第11話 『紅龍の牙』団長視点 王都パレードを終えて②

 何処の誰かもわかんねえ冒険者共からの白い眼差しが痛え。

 主に俺に白い眼差しが向けられてるようだが、納得いかねえな。

 権力もったらハーレムだろ。それが男の甲斐性ってなもんだ。


「お前らぁ~、クランの話を盗み聞きしてんじゃねえぞぉ。殺すぞっ、さっさと向こうに行きやがれ」

 

 流石、脳筋バリバリのゼミラの威圧の言葉だ。

 しょぼいパーティの奴らは、蜘蛛の子を散らすように逃げて行きやがる。

 つったってりゃぁ、美人な女なんだが、中身がこれじゃぁ夫になる奴は、苦労するだろうな。


「おいおい、ゲオル団長。それと、ゼミラ嬢ちゃん。折角持ち直したクランの評判なんだぜ。それを再び下げるような行動は控えてくれねえか」


 また、俺達の会話に横槍を入れてくる奴がきたぜ。

 此奴とあと2人の団員には、頭が上がらねぇんだけどなぁ。 

『紅龍の牙』クラン副団長──ボルクワール。それが此奴の名前だ。

 歳は48歳で俺より年上だが、この年になると2~3歳の年の差なんて、もう関係ねえよな。

 職業は、特殊職業である『拳闘将』。

 打撃系の攻撃に優れた前衛タイプの職業で、クラン内で争い事が起きたら、力で押さえつけてボコボコに痛めつけるのが此奴の趣味というか生きがいらしい。

 

「すまねぇな、ボルク。この馬鹿娘も遠征前に緊張してんだろ。後で俺からよく言い聞かせておくから、勘弁してくれ」


「俺は緊張なんざするか。家族の日常会話をしてただけじゃねぇか」


 ゼミラがどでけえ声で喚く。

 リスタは馬鹿を見るような目でゼミラを見下し、ゼミラに向かって話した。


「馬鹿姉は五月蝿すぎ。もう黙って」


「なんだとぉ、また泣かされてぇのか」


 顔色を赤く染めたゼミラは怒り心頭のようだ。


「馬鹿姉に何度も負け続けるボクじゃない。今日こそ勝つ!!みてて!!」


 リスタは、何やら物騒な武器を懐から取り出した。

 ゼミラも、腰に指している鞘の剣を構え....。


「やめねえか、ゼミラ、リスタ。クラン幹部の自覚はどうした。そもそも幹部同士が喧嘩をしてどうする。遠征を前に気が高ぶるのは俺達みんな一緒だ。お前ら2人とも、団員達の模範になるように、どっしり構えてなきゃいけねえ地位にいるんだからな。分かってんのか」


 流石に姉妹同士の喧嘩は捨て置けなかったから、俺は2人を叱りつけた。

 2人が人前で怒られるのが嫌なのは知っている。

 だから敢えて人前で叱りつけてやったんだ。

 効果は抜群。2人共に武器を引くと、嫌々そうに姿勢を正し俺の方に向き直る。


「それとゼミラ、俺の側にいるのもいいが、オメエは隊長の役職も兼ねてるんだぞ。自分の受け持つ隊の様子ぐらい常に気を配るようにしとけっ。副官に全てを押し付けるんじゃねえぞ。隊員達の命を預かるのが隊長だ。分かったら、さっさと自分が受け持つ団員達に声を掛けに行くんだな」 


「うるせぇ、駄目親父。テメェもいつまでも眉間に皺を寄せて悩んでんじゃねぇ。少しは私を頼れよな。じゃぁな、駄目糞親父」


 そう言い残したゼミラは、自分の受け持つ小隊の方角に足を向けて離れていった。


「ゼミラ嬢ちゃんなりに、団長のことを心配してるようだな」


「んなことは解ってるさ。だが時と場所を選べってこった」


「そりゃぁ、もっともだ」


「リスタ、済まないが遮音結界を張ってくれないか」


「了解、駄目親父」


「リスタ、お前もか。遠征中にその呼び名はよしてくれないか」


 普段ならかまやしねえが、今は団員達が側にいるんだぜ。

 畜生、やっぱり団員達からも白い目で見られてるじゃねぇかよ。

 そこっ隠れて「鬼畜」とか呟いてんじゃねぇ。


「無理。ボクの身体目当てに押し倒そうとしてくる親父は馬鹿親父で十分」


「あれは冗談だって言ってるだろ」


「違う。嫌がるボクの洋服、全部脱がそうとしてた」


「あれは芝居だって」


「目が本気だったし、酔っ払ってた」


「酔ってねぇって、ほんの少し引っ掛けただけだぜ」


「駄目親父のち○ぽを、ボクに自慢そうに見せてた」


「......あれは物の弾みで....」


「おい、団長。自分の娘にそれはないんじゃねぇか」


「しかも、触ってみろって言ってきた」


「......団長....やりすぎだ」


「.....すまん...もうしない...」


「リスタ嬢ちゃん。団長は、酒がからっきしなんだ。解ってるだろ。だから次からは、酔っ払った団長の側に近づかないようにしろ。いいな、嬢ちゃん」


「解った。もう近づかない」


「団長も自分の娘を押し倒すのは、もう、すんじゃねぇぞ」


「わぁ~ったよ。なんだよその目は。もうしねぇって言ってんだろ。そんな目で見んなよ」


「駄目親父、遮音結界が完成した」

 

 リスタを中心に展開した円状の結界が見えた。

 此奴が歩くのと同時に結界も移動する様に成っている。 


「は~ぁ、遠征中にする話しじゃねぇだろ。そいで団長、遮音結界まで準備して何の話するんだ」


「ああ、そうだった。期待の新人に関して報告してくれないか。王国との交渉の結果、俺にまだ報告してねぇだろ」


「ああ、その話か」


「王宮殿に立ち入り禁止命令が出てる団長は知らなかったな。済まねぇな。いま報告するぜ」


 糞っ、いちいち話す言葉が一言多いぜ。

 たくよっ。嫌味を言わずに報告してくれや。

 精霊宮殿で、ユリシュの側使いの女を、何人か摘み食いしたのがバレちまって、精霊宮殿以外は立ち入り禁止になっただけじゃねぇか。


「交渉チームの報告によれば、王国と交渉したが向こうさんからの反応は最悪だったそうだぜ。向こうの言い分じゃ、あの新人を使い捨てにするのは、許可できないとよ。あの新人は、王国でも重要な仕事を担ってるようだぜ。俺等の駒として前線に放り込むのも許可出来ないって言われたそうだ」


「そうか、まあ、それならそれで、自分から戦場にいくように仕向けるように工作するか」


「団長、王国に決定に逆らうことになるがいいのかよ。リスタ嬢ちゃんが立てた綱渡りのような作戦が上手くいくとも思えねぇが……」


 ボルクの言い分に俺は反論した。


「もう、その件については散々話し合っただろ。3年前に俺の親父達が挑戦して全滅した此のクエストは、生半端な作戦じゃあ達成出来ないレベルのクエストなんだぞ。……それは分かってんだろ」


 俺達が受けたクエストは、3年前に前団長である俺の親父と当時の主力メンバーである多くの優秀な団員達が戦い挑み、物の見事に敗北......参加メンバーが全滅して最悪の状況を生み出した悪夢のクエスト──。


『紅龍の牙』クランにとっては、浅からぬ因縁があるクエストなんだ。


 親父達を皆殺しにした元凶は、今も悠々と生きながらえていやがる。

 今回は長年の積もり積もった恨みを晴らす千載一遇のチャンスなんだ。

 今回の大規模レイドの機会をみすみす、指をしゅぶって眺めてる気は毛頭ないってのが、俺の考えでもあるし『紅龍の牙』クランの総意でもあるんだ。


「僕の作戦にケチをつけても、もう遅い。それに『紅龍の牙』だけで、普通に討伐しようとしても絶対無理。結局最後は、誰かの尊い犠牲が必要。それが、あの亀ちゃんになるだけの話し」


 リスタがボルクに向かって反論したが、その表情の瞳は潤んでやがるし頬は少し赤い。


「別にケチつけてる訳じゃねぇぞ。もう少し慎重になれって言いたいだけだ。リスタ嬢ちゃんも何もそんなに怒らなくてもいいじゃねぇか」


 ボルクは、リスタのことを全然解っちゃいないな。

 この表情は怒ってる顔じゃねぇと俺は思うぜ。

 俺にはどうしても、リスタの表情が恋する女の顔にみえちまう。

 親の感では、ボクっ子のリスタは、おそらくあの亀野郎のことを少なからず慕ってるんじゃねぇかと予想してんだが.......まあ、実際のところはわかんねぇ。あくまで親の感だ。


「ボクの作戦に抜かりはないもん。絶対上手くいくはず。多分....きっと....おそらく...僕も....うふふふふ」


 腹を割って話し合おうとしても、リスタは頑なに否定しやがるからなぁ。

 だが、否定すると、ますます怪しく感じるんだぜ。

 そもそもリスタは大の人見知りなんだ。

 リスタと気兼ねなく話せる奴は、クラン内にはほんの数人しかいない。

 未だに一般団員達とは、全く話してる姿なんか見たこともねえのによ。

 そんなリスタが、あの亀野郎とすぐに打ち解けやがったからな。

 亀野郎との間に、何があったのかは知らねぇが....きっと何かがあったんだろうぜ。

 此奴の心の中ではよ。

 もしかして、リスタの遅咲きの初恋ってやつかもしれねえ。

 恋愛に関してはお花畑のリスタは、きっと、乙女小説の読みすぎで頭がいかれちまったのかも。

 有りうる話だ。

 今回は、好きな奴との一緒に死ぬ夢でも憧れてんじゃねえのか。

 此奴のキャラだと、悲劇のヒロインに憧れていても可笑しくない。

 何せリスタは、大の夢想大好きっ子だからな。

 何考えてんだか解んねぇが、時間があると、いつもニヤついて呆けていやがるんだ。

 多分、遠征に無理やり付いてきたのも、あの亀野郎と一緒に死ぬ気なんじゃねぇかと睨んでるが…。

 そこまで妄想病が進行してねぇと信じてやりたい気持ちもあるが、これまでのリスタの行動からすると信じられねぇんだよなぁ。

 こんな作戦で大事な娘は死なせたくねぇし、馬鹿な考えも捨てさせなきゃいけねぇし。

 全く、面倒なことこの上ねえぇぜ。


「リスタ、お前の立てた作戦はいつも成功してんだ。不安そうにしてんじゃねぇよ。今度も上手くいく。だからどっしり構えてろ」


 死ぬのは、年老いていく俺達の役目だからなぁ。

 若い奴らを何としても、生かして地上の土を踏めるようにしてやらんと。

 今回のクエストは、俺にとっても最後の舞台だ。

 精々、娘達にいいところを見せてから、華々しく散ってやるとするか。


「おい、団長。どうやら転移魔法陣の場所についたみたいだぜ」


 話しながら進んでいたら、ようやく転移陣の広場に辿り着いたようだ。

 ゲートタワーの奥に進んだ空間には、壁中に細かな魔術刻印が掘られている。

 中央に進んでいく奴らは、光の御柱を立ち昇らせて、次々に転移していく。


「ああ、どうやらそのようだな。続きは安全地帯についてから、また話すとするか」

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