゃんを幸せにしたいのなら、どうするべきだったのか?

 有楽町支部のアイデアが、これだった。

 「ハードルを設定して、それをクリアできたら、その日は営業終了です。お疲れさまでした!良く、がんばりましたね!と、すること」

 そうして駄菓子屋のモチベーションを上げて、おばあちゃんたちの心も、救おうというのだ。

 「そんなに都合良く、上手くいくのか?」

 そう聞くと男の子は、肩を落としてしまった。

 「まあ、絶妙なハードルかな?駄菓子屋に会いにいきたいと思う人が1日何人出るのかは、確実には、予想しがたいからね」

 くたびれるアイデア、だった。だが実際には、くたびれる感じではなくなった。

 …面白いことが、わかった。限定営業は、悪いアイデアでは、なかったのだ。

 「いつでも、開店している店」

 その店と、こんな店を比べるとする。

 「ある期間だけ開店している店。つまり、ある期間しか開店していない店」

 この比較が、勉強になった。

 すると、こんなことが言えてきたそうだ。

 「後者のほうが、希少価値を高められた」

 昼間ではなく、夜間しか店が開いていないとわかれば、どうなったか?

 「夜間にしか、やっていないのか?」

 「じゃあ、夜間にいこう!」

 その限定時間内だけを狙って、強烈に、店が愛されやすくなったのだ。

 「今だ!」

 子どもたちは、走った。

 「今でしか、駄菓子屋に会えないぞ!」

 そう思ってくれれば、合格。

 駄菓子屋の価値の、勝ち。

 「ヒビキ君、わかってきた?」

 「まあなあ」

 「だから、店を開けている時間は、限定が望ましいんだよね」

 そういう事情が、あったとは!

 「夜間であれば、仕事帰りの社会人が、駄菓子屋を訪れやすくなるだろうしね!」

 男の子が、こぶしを作っていた。

 「そうか…」

 「ふふ」

 「なるほどな。大人を駄菓子屋に呼ぶ方法にも、いろいろあったようだな!」

 「ふふ」

 「やるじゃないか!」

 「これは、クルル支部のアイデアだ」

 「夜間の限定駄菓子屋、か…」

 「子どもには、少し気の毒だったかな?」

 「良いんじゃないの?ヒビキ君?」

 夜間営業には、子どもたちにも、メリットがあったそうだ。大人がきて混み合いそうな夜間を避けて、夕方までにきてくれるようになり、夜更かししなくなるからだそうだ。

 「限定の、上手い使い方だな」

 「そうだろう、ヒビキ君?」

 それは、勇気も出る、反乱軍的な曲調だった。






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