10-4


「ハァッ!」

「グ、『草木の気持ちグリーン・ブルーム』……!」


 高速の拳がメブキさんを襲う。だけど直撃する瞬間に、ふわふわの綿花が間に合った。おかげで衝撃を吸収、ダメージは軽減出来たみたいだ。

 だけどメブキさんは殴り飛ばされてしまった。


「くぅっ。防御したのに……!」


 なんとか無事着地。だけど圧倒的な力を前に、メブキさんは顔を歪めている。


「な、何よあなたは!?」


 紫色のオーラの人が、今度はミクさんを狙う。

 今のミクさんは能力を封じられている。とてもじゃないけど太刀たち打ち出来ない。


「お、女に暴力振るうとか最っ低!ホント、男なんてどうしようもないわね!」


 それでもミクさんは、強気に刃向かっている。散々自分も暴力を振るったのに、今更な気がするけど。

 がしり。

 紫色のオーラの人は気にせず、胸の黒い玉――核の部分を掴んだ。


「ちょっ、やめ……セクハラ……」

「一つ、いいことを教えてやる」


 低く野太い声。紫色のオーラの人がしゃべった。


「アメーバにも様々な種類がいる。お前の差別的思考と違って、多様性に富んでいる」

「わ、私は……その」

「以上だ」


 ――グシャッ。

 拘束具ごと核が握り潰された。

 ミクさんの能力は完全に解除、元の普通の人間に戻った。


「あ……あ……」


 怯えるミクさんのことなどお構いなしに、紫色のオーラの人はイヤリングを奪い取る。そしてそれも握り潰した。


「……残りは我とお前達だけだな」


 紫色のオーラの人はフードを外し、こちらを見つめてくる。その顔は険しくて、光がない目をしていた。


「あ、あなたは何者で……どうして戦うんですか!」

「……」


 やっぱり答えてくれないか……。と思ったら、


「……そうだな、どうせこれで最後なのだ。お前達の問いに答えてやる」

「え……」


 ついに、自分のことを話してくれるらしい。

 やっとこの人の、謎に包まれていた正体が分かるんだ。


「我の名は人神ひとがみヒュウマ。そして我の望みは――」


 名前を名乗った瞬間、紫色のオーラの人――ヒュウマさんの体に何本もの血管が浮き上がる。血が激しく流れていて、真っ赤に光っていた。


「――人間の肉体、そのものの進化だ」

 ヒュウマさんの姿が消えた、と思った時にはもう目の前。オレとメブキさんに向けて、拳が振るわれる!


「『ジャンク組成ダー』!」

「『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 とっさにつぎはぎの盾と綿花を出す。けど、防ぎきれない!

 オレ達はまとめて吹っ飛ばされてしまった。


「これが我の能力、『心技体流シンギタイリュウ』。人間が持つ能力を極限まで高める技だ」


 どうりでただのパンチやキックが、必殺技級に強いわけだ。ヒュウマさんはずっと、自分の能力を発動させていた。だから簡単にオレ達の技が打ち破られていたんだ。

 それでもこの力の差はおかしいと思う。どうしてヒュウマさんは、こんなに強い能力を持っているんだ?


「ハッ!」


 回し蹴りがメブキさんを襲う。もう一度綿花を出して、ダメージを軽減しようとする……けど、間に合わない!さっきの戦いで、オーラを使い過ぎてしまったんだ!


「きゃあああっ!?」


 蹴り飛ばされたメブキさんが、どろの上を滑っていく。生身の左腕でガードしたせいで、大きなあざが出来ていた。


「フンッ!」

「ジャ、『ジャンク組成ダー』!」


 追撃しようとするヒュウマさんの前に立つ。オレはもう一度盾を作って、豪速パンチを防いだ。

 ベキベキベキベキッ……!

 だけど、すぐに壊れてしまいそう。守りながら修理をしているけど、全壊してしまう方が早そうだ。


「『草木の気持ちグリーン・ブルーム』……ッ!」


 メブキさんが残ったオーラを振り絞り、ツタ植物を生やす。オレの壊れかけの盾に絡まり、縛って崩れないようにしてくれる。

 よし。このまま防御しきるんだ……!


「……くっ」


 さすがにオレ達の合体技は破壊出来なかったみたいだ。ヒュウマさんは一旦後ろに退いた。


「二人合わせて、やっと……ってところか」

「しかもあたしの力、そろそろ限界なんだけど」


 今のオレ達に、ヒュウマさんを倒せる秘策はない。それに真っ向から力を比べたら、勝ち目はほぼゼロだ。

 だとしたら、残された手は一つ。戦いをやめるよう、交渉することだけだ。


「ヒュ、ヒュウマさんの願いは……人間そのものの進化なんですよね!?」

「……そうだ」

「だったら、争う理由なんてないはずです!」


 ヒュウマさんが語ったことの中で、それが一番引っ掛かっていた。

 他の候補者の願いはみんなバラバラだ。深海生物や微生物などの生き物から、魔法や超能力なんて特殊能力まで様々。特にオレとメブキさんなんて、機械と植物で正反対だ。もし全部の願いを叶えようとしたら、世界はちぐはぐになってしまう。

 でもヒュウマさんの場合、純粋に人間だけの力だ。他の願いとも共存出来るはず。例えば人間の力を強くしながら物作り、とかでもいい。争ってまで自分の意見を押し通す必要はないんだ。


「オレ達は戦うんじゃなくて、話し合って進化の行き先を決めたいんです!誰か一人の意見じゃなくて、みんなが納得出来る方法で……!」

「……」


 ヒュウマさんは黙ったままだ。


「か、神様はオレが説得します!争い以外の道を探したいって……平和に決めたいって!」

「……」


 オレの話を聞いて、受け入れようとしているのか。それとも、右の耳から左の耳へ抜けているだけなのか。


「もちろん、オレ達神様候補だけじゃない。世界中の人達の意見も聞いて――」

「本気で出来ると思っているのか?」


 ヒュウマさんが、オレの言葉をさえぎった。鼻で笑うみたいな、冷たい言い方だ。

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