52日目 フレキシブルリード(犬用)
伸ばされて、目が覚めた。
あれだ。
擬音にするなら、ばしゅーん、みたいな。しゅぱーん、でもいい。
びよーんではなくばしゅーん。バネではなく、巻き取っていたものが一気に引かれて伸ばされるような感覚。
「ワン!」
聞こえてきたのは、動物の吠える音。
や、この音だったら、十中八九で犬だろうけど、さ。
目を開く。
最初に飛び込んできたのは、きれいに生え揃った芝生の地面。
次に見えたのは、大きく横に揺れる茶色い尻尾。
俺は犬の首のところでくくりつけられており、本体(?)の側を人間に――飼い主に持たれているようだ。
間違えようもない。今日の俺は、首輪につながったリードである。
しかも伸び縮むする奴。今も、犬が走り回るたびにあっちへ伸ばされこっちへ伸ばされ、大忙しである。や、俺は特に何もしてないわけだけれど。
にしても……リード……リードかあ。
せめて神様についてる首輪だったら、どうにかしようがあるものを。
俺をこんな目に遭わせた神様に怨みをぶつけるまでは、まだまだかかりそうだ。
ま、でも、機械が続かなくてよかった。
昨日のルンバはやばかった。なんで思考の枠まで体に規定されなきゃいけないんだ。
アレが何日も続いたら、さすがにそのうち気が狂うと思った。
さて。にしても、この犬、活発である。
犬種とかはちょっとよくわからないけれど、中型くらいのサイズだと思う。それが、芝生の上をあっちに行ったりこっちに行ったり。広い公園か何かに散歩に出かけられてはしゃいでるのだろう。俺としては揺らされたり伸ばされたりするだけだから、別にいいけど。
「あっ、タロウ! そっちはダメ!」
犬の名はタロウくんと言うらしい。何かを見つけたらしく、一目散に駆けていく。
彼の視線の先を見るには、俺の体の伸びる延長線上を見ればよい。見ると――別の犬がいた。
何? 喧嘩するの?
それともいぬだっちしたいの?
どちらにせよ、タロウくんが視線の先のあの娘とランデブーすることは叶わない。
飼い主が、俺の体のボタンを押したからだ。
どうやらブレーキボタンらしい。最近のリードは便利なんだね。さっきまで自由自在に伸び縮みしていた俺の体の長さが、途端に不変になる。駆けているタロウも引っ張られ、飼い主は踏ん張り、力比べの様相。
「タロウ! こっち戻ってきなさい!」
渋っていたタロウくんだったが、飼い主がおやつをチラつかせると、折れて足元にすり寄ってきた。賢いなあ。
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