そう言えば、新々生活
翌朝。と言っても、数時間しか寝ていない。
「蒼士殿、おはようございます」
「ん··ぉはっ! あ〜ビビったぁ、誰かと思ったわ」
そうだ。アルルとドラルとの生活が始まったんだった。
「驚かせて申し訳ありません。
「え、あぁ。ありがと。なぁ、ドラルって執事か何かだったの?」
丁寧な言葉遣いに、男の俺が見惚れるほどの美しい所作。そして、このお仕えされてる感。
「元々は。ヴィーラ家にお
「それがなんでまたあんなのと······」
「あんなの····?」
アルルを悪く言うのは厳禁らしい。怒らせると怖そうだから気をつけよう。
「いや、えーっと、じゃぁアルルは主人だったんだよな? よく結婚できたな」
「ふふ、それがきっかけで今ここにおります。どうぞ、魔法で着替えを用意しておきました。昨日伺っていた制服です」
「あぁ、ありがとうございます。えぇー····嫁殺されて異世界に来てんのに、なんか軽くないか?」
「そうですか? まぁ、慌てふためいたところで、どうにもなりませんからね。流れとアルルに身を任せてしまおうと、腹を
「なんか
「おーい、まだ食べてはいかんのかぁ?」
アルルが空腹らしい。ダイニングで机を叩きながら急かしてくる。いいご身分だ。
しかし、早く顔を見せないともっと
「やっと来たか! おはよう、蒼士」
我儘姫は今日も無駄に愛らしい。この笑顔に撃ち抜かれ、ドラルは片膝を着いた。いちいち大変そうだな。
「おはよう」
「なぁ、いい天気だしこの世界を案内してくれんか」
「ダメだ。俺は学校行くぞ」
「学校··だと? 何時に帰るのだ」
「んー、5時には帰れるかな。あれ? こっからどうやって行くんだ?」
そう言えば、現在地すら分からない。バタバタしていて、それどころじゃなかったからな。
「ふっふ〜ん。我が連れて行ってやろうか」
「いや、いい。来るな。家から出るな。幸いスマホと財布は無事だからな」
「おい、スマホとはなんだ?」
「帰ってきたら教えてやるよ。ドラル、アルルの事頼むな」
「かしこまりました」
よし、マップで調べながら学校へ行こう。思いの
学校まで1時間くらいかかりそうだ。余裕で遅刻じゃないか。
何とか学校に辿り着き、休み時間真っ只中の教室に入る。
「蒼士〜! おっせーよ。休みかと思ったわ」
「おぅ、
同級生の
先週まで少し長めの無造作ヘアーだったのだが、気分転換なのか短髪オールバックになっていた。
「あぁこれ? ちょっと兄貴に事故られた。それより、おばさん退院したんだろ? 良かったじゃん!」
拓哉の兄は美容院を経営している。まぁまぁの売れっ子美容師だった
俺はハッとした。慌ただしかったとは言え、親友にさえ連絡を一切取っていなかったのだ。
「あぁ、うん」
「どうしたんだよ」
「いや、それがな──」
俺は、幼稚園からの親友である拓哉に全てを打ち明けた。一人で抱えるには、少し疲れてしまったのだ。
「なんだよそれ。じゃぁおばさんは?」
いくらバカでも、素直に受け入れすぎだろ。どんだけ俺のこと信用してんだよ。
とは言えず、話を続ける。
「うん。アルルが自分の中に魂が
「一回会わせろよ。俺だって、おばさんのコト自分の親並みに知ってんだぜ? この休みの間、連絡もせずに心配させた罰だ。会わせろ」
「わ、わかったよ。んなら放課後、豪邸に案内しよう」
かくして放課後。新居である豪邸を見上げ、拓哉は口をあんぐり開け放った。
「なぁ、これ勝手に住んでていいのか?」
「なんかドラルが上手くやるって言ってたし、大丈夫なんじゃね?」
「へぇ〜····。よし、じゃ行くか」
そっと玄関を開け、恐る恐る覗き込む。いやに静かだ。
「ただい··ま······」
「おじゃましまー······す」
恐る恐る中へ入る。すると、2階から声が聞こえた。
「アルル! 待て! 服を着るんだ。髪も拭け。そろそろ蒼士が帰る──··おかえり」
「なんだ、帰ったのか。ん? そっちの小僧は誰だ」
風呂上がりのアルルが全裸で、階段の中腹辺りで
「服くらい着ろバカッ」
「裸を見たくらいで興奮するな、ガキめ」
「ぶっはは、あれかよ! めっちゃガキじゃん」
「誰がガキだ! 見よ!」
アルルはボンッと成長した。濡れた金髪がキラキラと揺らめいて、妙にいやさしさを増幅させる。
「うわ、すっげー! マジで魔法なの!?」
「どうだ、見たか。これが本来の我の姿だ」
「アルル! 他所の男の前でなんて事を!!」
「ハァ····。とりあえず紹介するわ。こいつ俺の親友の拓哉。で、裸なのがアルルで、追っかけてんのが旦那さんのドラル。とにかく茶、飲む?」
ダイニングで一通り話を終え、打ち解けた結果夕飯を共にした。アルルは満腹でうたた寝しているが、そんなのは放置で食後のコーヒーを飲む。
いや、拓哉はどんだけ馴染んでんだよ。
「ねぇねぇ、ドラルさんはアルルより強いの?」
「とんでもない。アルルは全生物最強と言っても過言ではない程強いのですよ」
「へぇ〜、じゃぁ夜の方は?」
「それはですねぇ〜」
ゴンッ──
「ぁいって!! 何すんだよ蒼士!」
「アホな事聞いてんなよ」
「ん゙ん゙っ··。私としたことが、アルルとの情事を口走るところでした」
アホには付き合ってられない。
「それよりさ、ちょっと問題ができたんだよ」
「三者面談だね、蒼士くん」
「そう、三者面談なんだよ」
「サンシャメンダン、とは?」
ドラルは首を傾げる。ざっくりと説明すると、掌に拳をポンと置いて合点のいった顔をした。ドラルは時々、身振り手振りがジジィくさい。
「なるほど。我が国にも学園にてそのようなものがありました。では、それにアルルが母君のフリをして参れば······参ればよろしいのですね」
「なんだよ、その
相当不安そうな顔を晒していたのだろう。それを察したドラルは、慌ててフォローする。
「アルルに任せておけば大丈夫ですよ」
「不安しかねーよ」
「蒼士よ······ガンバッ」
両拳を胸の前でグッと構え、要らぬ応援をしてくれる。完全に他人事だ。
「拓哉、お前ホント友達甲斐ねぇよな」
「失敬な! 俺もできることなら同席してやりてぇよ」
「面白がってるだけだろ。ったく。けど、マジでどうしたもんかな····」
困窮した俺を見て、ドラルが声をすぼめて言った。
「蒼士殿、その、アルルですが、打ち合わせさえすれば完璧にこなすと思いますので····。ですので、あまりご心配なさらず」
「打ち合わせ、ねぇ····」
「何の打ち合わせだ?」
起きてきたアルルが突然話に入る。俺は、面談の必要性と重要性を丁寧に
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