第32話 ああ、バルバリシア様。新卒のヒヨコちゃん(大きな赤ちゃん)に、ついて。

 もっとも、うわさの段階にすぎず。

 男の子ですら、その者の姿を、はっきりとは見たことがなかったようだ。

 判明していたのは、名前のみ。

 「ヒビキ君?その裏ソサエティのリーダーの名前は、ね…」

 「何だ?」

 「裏駄菓子屋ソサエティのリーダーは、バルバリシアという名だと、いうことだよ。おそらくは、女性。わかっているのは、それくらいだ」

 男の子は、悔しそうに、口を閉じた。

 バルバリシアなる者をリーダーとした裏駄菓子屋ソサエティの改革は、男の子たちのソザエティにとって、大変、驚異になったという。

 裏駄菓子屋ソサエティの動きは、実に、的確だったという。

 「なあ」

 「なんだい、ヒビキ君?」

 「駄菓子屋の動きや改革というのも、難しいんだな」

 「そうさ。ビジネスの世界では、今、モノからコトへの流れが、顕著になってきているからねえ。その社会変化に居合わせられなければ、これからの駄菓子屋は、生き残れないと思うよ」

 男の子の口調は、さらに、真剣になった。

 「ずいぶんと、神妙なんだな。今度は、何だ?」

 「駄菓子の価値論に、戻る」

 「駄菓子の、価値…」

 「駄菓子屋ビジネスも、そう。駄菓子というモノの付加価値が相対的に低下しちゃっている一方で、僕たち客は、経験というコトにたいして、喜んで金を払うようになっていくだろうね。それにたいして駄菓子屋は、どうしていけば良いんだろうね?」

 「はあ?」

 「コンビニも、良い。あそこも、がんばっているからね」

 「コンビニ、ねえ…」

 「コンビニ駄菓子は、社会の変化に対応しようと、努力を重ねているよね?」

 「ああ」

 「コンビニ駄菓子の努力は、尊いよ。仕入れの見直し、食品ロスの廃絶。それから、包装道具についての、再考。少子高齢化などの社会の変化に合わせて、価値力を上げようとがんばっている」

 「…」

 「だが、問題は、ある。現実には、そのコンビニ駄菓子が、家庭ゴミの中に捨てられちゃっているんだからね。駄菓子を珍しいと感じて、大量購入。でも、買ったことを忘れていて、食べきれなくもなって、廃棄。最初から、食べる気がなかったんだろうね」

 「…」

 「悲しすぎる、現実さ」

 「…」

 「最悪なのは、ネット拡散か何かでの反応を狙ったりして駄菓子を購入する人が多いっていうこと。そういう人は、インスタ映えのために駄菓子を買うだけ」

 「…」

 「小さすぎる駄菓子には、納得してくれないこともある。じゃあ買うなって、言うのにな。結局駄菓子は、無視される。小さい子にも食べてもらえるように小さくしている駄菓子の努力が、裏目に出ちゃったわけだ。ひどい、話だねえ。店の人がノルマを課せられて必要以上に買っちゃったので捨てましたっていうことはないと、思いたいけれど…。どうだか。良くわからない社会だからな」

 「…」

 「ヒビキ君?なぜ、駄菓子が、残酷に扱われちゃうのかなあ?」

 「さあな…」

 「駄菓子のような珍しい食品のロスが発生しちゃう背景には、1つに、物流の問題があるといわれる」

 食品ロスの話にまでつながるとは、駄菓子も、壮大だった。

 駄菓子が一気に大量購入されるたびに、課題は残された。思いがけず営業時間内に売り切れてしまうと、店の人は、こう言われがちだった。

 「早く、補充しろ!売り上げがなくなっちゃうじゃないか!補充しろ!客に、珍しモノや、ある意味プレミア商品を提供できないくらいなら、余らせてでも補充しろ!最後は、捨ててしまえば良いから!」

 そんな残酷な考え方が起きていたと、いわれる。

 「困ったことだよ」

 男の子が、手を広げた。

 「じゃあ…」

 「じゃあヒビキ君は、どうするんだい?」 

 「駄菓子デーのような特別な日を、作る」

 「ふうん。でもさ。他人がつくったイベントに振り回されちゃって、他人と同じモノを絶対に買わなければならないということはないよね?それじゃあ、クリスマスケーキの悲劇に、なっちゃうよ。自分が食べたくなるタイミングで、駄菓子を手に入れられれば、良いはずなのにさ。同調論理。横並び理論、っていうものさ」

 「横並び理論?」

 「ああ。まわりがもっているからとかさ」

 「…まわりにならって、か」

 「みんなまわりが持っているから、私もほしい、とかさ」

 「でも、さ?」

 「なんだい?」

 「まわりに合わせようとしているわけだから、それはそれで良いんじゃないのか?」

 「そうかい?」

 「立派に、社会に同調しようとしているじゃあ、ないか!」

 「そうか。君は、そう思うか」

 「そりゃあ、そうだろうが」

 「しかしねえ…。皆が持っているから欲しいじゃあ、あまりに、せつないよ。意味も良くわからずに買い与えてしまっては、教育的な価値も出ないよ」

 「…」

 「迷惑な、だけかもな。そのうち流行が消えれば、せっかくの新駄菓子も、廃棄されかねない。ただゴミを増やすその考え方が正常だとは、思えないね」

 「…」

 「この駄菓子屋教室では、君にはまだまだ合格点を、あげられないね」

 「…」

 「ヒビキ君は、考え方が、幼いよ。皆がやっているからそれが良いという論理が成り立つのなら、悪いことも、なくならないね。もっともそれも、性悪説の論理に叶えばの、話だけれどね」

 「…」

 「ヒビキ君?何か、言い返せないのか?皆とコピーで社会に出ただけじゃあ、新卒のヒヨコちゃんたちになっちゃうぜ?それと、同じさ」

 「新卒の、ヒヨコちゃん?」

 「または、赤ちゃんという」

 「…」

 「いや、悪魔ちゃんの、間違いかな?」

 「あ…」

 「わかったのかい?自らの意見を育てられなくなって、駄菓子の闇に落ちた子たちだ。ああいう子は、駄菓子屋の神に、怒られるよなあ」

 「本物の赤ちゃんに、失礼かもな」

 「まあ、そう言うなって」

 「悪魔、か…」

 「ああ、悪魔だよ。今の社会を、見なよ?コピペの嵐となって、同じリクルートスーツで武装された集団が会社に入り、期待された能力を発揮してくれることなく会社を落ち込ませていく新卒一括採用の、大悲劇。それでいて、努力をした世代から、子ども手当などという駄菓子的な命を奪い、求人まで奪った。それでも、感謝ができない。僕たち私たちは、関係ないんでえ…。どんな教育を施されたら、そういう感覚になるんだ?駄菓子屋教室に、連れていきたいよな」

 「…ああ、悪魔だよな」

 「駄菓子屋教室の教えを施さなかったから、そうなっちゃったのかねえ?」

 「…」

 悲しかった。




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