第13話 人生の総決算

懐かしいマフラーの音が近づいてくる。


そして住宅街に入ったであろうという所でその音は消え、シュルシュルと静かに物体がやって来て家の前でキッというブレーキ音で止まった。


俺は既に家の前に出ている。


「おう、アキオ準備万端だな」

光輝は引き締まった顔をしていた。


「光輝、本当に有難う!」

俺はまた涙が出そうになる。


「今日は俺らにとっては人生の区切りの晴れ舞台だ! シケた顔してんなよ」

と笑いながら親指を後部座席に向けて乗れと合図を貰う。


俺は三段シートの後ろに跨りテールを握りしめた。


「オーケー光輝」


「よし!行くか」

光輝はゆっくりとクラッチを緩め静かに車体を動かした。


住宅街を抜けるとシフトダウンをして加速。

相変わらず機敏な動きで裏道を抜けていく。

すると川沿いに入った瞬間、パトカーと出会わした。


ヤバい、と俺は身を構える。


すると光輝は

「多分大丈夫」

と何事も無いように静かに横を通り過ぎていく。


「何で?」

いつもで有ればUターンをして勢いよく追いかけてくるはずなのに。


「今日の解散式は地元警察にも情報をあげているので暗黙の了解を貰っているんだよ、勿論あからさまな違反をすれば彼らは見逃さないけどな」


何でも集団走行は道交法で禁じられているが「道路使用許可制度」という特例が有るらしく事前に警察に申請をすれば集団走行等も許可されるらしい。


勿論本来暴走行為が認められる訳では無いが、今までの歴史で警察と地元の暴走族が行き過ぎたイザコザを収める為にも引退して真っ当な社会人として旅立つ為の儀式である解散式だけは目をつぶる方法として決められたものらしい。


そう言えばいつもはノーヘルだったが今日は半キャップを光輝に渡されて被っていた。


懐かしい集合場所に着くと文也、成也の他にも宮地、和人、菊池、橋田、早瀬等懐かしい面々が勢揃いしていた。


「よう!アキオ久しぶり!」

集合場所に到着すると文也が最初に声をかけてくれた。


「文也久しぶり!皆んなも久しぶり‼︎」


目頭が熱くなるのを感じながら皆に声を掛けると既に泣いている菊池が駆け寄って来た。


「アキオ君!お久しぶりです!」

その姿を見た瞬間、更に涙腺を刺激される。


「あれ以来音沙汰なくてすいませんでした」


涙を流しながら深々と頭を下げる菊池の攻撃でとうとう涙腺が崩壊した。


「菊池!俺の方こそ何もしてやれなくてごめん」

彼の肩を揺らしながら皆に涙を見られない様に俺も頭を下げた。


「おいおい、こんな場で二人してみっともないぞ!」

呆れ顔で光輝から怒られてしまった。


我に帰り久しぶりに会った宮地や成也とも固い握手で再会を喜んだ。


「おいアキオ、青山君の所へ挨拶に行くぞ」

光輝に連れられて北町が溜まっている場所に向かった。


奥の北町グループがたむろする場所に着くと、一際強いオーラを放つ青山先輩が中央に構えて談笑している。

オーラは相変わらずだが少し穏やかな雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。


緊張しながら俺は青山先輩に声を掛けた。


「晩わっす、ご無沙汰してます青山君」

すると目を見開いた青山先輩が振り返り俺の顔を認識した。


「おー!アキオ!!久しぶり、元気にやってるか?」

想定外に優しい声を掛けて貰えた。


「元気です!こんな俺を大切な会に呼んで頂き有難うございます」

俺は直立不動で深々と頭を下げた。


すると横から冷ややかな声が飛んできた。

「何だ、テメー、よくノコノコ顔出せたな」

声の主は金山先輩だった。

すかさず俺は「ご無沙汰しています!金山君」と同様に深々と頭を下げた。


「金山!」

と青山先輩の檄が飛ぶ。


「チッ」と舌打ちし、あからさまに面白く無さそうな態度ではあったがそれ以上は何も言わなかった。


「いや、途中で辞めて行った奴らは現役中は付き合わないのが俺らの掟の様なもんだったけど今回は特別だったからな」


と青山先輩は意味深な言葉を放った。


「何かあったんですか?」

俺が不思議そうに聞くと


「歴史を変えた奴がいるから」とより意味深な言葉を言われた。


「どういう事ですか?」

更に分からなくなり聞き返すと


「その輩がアキオ、お前なんだよ」


「えっ?」

何を言われているのか全く分からない。


「実は今日の解散式は俺らのチーム単独では無く荒川連合と合同でやる事になったんだ」


「えっ?あの敵対している荒川連合とですか? 何で?」


「アキオ!お前がそうさせたんだよ」


「えー?!」


聞くところによると以前抗争の時に逃した中学生が荒川連合の頭を兄貴から継ぎ彼の方針の元、数十年来敵対チームであった関東連合と手を組みたいと頭を下げて嘆願してきたという。


キッカケはあの事件だった。


自分の弱い心で中学生を逃してしまった結果がまさかこんな事態になっているとは想像も付かなかった。


「正直俺もアキオのやった行動はチームとしては許されない事だが人としては正しい選択だったんだと本心は思っていたんだ」


意外な事を青山先輩から聞いた。


ただ歴史的に、更には俺らのしきたり的にも甘い顔を見せられないとアキオを辞めさせたんだ。


俺はその言葉を聞き愕然とした。


もう一つ、アキオの様な純粋な奴は俺らの環境にいて汚れていってはイケナイと思ったのもあるんだけどな」


あの青山先輩の発言とは思えない内容に俺は頭がパニックになった。


「いや、で、でも」

と吃りながら言葉が出ない。


「俺も青山君から話を聞いて驚いたよ」

光輝が助け舟の言葉をかけてくれた。


俺は今までの葛藤もあり、またもや胸から何かが流れ出てくる様に目から涙が溢れてくる。


「こんな俺を、そんな風に言って頂き有難うございます」


「何泣いてんだよ、アキオ!やっぱ情けねえなぁ」

と嫌み半分、愛嬌半分で金山先輩が言うと何故か周囲の空気が変わり皆んな笑いだした。


つられて俺も半泣き状態で笑いが止まらなくなっていた。


「まぁ、兎に角荒川連合とうちが組めば東京、いや関東、いやいや、全国で頂点取れるかもしれないからな」


「情けないアキオの大金星だ」

青山先輩が満面の笑みで言ってくれる。


「有難うございます」

俺は暫く頭を下げ続けた。


「よし!これ以上シケない様にそろそろ出張るか!」

そう言うと青山先輩は立ち上がり

「よーし!お前ら行くぞー」と号令を掛けると一斉にセルの音が鳴り爆音が鳴り響いた。


俺と光輝は桜町のグループに急いで合流しバイクに飛び乗りスタートを待った。


青山先輩が今日のルートと役割をバイクに跨りながら説明すると指を高々とあげて一気に幹線道路に飛び立った。


続々とチームの奴らが後に続き俺らもそれを追った。


俺の人生で色々と苦しんだこの数年の総決算がこんなにも最高の結果を産んでいたとは想像も出来なかった。


最高の幸せを風を纏いながら非現実の中感じていた。


現実の中のみゆきの事を忘れながら。

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