第6話インテルメッツォ-6 銃声/獣性

「何の、つもりだ……」

 滲み出るような呟きが、男の口から溢れ落ちる。

 男は、答えを返すことが出来なかった。

 少女の放った、殺意とも呼べない稚気ちきの如き戯れ。

 そんな愚にもつかない慰みに、意図せぬ行動を取らされた挙げ句。

 を口にさせられる羽目に陥った。

 遊びに等しい巫山戯たふざけた一打。

 重みのない、想いも込めずに軽く打たれたその一手。

 ただ、その一発だけで。

 男に言わせる前に、何も言わせる事なく打ち消した。

 少女にとって取るに足らない戯れ事が、男の意志を意図せぬ言葉で上書きさせた。

 そのは男の眉間を正確に捉えたまま、進むことなく動けない。

 前髪に触れ焦がす寸前に、くうに囚われ縫い止められた。

 掌を相手に向けた中指と人差し指、そのはざまに挟まれ絡め取られた鈍い輝き。

 人を殺せる形をもった悪戯心。

 銃の、弾丸だ。

 それは近年発明されたばかりの新たな武器種。

 事の起こりは錬金術師が基本となる素材を創り出し、基礎理論を構築したことから全ては始まる。

 そこに目を付けた兵法家が利用価値見出し、研究資金を提供し、活用方法を編み出した。

 そして既存の技術の進歩と知識の習熟に限界を感じていた鍛冶職人に依頼が回り、彼らは意気揚揚と新たな技術の確立に尽力した。

 その結果、拙いながらも製造法は開発され、不手際も多々あったが生産体制も整えられた。

 そうして空論と空想は形を成して、新たな時代の兵器として現実に現れた。

 三者三様の思想と思慮と思惑が絡み合い結び付き誕生した、

 戦場いくさばに産み落とされた、戦争と戦闘の忌み子。

 殺すことで新たな時代を創リ出そうとする、盾も鎧も撃ち抜く矛盾の産物。

 そこまで辿り着く過程において、新たな時代の到来にも己の道を貫いた者達がどうなっていったのか。

 いかなる話にも耳を貸さなかった者、どれだけの報酬を積まれても意に沿うことのなかった者、あるいは時代の潮流に抵抗し、翻意ほんいを示そうとした者達。

 彼らは皆、古い世代の遺物と見做され時代の隅に追いやられ、取り残され、振り落とされていった。

 若しくもしくはただ時間ときと共に錆びついていくを良しとせず、己の誇りに殉じた者も少なくはなかった。

 しかしそんな落伍者達の末路など一顧だにされることはなく、一度公開されてしまったはその利便性によって瞬く間に注目を集め、普及の兆しを見せ始めていた。

 特に、暴力を生業とし命を奪うことを糧とする者達のあいだでは。

 現段階ではまだ展途上の技術であり、それにより性能面おいても改善点が多く、需要と供給の釣り合いも安定していない。

 何より銃本体が非常に高価であり、それに付随する弾丸や炸薬といった装備類も総じて高額だ。

 そのため現状、銃を持つことが出来るのは限られた一部の者だけだ。

 それでも本質的な価値を見抜く者、後々の将来性に期待する者、己の欲望を満足させる為なら金に糸目をつけぬ者。

 そういった一部の限られた者達の手によって技術の発展に寄与しつつ、葬儀屋の利益にも貢献していた。

 まさしく錬金術師の本領、その功罪の象徴だった。

 しかし人間は拳から棍棒、棍棒から刀剣、刀剣から長槍、長槍から弓矢へと、如何に主眼において、使用する武器を進化させてきた。

 いつか必ず、命の値段が飴玉程度と等価になる日が訪れる。

 そのときには誰も彼もが花を摘むような手軽さで、指先ひとつで人間の命を摘んでいくだろう。

 今ですら「」として巷でちまたで大評判なのだから。

 そんな背景を持つ武器を手にすることに、少女が何の逡巡も感慨も覚えなかったであろうことを、男は容易に想像出来た。

 それを自分に向けて引き鉄をひくことに、少女は何の躊躇も感傷も感じることは無かったに違いないと、男には自然と苦もなく確信出来た。

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