第20話 新たな真実
最近宮野達との走行会の頻度が増えた。
俺もそうだが光輝も多部の事が気に成り宮野も俺達の事を意識している。
そんな微妙な関係が引き寄せているかの様だ。
走行会は暴走族の集会とは違い信号も制限速度も守る。
勿論無免許も禁止。
ただ改造車数十台で連んで流す。
結局集団危険行為、立派な交通違反だが。
今日は8台の四輪、5台の二輪で走る。
そして今夜も宮野の車を走らせる。
宮野の車はクラウンロイヤルサルーンの改造車。
車高は低めで踏切や裏道に多い段差では下を擦らない様に斜めの角度から入ってローリングを切るように段をかわして行く。
俺達にとっては高級車の部類なので細かな配慮が必要だ。
ヘッドライトをポジョンにするとイルミネーションの様々な色がグラデーションの様に光る改造もされていて一際目立つ車両でも有る。
宮野が隣町のチームの頭という事も有り俺達が先頭を走る。
街道は低音を響かしながら突っ走り裏道はローリングを切りながら段をかわして数台が続く。
バックミラーに写る光の流線は天の川を想像させる様にキラキラと輝いている。
多部と宮野の事で胸が締め付けられる感じも有るのかヤケにセンチになってしまっている。
そんな俺に宮野がいよいよ禁断の話題に踏み込んできた。
「なぁアキオ…」
「何?」
俺は嫌な予感がした。
「アキオは彼女とか誰か好きなやつ居るの?」
三多摩で恐れられている不良とは思えないドギマギした感じで聞いてきた。
とうとう来たか…
なんて答えよう。
余計な事は言いたく無いが、ある程度は知っているだろうから嘘をついて信頼を失うのは得策では無い。
でもこの質問、今なら上手く答えられる。
「好きかな、と思う娘は居るよ」
しばしの間が空く。
「地元?」
宮野は俺の多部に対する気持ちを知りたいのが見え見えだ。
「いや違うよ、仕事終わりに良く飲みに行くお店の娘」
俺は実際に好きな娘と聞かれて多部の次に思い浮かんだ麻里恵の事を伝えた。
「へぇ〜」
あからさまに嬉しそうで安堵の反応だ。
「どんな娘?」
多少興味はあるのか更に真実味を持ちたいのかは微妙だが宮野は麻里恵の事を聞いてきた。
「クラブに勤めているんだけど全然軽い感じでは無く、母親一人に育てられていてこれ以上負担を掛けたく無いからと学費を自分で稼いでる、何か一生懸命な娘だよ」
俺は麻里恵の顔を浮かべながら思いにふける様に話した。
「へぇ〜、それ聞いただけでもいい娘なんだろうなぁと伝わってくるよ」
そんな宮野の言葉は何故か凄く嬉し思えた。
運命の人だと思うほど好きだった多部を奪っていく相手なのに、俺が多部の事を完全に諦めて他の人に流れて行くのを一番願っている相手なのに、俺の相手がどんな娘であろうと彼にとっては単に安堵としてくれる人というだけなはずなのに、何故か…
俺はこのモヤモヤした気持ちを払拭する為に攻勢に入った。
「宮野の方はどうなの?」
俺は運転する車の前方を集中し、一切宮野の方を振り返らずサラッと聞いた。
「俺?」
宮野は何と答えるべきか間を稼いで考えている様だ。
宮野は何と答えるんだろう。
マフラーの響きしか聞こえない車内で宮野の言葉を待った。
30秒は沈黙の間が続いただろう。
重々しい宮野の口からは意外な言葉が聞こえてきた。
「俺の好きな人は後残り少ない時間しか無いから…」
「えっ!」
俺は思わず宮野の顔を覗き込んだ。
そこにはいつものイケイケなオーラは全く無くむしろ不運を背負った悲壮感漂う弱々しささえ感じる宮野の姿が映った。
そしてその瞬間! 新たな事件がこ起きてしまった。
「うわっ!」
と思わず叫ぶのと同時に俺は急ブレーキを踏んだ。
しかし時すでに遅し。
突然道路沿いの建物から飛び出して来た黒塗りの車に横から突っ込まれてしまった。
ガシャーン!という音の後暫くの沈黙を掻き消す怒号が飛んだ,
「オラァ、何してくれとんだぁ」
声の主はあからさまにあちらの方だ。
その怒号と共に俺らの車に蹴りが入る。
するといつの間にか車外に飛び出た宮野の鉄拳が輩に飛んでいる。
みるみるうちに相手の顔が変形していく程に怒涛のパンチが放物線を描いている。
流石にヤバいと感じた俺は車を飛び出て宮野を抑える。
「もう止めよう」
必死に止める俺をよそに宮野は止まらない。
このままでは相手を殺してしまうとリアルに感じた瞬間、ドスンという音と共に宮野が飛んでいった。
「えっ!」
何が起きたか分からない状況を必死に冷静に成り見渡すとビルの階段から飛び蹴りを食らわす新たな輩が。
それどころか次から次へとビルの非常階段からめちゃ怖そうな人達が向かってくる。
「殺される」
と天を仰いだ瞬間、後ろから津波の様な流れが相手を飲み込んで行く。
仲間達だ。
次から次へと怖い兄さん方を薙ぎ倒して行く。
勿論本職の人達はかなり腕っ節が立つと思うが圧倒的数の差には敵わなかった様だ。
あっという間に兄さん方は地べたに転がり仲間達の拳には赤い血が滴っていた。
そして皆、敵を叩きのめした歓喜を持ちながらその場を去っていった。
極道に手を挙げてそのまま終わるはずがない事を知る由も無く。
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