第11話 魔王国の復興と地下迷宮の底
勇者を倒した三日後。
アミちゃんと仲間たちは、ウサコ村に向かった。
出迎えに集まった村長ガーリック以下、村人たちの表情は一様に困惑という感じだった。
「やあ、村長、こっちの仕事は片付いたぞ。ターハッカ帝国はわたしの領土になった。もう、心配することはないぞ」
「はあ、それは大変ありがたいのですが┅┅」
村長がそう言い淀んだとき、村の隅の方からわめき声が聞こえてきた。
「えええーい、誰かああ┅┅もっと食い物を持ってこおおい┅┅わしはターハッカ皇帝であるぞおお┅┅」
「毎日、あの調子でして┅┅村人たちも本物の皇帝なら、後でどんな仕打ちを受けるかと、びくびくして暮らしております」
「ああ┅┅そいつはすまなかったね┅┅」
アミちゃんはため息を吐いて声のする方へ向かった。
ターハッカ皇帝ヒーゼン・クローは、鉄の檻の中にあぐらをかいていた。裸の王様よろしく上半身裸で一見ドワーフのように見えた。
「意外に元気そうだな、ヒーゼン・クロー┅┅」
「き、貴様はアミルゲウス┅┅ぬおおおっ、きさまあああ┅┅」
元皇帝はひとしきりアミちゃんに向かって、恨み辛みを喚き散らした。
しかし、暑さとこの一週間ほどの生活の変化に体力が無くなっていたらしく、やがてゼーゼーと息を切らしてしゃべれなくなった。
「気がすんだかい?
じゃあ、こっちの話を聞いてもらうよ」
静かになったところで、アミちゃんは冷ややかな口調で言った。
「まず言っておくが、ターハッカ帝国はなくなった。今はソアマノヤ領ターハッカ公国だ」
「な、ば、馬鹿な┅┅そんな言葉には騙されんぞ、わしがいなくなったことが分かれば、ヤンや、マシーズたちが┅┅」
「ヤン・テオモはわたしが倒した。今頃、どこかの異世界で泣いてるかもな。マシーズは王城の地下牢に入れておいた。彼は今のところわたしの下で働くのは断っているが、かといって、お前に仕える気はもうないそうだ。まあ、彼の処分はお前の処分が決まった後で、ゆっくり考えるよ┅┅」
「┅┅そんな┅馬鹿なことが┅┅」
ヒーゼンはがっくりと肩を落としてうなだれながらつぶやいた。
「まあ、身から出たサビだね。
側近の貴族たちはあっさりこちら側に寝返ったよ。
お前って、ほんとに人望が無かったんだな。聞けば、王妃や息子も殺したそうじゃないか?馬鹿じゃねえ?
それで、側近たちに話し合わせて盟主を決めた。
ゴヒーノ・ワホソカって、ちょっときざなインテリっぽい奴、知ってるだろう?
そいつの名前で誓約書に貴族全員の署名を取った。ほら、これだ┅┅」
アミちゃんはそう言って、イシュタルから豪華な布に貼り付けた書状を受け取って、ヒーゼンの目の前に広げた。
そこには、ソアマノヤ国王アミルゲウスに忠誠を誓うという金文の下に、ゴヒーノ以下七名の署名とそれぞれの領地が書かれていた。
「領民のことは心配しなくていい。イシュタルが宰相として、常に目を光らせ、不正が無いように見張るからな。
さて、お前をどうするかだが┅┅」
アミちゃんはそこで言葉を切って、ヒーゼンを見つめた。
「お願いだ、助けてくれ┅┅二度と逆らったりしない┅┅命ばかりは、どうか┅┅」
ヒーゼンは煮え湯を飲む思いで頭を下げた。
「そんなことが出来ると思うか?
殺された何百、何千もの手下たち、犠牲になった領民たち、彼らの無念をどう晴らせばよいというのか┅┅
本来なら、見せしめのために公開処刑いうのがならわしだが┅┅」
「ひいい┅┅いやだ、助けてくれ、お願いだあああ┅┅」
もう、ヒーゼンは恥も外聞も無く、泣き震えながら鉄格子にしがみついて哀願した。
「まあ、はっきりいって、小便漏らしながら泣きわめく髭おやじが、殺されるのを見たって面白くもなんともないがね。
だから、お前には二度とその顔を見なくてすむように、サマ
じゃあ、グヒナ、すまないが、こいつをどこか適当な無人島に捨ててきてくれ」
「ふむ、せっかく暴れられると思って来たら、ゴミの始末か┅┅。
まあ、他でもないアミルの頼みだ、いいだろう」
エンシャントドラゴンの美女は竜の姿に戻ると、手下の竜に鉄の檻を抱えさせて飛び立っていった
元皇帝は何とも言えない顔でさめざめと涙を流しながら、やがて空の彼方へ消えていった。
こうして、戦後処理をしながら、アミちゃんは壊れた城の再建や領内の復興を進めていった。
やがて避難していた魔族の領民たちや部下たちも続々と各地から帰ってきた。
ターハッカ公国からの資金や人手の援助もあり、一年も待たずにソアマノヤ王国は元の姿に戻った。
さらに、マーバラの仲介もあって、アミちゃんはエルフの族長ザキ・ヤーミと会見、今後魔族とエルフは友好関係を結び、積極的に交流していくことを確認し合った。
「さて、国も元通りになったし、領土も広がったし、厄介な奴もいなくなった┅┅
しばらくは安心だな」
「御意。われも明日よりターハッカへ参り、宰相の任に着きたいと思います」
「そうか、苦労をかけてすまないが、よろしく頼む」
「わ、わが主、そのような┅┅うう┅┅このイシュタル、そのお言葉だけで命を賭けて務めを果たす覚悟ができましてございます」
(こいつ、ほんとに大げさな奴だな┅┅)
アミちゃんは苦笑しながら、ひざまづいた忠実な腹心の頭をポンポンと叩く。
それだけでも、イシュタルは感激して身もだえた。
「じゃあ、今日やるか┅┅」
「?┅我が主、いったい何を┅┅」
アミちゃんはそれには答えず、にっこり笑ってこう命じた。
「イシュタル、これから地下迷宮に行く。マーバラとフェルメールに入り口の前に集合するよう伝えてくれ」
「はっ。では呼んで参ります」
五分後、アミちゃん、イシュタル、マーバラ、フェルメールの四人は、地下迷宮の入り口の前に立っていた。(フェルメールは浮かんでいた)
入り口の扉は、先日ヤンに半分ほど壊された時のままになっていた。
「ミランダ、開けてくれ」
〝はいは~い〟
気の抜けるような声が洞窟内に響いた後、石の扉が真ん中からゆっくりと向こう側へ開いていく。
「じゃあ、行こうか。
フェルメール、一応天使のお前には魔力が強すぎるから、結界で覆ってやろう」
「ありがとうございます、ご主人様」
四人は迷宮を下へ下へと進んでいく。
「最深部に行くには、三回ほど転移しなければならないんだ。
そろそろ最初の転移魔方陣がある部屋に着くぞ」
〝はーい、魔王様スト~ップ。右の壁、開きま~す〟
新人ガイドのようなミランダの声とともに、四人の右側の岩の壁に丸い穴が出現する。
ウサギの姿のアミちゃんを先頭に、次々に穴の中に入っていく。
その部屋は狭く閉じた岩穴で、地面に青白く光る魔方陣があるだけだった。
「これは、侵入者がいても見つけられませんね」
マーバラが感心したように言った。
「そうだな。この階の下の階からは魔物が出るし、トラップも仕掛けてある。
まあ、ゆっくり攻略しながら最深部を目指せば、たどり着けないこともない。
ただし、百八層を突破するだけの実力と体力があればの話だがな┅┅。
それより不安なのがミランダの奴だ。
あいつが居眠りしたり、サボったりしていると、我々も転移魔方陣の部屋に閉じ込められることになる」
〝あー、失礼ですよ、魔王様。あたしだっておしおきは怖いですから、仕事はちゃんとやりますから〟
「ああ、しっかり頼むぞ」
こうして、アミちゃんたちは隠し部屋の転移魔方陣で三回転移を繰り返し、無事に最深部の手前の部屋にたどり着いた。
空間魔法でできた穴から出た四人は、広々として真っ直ぐに伸びた通路を奧へと進んでいく。
「天井が高いですね┅それに明るい┅┅光魔法ですか?」
「いや、ルクスタイトだよ。この辺りの岩には多量に含まれているんだ。
天井には結晶を集めてはめ込んである。魔力がある限り永遠に光続けるよ」
「すごい┅┅これだけ大量のルクスタイトは初めて見ますわ」
マーバラは周囲や天井を眺めながら、しきりに感心している。
やがて、前方に巨大な扉が見えてきた。ここが大迷宮の最深部だ。
「ここには守護獣を置こうかとも考えたけど、ヤンみたいな冒険者が生まれないとも限らないからね。結局、呪文で開けるようにしたんだ」
アミちゃんはそう言うと、扉の前に立って、解錠呪文を唱え始める。
「ウル、ハブラ、デル、カトラ┅┅」
やがて扉全体が淡い光を放ち始め、ゆっくりと扉が開いていく。
そこはさほど広くはなく、淡い光に満たされた部屋だった。
そして、その中央に白い宝玉の大きな台座があり、その上に高さ約二メートル、直径一メートル五十センチほどの、いびつなタマゴ型の赤い結晶のようなものが据えられていた。
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